JAXA宇宙飛行士活動レポート 2012年6月
最終更新日:2012年7月20日
JAXA宇宙飛行士の2012年6月の活動状況についてご紹介します。
星出宇宙飛行士、ロシアでの打上げに向けた最終準備
6月初め、ドイツの欧州宇宙飛行士センター(European Astronaut Centre: EAC)で、欧州宇宙機関(ESA)が開発した「コロンバス」(欧州実験棟)の運用や実験に関わる最後の訓練を終えた星出宇宙飛行士は、ロシアへ移動し、第32次/第33次長期滞在クルーとして一緒に飛行士するユーリ・マレンチェンコ、サニータ・ウィリアムズ両宇宙飛行士とともに、ガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)で、国際宇宙ステーション(ISS)のロシアモジュールとソユーズ宇宙船に関わる最終訓練に臨みました。
最終試験に臨む星出宇宙飛行士ら(出典:JAXA/GCTC)
訓練では、シミュレータを使用して、ソユーズ宇宙船の打上げおよび帰還時に、さまざまな異常が発生した際の対応や、ロシアモジュールで行う日課の作業を模擬した長時間にわたるシミュレーションなど、実運用に近い内容の訓練を中心に行いました。その他にも、欧州補給機(Automated Transfer Vehicle: ATV)分離時にクルーが実施する作業など、第32次/第33次長期滞在中固有の任務についても訓練を行いました。GCTCでは、訓練以外に、医学研究のための基礎データ取得なども行いました。
また、星出宇宙飛行士らは、モスクワ郊外コロリョフのツープ(TsUP)宇宙飛行管制センターを訪れ、ISSのロシアモジュールの飛行管制官と、ミッション中の計画や現在のロシアモジュールの運用状況、ISSで定常的にクルーが実施する作業について確認しました。
記者会見後の星出宇宙飛行士ら31Sクルー(出典:JAXA/NASA)
6月19日と20日には、GCTCでロシアモジュールとソユーズ宇宙船に関わる最終試験を受け、見事な成績で試験を通過し、ロシア連邦宇宙局(FSA)により、ソユーズ宇宙船(31S)搭乗クルーとして正式に承認されました。
6月22日には、GCTCで記者会見を行い、ISS長期滞在開始を目前に控えた今の心境や、ミッションに向けた抱負などを語りました。会見後には、打上げに向けた伝統的なセレモニーに参加し、星の街の博物館や、モスクワのクレムリンを尋ねました。
- 星出宇宙飛行士、ガガーリン宇宙飛行士訓練センター(GCTC)での最終試験を終了
- 星出宇宙飛行士、ガガーリン宇宙飛行士訓練センター(GCTC)での記者会見と伝統的なセレモニーに参加
- 星出彰彦宇宙飛行士
若田宇宙飛行士、ロシアでISS長期滞在に向けた訓練を実施
国際宇宙ステーション(ISS)の第38次/第39次長期滞在クルーである若田宇宙飛行士は、ロシアを訪れ、ガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)で、ISSのロシアモジュールとソユーズ宇宙船のシステムや運用に関わる訓練を行いました。
若田宇宙飛行士は、ISS滞在中にロシアモジュールで実施する定常的な作業について講義を受けたほか、ISS内にある物品を管理する在庫管理システムや、ロシアモジュールのLANの使用方法について訓練を受けました。また、ロシアモジュールの搭載機器を扱う際に参照する手順書(Operations Data File: ODF)に関わる講義も受けました。定常的な運用に必要な知識に加えて、火災などの緊急事態が発生した際の対応についても訓練を行いました。
ソユーズ宇宙船については、シミュレータを使用して、ISSへ接近するための軌道調整マヌーバの実施に向けて、搭載機器の状態を確認する手順を実習で確認するなど、打上げから軌道投入、そしてISSとのランデブ・ドッキングに至るまでの飛行中の各段階における運用方法について復習しました。
水上サバイバル訓練に参加した若田宇宙飛行士ら(出典:JAXA/GCTC)
