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「きぼう」日本実験棟船内実験室バンパ高速衝突試験

 1999年7月21日から9月29日にかけて、「きぼう」日本実験棟船内実験室のバンパの高速衝突試験が行われました。きぼうは10年間の運用期間中にスペースデブリ/メテオロイドが衝突しても穴があかない確率(非貫通確率値)が97%以上になるように設計されています。これを確認するために、防護壁(バンパ)を取り付けた船内実験室の壁に模擬のスペースデブリを高速で衝突させる試験を行いました。以下にこの試験をご紹介します。

スペースデブリ/メテオロイド
 デブリ(debris)は、破片という意味です。これまで宇宙に打ち上げられ役目を終えた人工衛星やロケットの最終段やそれらの部品および部品同士の衝突により発生した破片など、そのまま軌道上を回り続けている人工物体のことをスペースデブリと呼んでいます。
 スペースデブリは地球の周りを高速で飛行しているため、直径1cmのものでも自動車1台分の衝突エネルギーに相当します。1996年7月には、フランスの小型衛星シリーズ(CERISE)がスーツケース大のデブリと衝突し、本体の一部がもぎとられるという事故も起きました。そのため最近では、この問題を宇宙の新しい環境問題としてとらえる動きが広がっています。
 また、メテオロイド(meteoroid)は、宇宙に浮遊する天然の物体のことです。大気中に入ってくれば流れ星になり、地上に落ちてくれば隕石となります。

「きぼう」日本実験棟のバンパ
「きぼう」日本実験棟のデブリバンパ
 国際宇宙ステーション(ISS)には、スペースデブリの衝突からISSや搭乗している宇宙飛行士を保護するために、外壁を強化する対策が取られています。それがバンパです。

 天文学者のフレッド・ホィップルが考案したもので、ホィップルバンパと呼ばれています。これは、壁の外側にもう一層の薄い金属板を設けたものです。スペースデブリが外側の板に衝突した瞬間に、スペースデブリのもつ運動エネルギーは熱に変わります。板は熱のため穴があきますが、スペースデブリは気化してしまうか、または気体と液体と固体の混ざった細かな破片に変わって威力を失い、壁にはほとんど影響を与えなくなります。

 右図の通り、「きぼう」日本実験棟の進行方向側の150度の範囲にはスタッフィング入りバンパが使用されています。これは壁とホィップルバンパの中間に、スタッフィングと呼ばれる防弾チョッキのような何種類かの繊維を層にしたものを挟んだもので、ホィップルバンパをさらに強化したものです。

ホィップルバンパ
 
構成      
スタッフィング入りバンパ
 
 
構成      


バンパ高速衝突試験
直径11mmの模擬スペースデブリを秒速5.71kmで衝突させた試験結果
バンパ
スタッフィング
与圧壁(外側)
 この試験では、直径5mm、7mm、9mm、11mmの4種類の模擬スペースデブリ(アルミ球)を秒速2.5km~6.0kmで、きぼうの壁に衝突させました。貫通限界曲線を検証するために、直径と速度の色々な組み合わせによって試験が行われました。
 試験の結果、試験結果と貫通限界曲線がほぼ一致していることがわかり、きぼうが要求されている防御性能をもっていることがこの試験で確認されました。

 貫通限界曲線はどの位の大きさのスペースデブリがどの位の速度で衝突した時に壁に穴があくのかを理論的に計算してグラフにしたものです。貫通限界曲線が理論上だけでなく、実際の試験結果とも一致することをこの試験で確かめ、きぼうが要求されている防御性能をもっていることを確認します。
 なお、試験装置で作りだせる速度には限界があります。装置の能力以上の速度での衝突試験は実際にできな
貫通限界曲線
いため、それ以上の速度で衝突した場合に穴があくかどうかは貫通限界曲線から予測します。

 なお、ISSでは、スペースデブリに対し次のような考え方で対応する方針です。
 直径10cm以上のスペースデブリは、あらかじめ軌道情報を予測しておき、ISSの軌道制御によって衝突を避けます。
 直径1cm以上10cm未満のものは、衝突により壁に穴が開いた場合は、宇宙飛行士は隣のモジュールに退避しハッチを閉め、船外活動で穴を修復します。
 直径1cm以下のデブリについては、バンパにより貫通を防ぐ対策をとります。
 なお、速度や入射角の分布によっても構造に対する貫通度が異なってきますので、10mm以上でも貫通しないもの、10mm以下でも貫通するような速度のものもあります。
 また、直径10cm以下のデブリでも認識できるよう、地上観測能力の向上に向けて国際的連繋のもと現在努力がなされているところです。

試験手段/2段式軽ガス銃
 2段式軽ガス銃は模擬スペースデブリを秒速数kmという高速で供試体に衝突させるために開発された装置で、全長は21mです。秒速数km以上というスペースデブリの飛行速度は、ピストルの弾丸の数倍以上のスピードになります。このスピードを出すためにこの装置が開発されました。
 2段式軽ガス銃のしくみ
  
