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「きぼう」日本実験棟のロボットアーム親アーム熱真空試験

 7月29日から8月27日まで、筑波宇宙センターで「きぼう」日本実験棟のロボットアームの親アームのフライトモデル(実機)を使用して熱真空試験が行われました。この試験の様子を紹介します。

「きぼう」日本実験棟のロボットアーム
親アームと子アーム
 「きぼう」日本実験棟のロボットアームは、比較的大きな対象物を操作する「親アーム」と、親アームの先端に取り付けて精密な作業を行う時に使用する「子アーム」、それに親アームと子アームの操作を行う「ロボットアームコンソール」の3つから構成されています。ロボットアームは実験ペイロード/搭載機器の交換作業や、「きぼう」で行われる各種実験支援または保守・保全作業支援に使用されます。

熱真空試験
 宇宙では日なたの温度は約120度にまた日かげの温度は約マイナス150度にもなり、日なたと日かげの温度差は270度以上にもなります。また、宇宙で熱が伝わるのは伝導か放射しかなく、対流による熱の移動がないので、日が当たる部分はすぐに熱くなり、反対に日かげではすぐ冷たくなります。なお、国際宇宙ステーション(ISS)は約90分で地球の周りを一周します。つまり冷たくなったり、熱くなったり繰り返す訳です。
 この温度差240度以上の環境下でも、10年というISSの運用期間のあいだロボットアームがきちんと動作するよう断熱材とヒータを使った熱対策がとられています。ロボットアームは断熱材でカバーされ、ヒータの電源をオン・オフしてロボットアームの温度が要求範囲内に収まるようにしてあります。
 今回の試験は、親アームの各部の温度が要求範囲内に制御できていることを確認するための地上での実証試験です。また、今回の実験データと設計段階で作成された熱数学モデルによるシミュレーション結果を比較します。もし、両者の値が大きく異なっていた場合は熱数学モデルを修正します。

試験実施方法
13mφスペースチャンバへの移動の様子
 宇宙の真空及び熱環境を提供することができる13mφスペースチャンバの中に親アームをいれて、チャンバー内を液体窒素で冷却しながら真空にしました。その後、疑似太陽光をあてて宇宙での日なたと日かげを模擬し、約180カ所に取り付けた温度センサーで親アーム各部の温度を測定しました。疑似太陽光には、分光分布が太陽光に良く似ているキセノンランプが使用されています。

 この試験は、以下の2つの状態でそれぞれ行われました。

1)打上げ時の状態
打上げ時の収納姿勢
 打上げ時には、ロボットアームは「きぼう」日本実験棟の船内実験室に取りつけられアームを折り曲げた収納姿勢をとり、電源はオフの状態でスペースシャトルのペイロードベイ(貨物室)に格納されて打ち上げられます。また、ロボットアームにはMLI(multilayer insulator:多層断熱材)と呼ばれる断熱カバーが取り付けられています。関節部分の断熱カバーは、「きぼう」日本実験棟が国際宇宙ステーションに取りつけられ電源が投入されて使用可能状態になった後に船外活動で取り外されます。
2)軌道上での基準姿勢状態
軌道上での基準姿勢
 この基準姿勢とは、ロボットアームを使用するときの最初の姿勢です。物をつかんだり、動かしたりするときなど、使用するときは必ずこの基準姿勢をとってから次の動作に入ります。ロボットアームには電源を投入しておきます。なお、ロボットアームは微小重力環境で動かすことを前提に作られているため、荷重の影響が小さくなるよう90°横にした上で関節部の下に支柱を置きました。

熱数学モデル
 熱数学モデルとは、ロボットアームの宇宙環境下での温度変化を数式で表したものです。地上で試験できないことは、この熱数学モデルをもとにコンピュータでシミュレーションをして結果を予測します。
 例えば今回の試験では、疑似太陽光を照射してデータを取得しましたが、太陽熱以外にも他の熱の影響を受けます。例えば、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォーム等からの放射熱を受けたり、ロボットアーム自身のいろいろな動作によっても熱が発生します。地上でこれらの試験を総合的に行い熱設計の良否を実証できればよいのですが、「きぼう」日本実験棟そのものが収まる試験設備がないことと、ロボットアームは微小重力環境下で動作するように設計されているため重力がかかる垂直方向での動作試験ができないことなどの理由で、地上では全てについて試験することはできません。そのため熱数学モデルでシミュレートして結果を予測します。

試験担当者のひとこと
 スペースチャンバを真空にするだけでも1日半ほどかかります。とても大がかりな試験で失敗は許されないため、準備にはとても慎重になりました。
 今回は船内実験室にロボットアームを取り付け、伸展させて基準姿勢をとりました。船内実験室は熱ダミーですが、地上で船内実験室についたロボットアームがこの姿勢をとるのはこれが最初で最後の機会になります。結構貴重な映像なのですよ。
熱ダミー船内実験室に取り付き伸展しているマニピュレータ
宇宙開発事業団宇宙環境利用システム本部JEMプロジェクトチーム
上野 真司


最終更新日:1999年 10月 7日

 
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