6月中旬には、モスクワ郊外のノギンスクにあるロシア非常事態省の施設で、第38次/第39次長期滞在クルーのミハイル・チューリン、リチャード・マストラキオ両宇宙飛行士とともに、ソユーズ宇宙船が着陸する際に、海などの水上に不時着したことを想定したサバイバル訓練を行いました。この訓練では、水上に浮かべたソユーズ宇宙船の帰還モジュールのモックアップ(実物大の訓練用模型)に3人で乗り込み、スペースが限られ、かつ水上で揺れる帰還モジュールの中で、ソコル宇宙服から防寒・防水用の衣服に着替えて帰還モジュールから脱出する手順を確認しました。また、着水後、帰還モジュールの浸水を想定した訓練も行い、時間が限られる中、必要最低限の装備を身につけて迅速に脱出する方法についても学びました。訓練では、脱出方法のほかに、救助隊との連絡方法や、水上でのクルー3名での編隊の組み方などについても実技を通して習得しました。
金井宇宙飛行士、ロシアでソユーズ宇宙船に関わる訓練を実施
ソユーズ宇宙船の帰還モジュールのシミュレータの座席に座る若田(右)、星出(中央)、金井(左)宇宙飛行士(同時期にGCTCで訓練を行っていたJAXA宇宙飛行士3名で記念撮影)(出典:JAXA/GCTC)
金井宇宙飛行士は、5月に引き続き、6月中旬までロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)にて、ソユーズ宇宙船のシステムや運用方法に重点を置いた訓練を行いました。
金井宇宙飛行士は、ソユーズ宇宙船の打上げ・帰還時および軌道上を飛行する間に使用する操作手順書を熟読し、各運用段階におけるクルーの作業について確認しました。特に、ソユーズ宇宙船打上げ直前の射点における搭乗クルーの作業や、軌道投入時と軌道投入直後に実施する作業を中心に確認しました。シミュレータを使用した訓練も行い、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングしている状態のソユーズ宇宙船の起動方法や分離手順、再突入から着陸に至るまでの各フェーズにおけるクルーの操作を確認しました。その他に、ソユーズ宇宙船の生命維持システムや医療支援システムについても講義を通して学び、ソユーズロケットの緊急脱出用ロケットに関する講義も受けました。
また、ISSのロシアモジュールに関わる訓練も行い、ISSのモックアップを使用して、火災・減圧の緊急事態を想定した対処訓練を行いました。
油井宇宙飛行士、NEEMO16訓練に参加
NEEMO16訓練に参加する油井宇宙飛行士ら(出典:JAXA/NASA)
油井宇宙飛行士は、米国時間2012年6月11日から22日にかけて、第16回NASA極限環境ミッション運用(NASA Extreme Environment Mission Operations: NEEMO)(NEEMO16)訓練に参加しました。
NEEMO16訓練は、米国フロリダ州沖合の海底約20mに設置された「アクエリアス」と呼ばれる閉鎖施設内で、宇宙飛行に似た極限環境下で集団生活を行い、国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッションで必要となるリーダーシップやチームワーク、自己管理などの能力を向上させるとともに、ISSおよび惑星探査に向けた新技術・ミッション運用技術の開発などを目的として実施されました。
- 第16回NASA極限環境ミッション運用(NEEMO16)訓練
油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」
皆さん、NEEMO訓練中は多くの方に応援していただき、本当に有難うございました。おかげさまで、私も様々な面で大きな成果を挙げることが出来たと思っています。訓練の細部は訓練期間中の海亀編をご覧になると様子がわかって頂けると思います。さらに詳しいことが知りたい!という方は、昨年の大西さんの日記をご覧ください!私の数倍、詳細かつわかりやすく説明してくれています。
