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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

星出彰彦宇宙飛行士

星出宇宙飛行士、9月5日の船外活動に向けた準備を実施中(2012年9月 3日)

8月30日、船外活動を実施中の星出宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)

8月30日、船外活動を実施中の星出宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)

星出宇宙飛行士は、現在、9月5日の船外活動に向けた準備作業を中心に行いながら、国際宇宙ステーション(ISS)で過ごしています。

8月30日に船外活動が実施されましたが、主要なタスクである電力切替装置(Main Bus Switching Unit: MBSU)の交換作業が完了しなかったため、日本時間9月5日午後8時15分から、再び星出、サニータ・ウィリアムズ両宇宙飛行士による船外活動(US EVA19)が実施される予定です。

船外活動の翌日の8月31日、船外活動を担当した星出、ウィリアムズ両宇宙飛行士、および船内からふたりを支援したジョセフ・アカバ宇宙飛行士は、休息する時間が与えられ、通常より1時間遅く起床しました。

この日、星出宇宙飛行士は、ウィリアムズ、アカバ両宇宙飛行士とともに、地上の担当者を交えて、30日に実施した船外活動の報告会を行いました。また、星出宇宙飛行士が着用していた船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit: EMU)が冷却機能を失ったため、次回の船外活動に備えて、EMUを交換するために別のEMUをサイズ調整する作業を、ウィリアムズ宇宙飛行士と1時間半かけて行いました。

「トランクウィリティー」(第3結合部)では、水再生システム(Water Recovery System: WRS)に関わる作業を行い、水処理装置(Water Processing Assembly :WPA)のタンクの交換作業などを行いました。

また、星出宇宙飛行士は、定期的に実施している医学検査の一環で、ウィリアムズ宇宙飛行士と協力して、お互いの健康状態を確認しました。加えて、船外活動後に通常行われている健康状態を確認するための交信(Private Medical Conference: PMC)も行いました。

その他、星出宇宙飛行士は、「ズヴェズダ」(ロシアのサービスモジュール)のアマチュア無線機器を起動し、ドイツのマイエンの学生らと交信しました。

休暇となる9月1日は、週に1度の船内の掃除や、「デスティニー」(米国実験棟)のエクスプレスラックに搭載されている商用バイオプロセッシング装置(Commercial Generic Bioprocessing Apparatus: CGBA)の点検・メンテナンス作業などを実施して過ごしました。

そして、9月2日から、再び次回の船外活動に向けた準備を開始しました。この日は、船外活動の手順確認や、EMUの点検、船外活動で使用する工具の組立て作業などを行いました。

9月5日の船外活動では、MBSUのボルト締結を完了するために、EMUのヘルメット部分に搭載されているカメラによるナット部分の点検作業や、要すれば、ボルトとナット部分の掃除や潤滑作業も計画されています。

星出宇宙飛行士は、船外活動に備えて、ナットを掃除する工具の組み立てや、充電したEVAバッテリ(Rechargeable EVA Battery Assemblies: REBA)をEMUに装着する作業を行ったほか、アカバ宇宙飛行士と、ISSのロボットアーム(Space Station Remote Manipulator System: SSRMS)の軌道上用訓練ソフトを使用して、船外活動中のSSRMSの運用手順の確認およびリハーサルに1時間を費やしました。また、ウィリアムズ宇宙飛行士とともに、地上のUS EVA19の担当者と交信し、現状や今後の見通しについて話し合いました。

この日、船外活動の準備作業以外に、船内の空気中に含まれる揮発性有機化合物を検出する装置(Air Quality Monitor: AQM)を5時間稼働させる運用や、埼玉県の入間ジュニアハムクラブとのアマチュア無線交信、家族との交信なども行いました。

なお、MBSU1台の停止とは別に、日本時間9月2日未明、太陽電池パドル下流の直流切替器に異常が発生しました。これに伴い、MBSU1台の停止による1/4の電力供給能力低下に加え、さらに、ISS全体で8系統ある太陽電池パドルのうちの1系統が使用できなくなったため、ISSの電力供給能力が5/8に低下しています。今回停止した系統下流への電力供給は、内部スイッチ切替などにより継続されており、当面のISS運用や「きぼう」日本実験棟のシステムへ直接影響はありません。

断りの無い限り、日時はISSでの時間(世界標準時 (日本時間-9時間))です。

【コラム:船外活動の舞台裏】

8月30日の船外活動でMBSUのボルトの締結が完了しませんでしたが、このような事態が発生した際に、どのようなことが行われているのかを簡単に紹介します。時間的な流れから、リアルタイムでの対応(短期)、中期的対応、長期的対応の3つに分けて説明します。

1.リアルタイムでの対応

船外活動中のJSCのミッションコントロールルームの様子

船外活動中のJSCのミッションコントロールルームの様子(出典:JAXA/NASA)

窒素ガス噴射ボトル

窒素ガス噴射ボトル(出典:JAXA/NASA)