サボと模擬スペースデブリ
ダイヤフラム
ピストン
 直径3~11 mm(約0.04~1.9 g)の模擬スペースデブリ(アルミ球)を、サボと呼ばれるプラスチックの円筒で包まれた状態で発射します。サボで包むことにより、圧縮ガスを効率よく受けて速度を得ることができます。サボの先端は円錐状にくぼんでおり、気体の抵抗により割れて中のアルミ球が現れるようになっています。
 イグナイター(点火具)によって無煙火薬に点火し燃焼ガスが一定の圧力に達すると火薬室と圧縮管の間のダイヤフラムという薄い金属の円盤を破り、プラスチック製のピストンが押し出されます。
 圧縮管には、質量の軽いヘリウムや水素(軽ガス)を充填し、7気圧程度に加圧しておきます。(注)
 ピストンは圧縮管の中の軽ガスを圧縮し、軽ガスの圧力が高圧カップリングと発射管を仕切るダイヤフラムを破り、発射管内へ高圧軽ガスが膨張することによりサボが加速されます。ここでピストンは圧縮管の先にある高圧カップリングのテーパ部(円錐状に細くなっている部分)によって止められます。
 発射管から試料室までは0.1~0.2気圧程度の窒素を充填しておきます。
 模擬スペースデブリを包んでいるサボは発射管から出ると気体(窒素)の抵抗により割れて分離し、サボトラップと呼ばれる鉄板によって受け止められます。サボの中から出てきた模擬スペースデブリは直進を続け標的に衝突します。
 サボ分離部の直前にある速度計測部には二つのコイルがあり、永久磁石が仕込まれたサボが通過するときに発生する起電力を測定することにより、模擬スペースデブリの速度が測定できます。

(注)気体は圧力を高くすると、分子の密度が高くなり管内を流れにくくなってしまうためにヘリウムや水素という軽い気体を使用して流れやすくし、より高速で模擬スペースデブリを打ち出せるようにしています。
      
 ※各部の名称をクリックすると写真が表示されます。


試験がおこなわれるまで
試験を行うまでの手順を紹介します。
(1)ガス銃の分解 ガス銃の各部を分解します。

分解された発射管
(2)掃除および確認 使用済みのピストンや火薬によって内部についたすすを掃除します。また内部に傷がついていないか確認します。

発射管の砲身を掃除しているところ
(3)ガス銃の組立きれいになったガス銃を組み立てます。ダイヤフラムとピストンも新品に交換します。

交換したダイヤフラム
(中心の銀盤)
(4)発射管の確認 発射管は5つの部分に分割されています。組み立てたときに継ぎ目に段差がないか、サボを通して確認します。その後、発射管がまっすぐになっているかレーザ光線を通して確認します。

サボを通しているところ
(5)速度センサー動作確認 模擬スペースデブリの速度を計測する速度センサーがきちんと動作するか確認します。
(6)サボ分離機構(サボトラップ)取り付け 気体の抵抗により分離したサボを受け止めるための鉄板を取り付けます。鉄板の中心には模擬スペースデブリが通過するためのすき間が空いています。レーザ光線で模擬スペースデブリの通り道を確認しながら取り付けます。

レーザ光線を照射し模擬スペースデブリの通り道を確認しているところ
(7)供試体の設置

 試料室に供試体を設置します。レーザ光線を当てて、供試体の中心に模擬スペースデブリが衝突するようにします。


供試体の中心の赤い点がレーザ光線
(8)圧縮管軽ガス充填 圧縮管の中に軽ガスを充填し、約7気圧に加圧します。
(9)窒素ガス充填 発射管から試料室までを1時間かけて真空にした後、窒素ガスを充填し約0.1~0.2気圧にします。この充填量は模擬スペースデブリの大きさによって微妙に変えます。
(10)火薬装着 火薬室に無煙火薬を込めます。火薬量は模擬スペースデブリの大きさや、目的とする到達速度によって変えます。
(11)発射 イグナイターを無煙火薬に装着し、発射準備完了です。安全な場所に待避して、発射します。

以上の通り、1回の試験を行うのに3~4時間かかるため、1日に最大2回しか試験はできません。


担当者インタビュー
 NASDA試験担当者のコメント 
 
 最初は、弾の速度を計測することができなくて、試験を開始することができず、試験自体を軌道に乗せるのに苦労しました。原因を現場の方と一緒に考えその対策を施し、計測ができる様になった時はほっとしました。弾を撃つだけの試験であればその様な事を気にせず実施すれば良いのですが、今回の試験では衝突時の速度がとても重要なデータとなるためです。
 次に試験後半ですが、試験自体がスムーズに行くと人間欲張りなもので、いかに有効かつ意義のある試験データを取得できるか考える様になりました。その日その日の試験結果を基に、どの大きさの弾をどの速度領域で撃つのが良いかよく考え、次の日の試験準備前までに判断するのに必死でした。
 
宇宙開発事業団宇宙環境利用システム本部JEMプロジェクトチーム
三宅 薫

 三菱重工業試験担当者にインタビュー
 
高橋浩昭さん
榎本勝行さん
楠本富数さん
 試験の運用を担当している三菱重工業相模原製作所の高橋さん、榎本さん、楠本さんにこの試験ついてお話を伺いました。

Q)試験の大変なところはどういう所ですか?
A)試験そのものは一瞬で終わりますが、その試験を行うまでの準備に時間がかかり、1日に頑張っても2回試験できればいいかなというところです。

Q)一番気を使うところはどういう所ですか?
A)発射管をまっすぐにすることです。まっすぐでないとうまく玉が飛ばないからです。 発射管は5つの部分に分割されていて、試験を行うごとに分解して中についたすすを掃除し傷がついていないかチェックしてからつなぎ合わせるのですが、つなぎ目のところにボルトが8本ほどあり、1本の締め方が強くても弱くてもずれが生じてしまいます。
 サボを長い針金で砲身の中を通してみて途中で引っかかったときは、引っかかったところで、針金の砲身の入口あたりの場所に目印としてガムテープを貼って針金を取り出し、針金を外側からあててどこら辺で引っかかったのか確かめ、その場所のバルブを微調整して段差をなくしていきます。

 

 

最終更新日:1999年 9月 30日

 
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