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JAXAの宇宙飛行士

大西宇宙飛行士のNEEMO日記(第17回(最終回))「再び、地上から:"NEEMO15を振り返って"」

最終更新日:2011年10月31日

その後。

NEEMO15クルー

NEEMO15クルー
(提供:JAXA/NASA/NOAA/UNCW )

NEEMO15クルー

NEEMO15メンバー
(提供:JAXA/NASA/NOAA/UNCW )

現地時間10月26日午前9時過ぎ、私たち6名のNEEMO15メンバーは無事キーラーゴの町へ帰還しました。

スプラッシュアウト後、48時間は飛行機に乗れないという決まりがあるため、すぐにはヒューストンの自宅へは戻れません。飛行機内は地上よりも気圧が低くなるので(だいたい0.8気圧くらい)、減圧症の危険を減らすための安全上の決まりです。

そして、3週間近く共に過ごした仲間たちとの別れのときがやってきました。クルー・スタッフ問わず、お互いの健闘を称え、また再会を誓い合って握手や抱擁を交わしあいます。

この抱擁(ハグ)という習慣、私たち日本人にはあまり馴染みのない習慣で、私もアメリカに来て2年になりますが、いまだに戸惑うことが多々あります。ですが、こういう時にはごく自然と、その輪の中に溶け込めるから不思議です。

やっぱり、このNEEMO15期間中に築き上げたチームワークの賜物でしょうか。

そうしてヒューストンの自宅に戻った今、改めて今回のNEEMO15を振り返っての感想を記して、この短期集中連載の最終回としたいと思います。

1.アクエリアスという閉鎖環境での生活

大西&シャノン

大西宇宙飛行士とシャノン・ウォーカー宇宙飛行士(ISS第24/25次長期滞在クルー)(提供:JAXA/NASA/NOAA/UNCW )

生活スペースの広さで言うと、ちょうどバス1台分くらいのスペースでしょうか。そこに6人が生活しているわけですから、人口密度という観点では国際宇宙ステーションを遥かに凌ぎます。ちなみに実際に国際宇宙ステーションに滞在された宇宙飛行士の方々に聞くと、宇宙では壁も天井もなく、全ての表面が使用できるので、体感的にはかなり広く感じるとのことです。

狭いだけあって、プライバシーはほぼ無いに等しいです。一人になれる空間は物理的に存在しません。私はその点では特にストレスを感じませんでしたが、人によってはこれはかなり大変なところではないでしょうか。

滞在中は、24時間WEBで映像が放送されている居住区のカメラの他、2箇所のカメラで地上から常にモニターされています。

閉鎖チャンバー

筑波宇宙センター 閉鎖環境適応訓練施設
(提供:JAXA)

これも、2009年1月に実施されたJAXAの宇宙飛行士候補者最終選抜で行われた閉鎖環境試験で経験済みだったので、ストレスはありませんでした。NASAはこのWEBで流れるカメラ映像に結構気を遣っていて、滞在初日にクルーの1人が海パン一丁で居住区をウロウロしていたところ、速攻で「カメラに映る範囲では、必ず上半身に何か羽織ること!」とお達しがきました(笑)

他にも、人によっては臭いや騒音が気になるかも知れません。何しろ持ち込める着替えも限られているので、当然、同じ服や下着を何日間か着用し続けることになるので、アクエリアスの中では独特の臭いがします。

臭いに鈍感な私でも、たまに「ウッ」という瞬間があったので、これが予定通り13日間のミッションだったら、最後のほうはかなり壮絶なことになっていたでしょう。

とまあ、こうやって並べていくと何だかすごいところですが、『住めば都』とはよく言ったもので、実際生活してみると楽しいところですよ。1点、これだけは宇宙ステーションより快適と言えるのは、温水シャワーを使えること!とてもありがたかったです。

2.小惑星探査を目的にした試験について

最初に書いた通り、今回のNEEMO15の目的の1つは、将来の小惑星探査で用いる移動手段の検証です。

日記中でご紹介したケーブルを張り巡らせる手段やSUPER SAFERの他にも、2種類試しました。実際に使用した感想は、クルーみんなほとんど同じだったのですが、いずれも一長一短といったところです。