事前に検討されていた仮固定のイメージ

事前に検討されていた仮固定のイメージ(出典:JAXA/NASA)

今回のような問題発生時には、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)のミッションコントロールルーム(MCR)管制室で対応を検討します。時間内に対処可能な対策を即座に調べてできる限りのサポートを行い、問題が悪化しないよう最善を尽くします。NASA TVを見ていた方は気がついたでしょうが、MCRの後ろに専門家が集まって対応を協議していましたが、船外活動経験の豊富な宇宙飛行士もその場に参加していました。またTVには映らない別室にも専門家がいて対応を協議しているのです。

PGT(Pistol Grip Tool)と呼ばれる電動工具のトルクを強めても固定用のボルトの取外し/締め付けがうまくできないとわかると、ウイリアムズ宇宙飛行士に対して、今後の原因究明に備えてねじ穴のクローズアップ撮影を行うよう指示したほか、細かい金属屑を吹き飛ばすための小さな窒素ガス噴射ボトル(エアダスターのようなもの)を用意するよう指示が行われて実施されました。

このような方法で時間内に解決できることもありますが、今回は残念ながらうまく行きませんでした。しかし、これ以上問題を悪化させないように、確実に固定ができなかったMBSUの固定方法を指示できたのは準備のたまものです。この仮の固定方法は、実はこのようなことが起きる場合に備えてあらかじめ準備されていたものであり、淡々と実施されました。もし、次の船外活動がすぐに実施できない場合でも、数ヶ月は仮固定の状態でもしのげます。

2.問題に対応するチームの発足(中期的対応)

今回のような調査・検討が必要になるトラブルが起きた場合、NASAは「タイガーチーム」という名称のチームを組織して問題解決に当たります。「虎さんチーム」みたいなのんびりしたチームではなく、精鋭の専門家を集めて、虎のように貪欲に、そして素早く問題解決に当たります。アメリカでは日本と違って残業や休日出勤はしないのが普通ですが、この時ばかりはそんなことを忘れて昼夜兼行で対応を行います。今回も、翌日には訓練用のMBSUが用意され、どのような対処が必要か、地上にいる宇宙飛行士も集めて手順の開発が開始されています。

手順を検討する地上の宇宙飛行士ら

手順を検討する地上の宇宙飛行士ら(出典:JAXA/NASA)

さらにこのタイガーチームは複数のサブチームに分かれ、原因の究明、問題解決のための手順検討、現状のままだとISSにどのような影響が出るかの評価、製造・組立時に異常がなかったかの洗い出し、新たな対処手順の妥当性評価、長期的な影響評価と今後への改善などの検討が行われます。

新たな対処手順の妥当性評価とは、新しい手順書を作り、星出宇宙飛行士ら軌道上のクルーに手順を確実に伝える作業です。そのためには、分かりやすい図面や説明資料も作成しなければなりません。また、本当にその手順が実施できるのかどうか確認するために、地上の宇宙飛行士たちが訓練用の宇宙服を着て船外活動訓練で使用するプールに潜って、実際に手順を試して問題がないかを確認します。そして、実際に船外活動作業を行う際も、地上から彼らが直接アドバイスや指示を行うことにより、予期せぬ問題が起きても対応できるよう万全のサポート体制を取ります。

次の作業方針や予定がなかなか表に出てこないのは、いくつもあるオプションの中から、確実に行えるオプションを絞り込んでいるためであり、決断されれば速やかに動き出します。当然、却下される案もたくさんあるので、検討途中の案を安易に公表して無用な混乱が起きるのを避けないと対応に集中できなくなります。

3.長期対応

US EVA19を実施して今回の問題が解決したとしても、次回も同様な問題が再発する可能性もあります。また、問題が起きたMBSUを詳細に調べてみないと分からないこともあります。このため、問題が無事解決して、皆さんの記憶から忘れかけても、NASAではこの問題の対応が数年はかけて継続検討され、様々な対応が実施されていきます。地味ですが、見えないところで行われているこのような努力が、有人宇宙技術の経験の蓄積となっていきます。


JAXA宇宙飛行士で船外活動を実施したのは、今回の星出宇宙飛行士で3人目でしたが、最初に経験した土井宇宙飛行士の時も、ロボットアームによるスパルタン衛星の把持に失敗したため、手づかみで衛星を捕まえるという離れ業が行われました。また、ふたり目の野口宇宙飛行士のときは、ディスカバリー号の船体底部で断熱タイル間の詰め物が突出しているのが見つかり、NASA宇宙飛行士がその詰め物を手づかみで取り外す作業を行いました。どちらも、船外活動の舞台裏では上で示したような緊迫した対応が行われていました。

船外活動時に大きく話題になるトラブルはそんなには起きるものでもありませんが、偶然にもJAXA宇宙飛行士が担当した船外活動で3回とも起きてしまいました。その度、このようなNASAの専門家たちが総力をあげて対応する場に立ち会うということは、日本が技術蓄積を行う良い機会になったとも言えます。

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