さて、今日は何の話をしましょうか?海亀編の日記の中であまり説明できなかったものの中に、通信遅れがあります。今回のミッションでは、太陽と地球の距離の約十分の一の距離にある小惑星を探査している事を想定して、片道50秒間の通信遅れを模擬しました。(光のスピードでも、その位時間がかかってしまうのです。)そのような状況の中で、どの様なツールを使用してコミュニケーションを図るべきなのかを明らかにしました。物事が計画どおりに進んでいる時は良いのですが、緊急事態の時などは、あらかじめ最適な方法を明らかにしておかないと、大変な事になってしまいます。宇宙開発の分野、警察・消防・自衛隊などは、情報伝達のプロが集まっています。それは、情報伝達の不備が、人命に直結するからです。
私は、情報の専門家ではありませんが、情報の扱いについては常々考えている事があります。今日は情報伝達の基本的な考え方について、日頃感じていることを紹介してみましょう。
情報伝達は、早く正確な方が良いのは当然ですが、それが同時に達成されることは稀です。早く情報が欲しい時は、その様に要望しても良いかもしれませんが、多少不正確であっても文句は言えません。本当に正確な情報が欲しい時は、分析・確認に時間がかかりますので、多少の遅れがあっても文句は言えません。
実は、情報は何かに使用してはじめて生きてきます。必要な情報が適時・適切な場所に提供され、判断に使用される事が重要なのです。その情報の伝達が遅れた場合や不正確だった場合に、どのような事態が発生する可能性があるのかを考えて、情報分析の方法、伝達スピード、伝達先等をあらかじめ分析しておくことが重要です。このように話してみると、良い情報は、あまり急いで伝達する必要がないことがわかりますか?良い事が起こっている時は、放っておいても事態は悪化しませんから、すぐに対処する必要がありません。悪い情報ほど早く伝達しなければならないのです。でも、これは本当に難しいことです。皆さんは、悪い報告や誤った報告を聞いた時、すぐに怒ったりしていませんか?(例えば、子供が外で怒られた事を報告してきた時や、会社で部下がミスをした事を報告してきた時、あるいは、速報が間違っていた時などです。)それは悪い報告や適時の対処に必要な情報の伝達を遅くする最も大きな原因の一つです。悪い報告を聞いた時こそ、その人を褒めてやるべきでしょう。悪化して行く事態を放置せず、適時に対処できるのは、その報告のお陰なのですから…。
さて、話は50秒間の通信遅れに戻ります。多くの人達から、「通信遅れのせいで意思疎通は大変だったでしょうね。」などと言われました。しかし、実際にはそれ程大変だとは思いませんでした。もちろん、音声で通信をしていて、聞き逃しがあると「もう一度言ってください。」と言って、さらに100秒以上待たなければなりませんから大変です。しかし工夫次第で、そのような事にならない様にすることが出来ます。例えば、「10秒後に重要な情報を送ります。」と、相手に聞く準備を促してから、情報を送れば聞き逃しのリスクを減らせます。また、秒単位の対処が必要でない場合は、チャットやメールなど、テキストの形で送れば聞き逃しは発生しません。
今回は、私自身にとっても情報の伝達について考え直す良い機会になりました。
以前にも申し上げましたが、宇宙開発の分野で最終的な方針を決定されるのは国民の皆様方です。必要な判断ができるように、良い情報だけでなく悪い情報をお伝えすることもあるでしょう。正確性を期すために、多少時間を要する場合もあります。しかし、皆様方の正確な判断のために必要な情報は、適時・適切に届けられるように引き続き努力していきます。そして、国民の皆様方の信頼を得られるように努力したいと思います。何と言っても、情報伝達は相互の信頼関係なしには成り立たないですからね。それでは、引き続きよろしくお願いします。
地上のコントロールセンターです。様々な情報が集約され、適時・適切な判断が下されます。
緊急事態発生(模擬)!地上との連携に、通信遅れの影響が!
地上で判断が困難な場合は、現場の対応に任せざるを得ない場合もあります。
※写真の出典はJAXA/NASA
みなさんはロボノート(Robonaut)という言葉をご存知でしょうか?
