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訓練5日目。天候は下り坂・・・。
昨日の穏やかな海が嘘のように波立っています。今日はSuperLite17を使用し、昨日より深い海でのダイビング訓練です。
訓練の話に入る前に一つ余談を。でも読んでおかないと、後の話が面白くないので読み飛ばさないで下さいね!
私はNASAで実施された宇宙飛行士候補者訓練の2009年クラスの一員(油井さん・金井さんも一緒のクラス)です。NASAでは代々のクラス毎に、自分たちのワッペンをデザインして制作し、フライトスーツの肩に縫いつけたりする伝統があります。私たちのクラスはワッペンだけではなく、同じデザインのシールやコインも作りました。
左の写真がそのコイン。クラスメンバーの国旗が入っていたり、人数分の14個の星が描かれていたり、ディテールにこだわって作られた一品です。
このコインには一つのルールがあります。もともと軍隊の伝統からきたものですが、クラスのメンバーは、いついかなる時もこのコインを携帯していなければならず、もし携帯するのを忘れていようものなら・・・、後でビールを奢らされる、というものです。もっと具体的に言うと、メンバーのAさんがおもむろに自分のコインを取り出し、掲げたとします。その場に居合わせた他のメンバーは自分のコインを同じように掲げなければなりません。もし携帯していないメンバーがいた場合、その夜のビールはそのメンバーの奢りです。しかしその場の全員がコインを携帯していた場合は、最初に掲げたAさんが全員に振舞うという一人負けになります。要するにタダでビールを飲みたければ、誰かがコインを持ってなさそうな状況を狙うというのが、このルールのツボです。
余談が長くなりましたが、さて今日の訓練です。SuperLite17を装着し、アクエリアス周辺の深さ20m前後の海域で実際に動いてみる訓練です。今日のチームメイトはスティーブン・スクワイヤーズ(以下スティーブ)。習ったとおりの手順でヘルメットを装着し、海に入ります。入った瞬間、体が潮で持っていかれそうになります。船の上からではわかりにくいですが、思っていた以上に潮の流れが速いようです。ボートからほんの数mのところに潜行用のロープが伸びているのですが、ちょうど潮の流れに逆らう方向になるので、ロープに辿り着くにも全力でフィンをキック!ロープを伝って、耳抜きを繰り返しながら海底へと降りていく間も、「これ、手を離したら、一気に流されそうだなあ」と、かなり本気(マジ!)です。もっとも手を離しても空気用のケーブルで船と繋がっているので、どこまでも流されていく心配はないのですが。
幸い、海底に降りていくに従って、流れが弱くなっていくようです。とは言っても、前述のケーブルはそんなことお構いなしに潮にあおられて、体を引っ張っていこうとします。
右の写真は、海底に設置されている構造物を昇っているところですが、ケーブルが大きく流されてたわんでいるのがよくわかると思います。
そんなこんなでちょっとした移動にも体力を奪われていきます。相棒のスティーブと「こりゃいい運動になるな」と軽口をたたきあいます。
ふと、急に体が軽くなったので振り返ってみると、今回通信員役でNEEMO15に参加するジェレミー・ハンセン(カナダ人宇宙飛行士)がケーブルを抱えてくれていました。彼は宇宙飛行士候補者2009年クラスのクラスメートで、この日のダイビングではカメラマンとしてサポートしてくれています。持つべきものは同期、彼自身も決して楽ではないはずなのに・・・、心に温かいものが沁みてきます。感謝しようにも彼はヘルメットを被っていないので、身振りで「ありがとう」と伝えておきます。
構造物をまさに昇りきろうとした時、そのジェレミーが泳ぎ寄ってきました。身振り手振りで何か伝えようとしています。ん?ちょっと待ってろ?
彼はゴソゴソと自分のウエットスーツの袖の下から何かを取り出そうとしています。
やがてその『何か』を取り出した彼の手には・・・しっかりとあのコインが握られていたのでした。
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