移動には向いているけど、実際に作業するには不向きだったり、総合的な評価は高くても、そもそも小惑星の表面に設置するのにとても手間がかかるものだったり。

要するに決め手になるような移動手段はまだ出てきていません。今回の結果を元に改良を加えて、次回のNEEMO16で再びテストすることになるでしょうか。NASAのエンジニアたちがどんな改良品を作り出すか、今からとても楽しみです。

ミッション期間が短くなったために、検証できなかったこともいくつかあります。

中でも私が一番楽しみにしていたのは、通信の遅れのシミュレーションでした。

電波は光の速度で伝わりますが、光速をもってしても地球から発したメッセージが火星に届くまでには10分以上かかります(その時の位置関係で変化します)。今回のNEEMO15では、最大で片道50秒の通信の遅れをシミュレーションする予定でした。

50秒というと、たいしたことないと思われるかも知れません。しかし以下のようなケースを考えてみて下さい。

交信

(提供:JAXA/NASA)

地球「こちら地球、そちらの状況はどうですか?順調にいってますか?」

小惑星「え?なに?ちょっと通信状態が良くなくて、よく聞き取れませんでした。もう一回お願いします」

地球「そちらの状況はいかがですか?と聞いたのです」

小惑星「すいません、こっちの何が何ですって?」

地球「だーかーらー!そっちの状況教えてって言ってるの!」

小惑星「なんだ、こっちの状況ですか。それなら何も問題なしですよ」

たったこれだけのやり取りをするのにも、4分以上かかる計算になります。こうなってくると、音声での通信というのはあまり有効ではなくなってきます。聞き間違いや聞き逃しのリスクを考えると、音声ではなくメールのようなメッセージをやり取りする方がずっと効率的でしょう。

また、一つ一つ地球に確認していたのでは、何をするにも時間がかかってしまうので、ある程度宇宙船側で自主的に判断し、行動することも必要になってくるでしょう。そういったシミュレーションを予定していたので、実現できなかったのはすごく残念です。

3.今回のNEEMO15で得たもの

NEEMO10

若田宇宙飛行士(NEEMO10より)
(提供:JAXA/NASA/NOAA/UNCW )

今回参加するにあたり、若田宇宙飛行士にお話を伺ったところ、「NEEMOはミッションに向けた準備の段階から、ミッション後に至るまで、実際の宇宙飛行にとても近いです。宇宙ミッションに参加するつもりで、良い経験を積んで来てください」というアドバイスを頂きました。

規模は違うものの、クルーの滞在を多くのスタッフが支えている点や、スケジュールに追われる生活など、まだ宇宙飛行の経験がない私には全てが新しく、勉強になることばかりでした。

当初NEEMOに参加したいと希望した時には、これは私にとって絶好の訓練機会になるだろうと思っていました。しかし事前の訓練が始まるとすぐに、NEEMOがただの訓練ではなく、れっきとした一つのミッションであるということを思い知らされて、自分の成長だけを考えていたことがとても恥ずかしくなりました。

大西宇宙飛行士

潜水訓練を行う大西宇宙飛行士
(提供:JAXA/NASA/NOAA/UNCW )

ミッションの一員として、ミッション目的の実現に向けて、自分に与えられた職務を全うする。

その経験を積めたことが、これからの自分にとって一番の財産になると思います。

この日記も、いよいよ終わりに近づいてきました。当初から筆不精を自称していた私が、蓋を開けてみればほとんど毎日のように日記を更新することができたのは、やっぱりこのNEEMO15というミッションを私自身が本当に楽しめたからだと思います。

難しいミッションをなるべくわかりやすい言葉で、というコンセプトで書いてきましたが、少しでも皆様にお伝えできたでしょうか。

最後になりましたが、この日記を愛読して下さった方々、今回のミッション参加にあたり有形無形のサポートをして下さった方々、応援して下さった全ての方々に、この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとうございました!!

ヒューストンより、大西卓哉

NASAによるNEEMO15の写真はこちら

※特に断りのない限り、日時は現地時間(米国東部夏時間)です。

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