英語のロボット(Robot)と宇宙飛行士(Astronaut)を組み合わせて作られた言葉で、わかりやすく言ってしまえば、ロボット宇宙飛行士ということになります。
・・・・そのまんまですね(汗)
ロボットという言葉で多くの方が連想するのは、鉄腕アトムに代表されるようなヒト型ロボットではないでしょうか。ただ実際には、ロボットというのはより広く、人間の代わりに作業をする装置を指すとされています。
私たちの社会では、産業ロボットなど多くのロボットが活躍しています。最近は、お掃除ロボットなんていうものも流行っていますね。これは人間の代わりに掃除という作業をしてくれるわけですから、れっきとしたロボットと言えます。
宇宙の分野に目を向けると、やっぱりここでも多くのロボットたちが活躍しています。現在国際宇宙ステーションでも、日本とカナダがそれぞれ開発した2つのロボットアームが、国際宇宙ステーションの組み立てや、実験装置の移動・取り付けなどに活躍し、果ては日本の補給船「こうのとり」を掴むなど、文字通り離れ技を演じています。
また、現在火星上で活動を続けていて、貴重な科学データを地球に送信してくれているNASAのオポチュニティという名の火星探査車も、宇宙探査ロボットの1つです。
6月のある日、東北大学でこういった宇宙ロボットの研究をされている吉田和哉教授が、セミナーを実施する為にNASAを訪問されました。その際、NASA側のロボット関連施設を見学されたのですが、私は幸いにもその見学に同行させて頂くことになり、貴重な経験をすることが出来たので、今回はその時のことを書きたいと思います。
そこで、冒頭のロボノートの話に戻ります。
実はこのロボット宇宙飛行士、既に昨年アメリカのスペースシャトルによって国際宇宙ステーションに運ばれているのです。
写真がそれと同型で地上テスト用のロボノート。下半身はついていませんが、上半身は人間そのものです。背中に背負ったバックパックに入った電池で作動するようです。
頭部に付いたカメラで物の形をしっかりと認識できるようで、例えば書類の入った封筒を前に差し出すと、それを受け取るといった動作を見せてくれました。
さらに手を軽く握ってやると、それを人間からの握手だと認識して、ちゃんと握り返してくれるではありませんか。
この握手という動作。シンプルなようで、よくよく考えてみると、なかなか複雑な「人間らしい」動作と言えます。
まずは手のひらに内蔵されているセンサーで、手を握られたということを認識します。
次にそれを認識した頭脳が、握り返すという指令を体に送ります。
指令を受けた体は、上腕部、それから指一本一本のアクチュエーターを作動させて、相手の手を適度な力で握り返すわけです。
この「適度な力で」というのがポイントで、私たち人間は無意識のうちにやっていることですが、力が弱すぎても握手になりませんし、逆に強すぎると相手の手を痛めつけることになりかねません。
こういった手先の器用さや繊細さで、ネジを回すなどの単純作業や、人間の宇宙飛行士に道具を受け渡しするなどのサポートをすることが可能になるでしょう。
正直言うと私はこのロボノートを見学する前は、ロボットに人間の代わりができるはずがない、と少々否定的な気持ちでいたのですが、実際に動いている彼もしくは彼女に会ってみて、認識が大きく変わりました。
もちろん、今の時点で人間に取って代われるとは思いませんが、ロボットの長所を生かして、人間をサポートすることは十分に可能ではないかと思わせるポテンシャルを感じました。
ロボットなら長時間の単純作業も、疲れることなく、同じ正確さで続けることが可能ですし、お腹が空いたなどと不平不満を言うこともありませんし(笑)、何よりそのまま宇宙船の外に出て行けるというのも、ロボットの大きな強みになるのではないかと思います。
私の大好きな映画「スターウォーズ」でも、R2-D2やC-3POといったロボットたちが大活躍しますが、そんな未来が実現するかもしれませんね。
余談ですが、「ロボノートと力比べをしてみないか?」と言われ、僭越ながら人類を代表して挑戦してきました。
約10Kgの鉄アレイを手に持って、手を伸ばした状態で体の横方向に持ち上げて保持するという種目(?)だったのですが・・・
結果はあえなく惨敗。持ち上げていく過程で、関節をおかしくしそうだったのでやむなく途中棄権しました。
人間の関節というものは、普段力がかからない方向に力がかかると、弱いものですね。。。
「いまだに誰にも負けたことがない」、と解説の人。
すごすごと退散しましたが、「あれ?宇宙は無重力だから、重さは関係ないよな?」という素朴な疑問、いえいえ、負け惜しみは言わぬが花でしょう。
※写真の出典はJAXA/NASA
みなさん、こんにちは!新米宇宙飛行士の金井宣茂(かないのりしげ)です。
6月の半ばまでロシアの星の街で訓練を続けていましたが、無事にソユーズ宇宙船のシュミレーションも終了し、予定されていたロシアでの訓練をすべて終了することができました。昨年末から3回にわたってロシアへ出張し、合計12週間にわたる訓練でした。
ロシアでの訓練期間中のひとこま。同時期にロシアで訓練をしていた打上げ直前の星出宇宙飛行士と、若田宇宙飛行士とのスリーショット。
でも、この程度の出張は、まだまだ序の口。宇宙ステーションでのミッションに任命を受けている宇宙飛行士の場合は、宇宙飛行までの2年間の訓練の間に、さらに長い訓練をロシアで行うことになります(ロシアにだけ、ずっと滞在しているわけでもありませんが)。
そして、その2年の訓練を終え、7月に宇宙ステーションに旅立つ予定なのが、JAXAの星出彰彦飛行士と、NASAのサニー・ウイリアムズ飛行士です。最終試験を控えた2人にお別れをして、ひとり、ヒューストンに復帰しました。この日誌が掲載される頃には、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上がり、宇宙ステーションでの多忙な毎日を始めていることでしょう。二人ともがんばってください!
さてわたし自身といえば、2週間ほどNASAのジョンソン宇宙センターで、緊急時対処のための訓練と試験とを行い、来月はドイツにあるヨーロッパ宇宙飛行士訓練センターで、ヨーロッパ実験棟(通称・コロンバス)の訓練が待っています。その翌月は、日本のつくば宇宙センター、その次の月はカナダ宇宙庁と、世界中を旅して回っています。
飛行機を利用すれば十数時間で太平洋や大西洋をひとっ飛びに横断して、翌日には世界の裏側に到着し、すぐに訓練を受けることができます。わたしが子どもの頃に大好きだった本に、『八十日間世界一周』という話がありましたが、科学技術の進歩というのはすごいもので、今ならきっと、24時間以内で世界一周ができてしまうことでしょう。実に便利な世の中です。
半面、あまりに発達しすぎた技術に、人間の体のほうがついていけないという状況もでてきているように思います。海外出張に行くのも帰るのも、時差ボケにしばらく悩まされれるのを覚悟しないといけません。
日中でも肌寒いロシアから一転、6月でもすでに真夏日の、熱帯のヒューストンに戻ってくると、夏バテのような症状が出て、体調を崩しやすくなってしまいます。
時間や気候の急な変化に体がついていけないことのほかにも、たとえば、外国に行った先で、病気になったりケガをした場合、医療システムの違いから、必ずしも日本と同じように病院にかかることができないかもしれません。
わたしは、宇宙飛行士になる前に、海上自衛隊で医官をしていたので、船が太平洋の真ん中にいるときに急病人や大ケガが発生したらどうすればよいのか?外国の港を訪れているときに、患者が出たら、現地の病院にどうやって受診すればいいのか?日本にないような特殊な伝染病の予防接種はどうするのか?・・・そんなことばかりを心配していました。
さて、宇宙ステーションの生活を考えてみると、どうでしょうか?
宇宙ステーションは、グリニッジ標準時刻という時間に従って生活するので、世界各国をめぐって訓練をしていることに比べれば、規則正しい毎日のように思えます。
でも考えてみてください。宇宙ステーションは、たった90分で地球を1周するスピードで動いていますので、45分ごとに昼と夜とが繰り返されます。明るくなったから起きよう、暗くなったから寝ようというわけではないので、ちょっと不思議です。
また、起床・就寝のパターンが常に同じというわけでもなく、たとえば、物資補給用の宇宙船が到着するとなると、スリープシフトと言って、起きる時間・寝る時間を少しずつずらして、普段なら寝ている時間に作業を行うこともあります。眠たい目をこすってロボットアームの操作をするわけにもいきませんから、厳格な睡眠の管理が必要です。
四季のある地球とは違って、宇宙ステーションの中は、気温や湿度が常に人工的にコントロールされていますから、夏バテになることはなさそうですね。
もし、宇宙ステーションで病気になっても、病院にかかることはできません。クルーのうちの1人が必ず衛生担当者に指名されていて、地上でサポートしてくれるフライトサージャン(航空医官)の先生と相談をしながら対処します。
それでも手に負えないような重い病気や、ひどいケガをしてしまったらどうしましょう?そんなときは、宇宙ステーションに係留してあるソユーズ宇宙船に乗って緊急帰還しないといけません。地球上でも、たとえば海の真ん中で手術が必要な急病人が出たら、レスキューの飛行機やヘリコプターを呼んで、陸上の病院に緊急搬送してもらうのと、基本的な考え方は一緒です。
旅行に関する医学的な問題と、宇宙滞在中の医学サポートは、少し似たようなところがあると感じています。将来、誰もが安全・安心に宇宙旅行ができるようになるために、地上でのさまざまな知識や研究を生かすことができれば良いと思いますし、逆に、宇宙での医学の研究や経験が、地上での健康管理に活用されれば良いとも思います。
※写真の出典はJAXA/GCTC
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