ISS/「きぼう」の文化・人文社会科学実験(パイロットミッション)
アイデア募集要領 参考資料
1. 一般利用分野について
平成14年5月宇宙開発委員会により「わが国の宇宙開発利用の目標と方向性」が取りまとめられ、「ISS/JEMの利用計画の見直し」「ISS/JEMの運用・利用体制整備の方向性」などについて課題が提示された。
これをうけて、宇宙航空研究開発機構(当時:宇宙開発事業団)では、宇宙環境利用検討委員会/一般利用分科会(座長:高柳雄一 当時:電気通信大学教授)を設置し、教育分野、文化・人文社会科学、民間利用等の分野(一般利用分野)における課題解決に取り組んだ。
一般利用分科会による議論により、「ISS計画の意義」「一般利用の意義」が再確認され、本分野における積極的な推進が提言された。
また、これをうけ、宇宙開発委員会は、一般利用分野を優先的に推進するべき領域とした。
宇宙環境利用検討委員会/一般利用分科会中間報告書(抜粋)
◆ISS計画の意義
そもそもISS計画は他の宇宙利用とは本質的に異なる意義を有している。
ISSは人類の本格的な宇宙での活動を展開する第一歩であり、生物進化の流れの中で、地球の文明を担った人類が、宇宙という新しい環境に進出するステップが実現するものである。
また、ISS計画は人類が未知の世界で行う最大の国際協力事業であり、様々な困難を乗り越え、国家を超えて共同で人類が未来を開拓する営みを続けることなど、人類の未来への挑戦の象徴とも言える。その意義を広く人々に伝えることで、勇気、生きていく力、夢を持つ原動力を育むことができるに違いない。
更に、アポロ計画がもたらした青い宇宙空間に浮かぶ地球の写真は「宇宙船地球号」という概念を創生し人類の地球観を変えた。21世紀の社会はすでにあらゆるところで人間活動は宇宙の技術に依存しているだけでなく、私たちの考え方や文化的な活動にも地球観、宇宙観が影響している。こうした状況のなかでISSからの視点は宇宙と人類の結びつきを明確にし、地球の有限性の認識や地球人としての一体感などを醸成する事が出来る。
この様な人類史的観点から重要な意義を持つISS計画が広く一般の人に伝えられていない。またそのような意識が政策・実施担当やマスメディアにも十分伝えられていない。このため、科学技術の専門家という閉じた世界で隔離された議論に陥り、一般の人々のISSに対する認知、意義の理解、自ら参画できるという意識を広げられないため、十分な支持が得られていない、というのが現状ではないか。
また、これまでも広報活動はなされてきているが、一方向性の広報だけに偏っており十分にこれらの意義を伝えることには限界があった。ISSは本来、より多くの人が興味を持ち、幅広く参画できるようなテーマを取り扱える唯一の宇宙計画でもあることから、そのような枠組みを積極的に構築する必要がある。
◆ 一般利用の意義
上記のようなISSの持つ本質的な意義を踏まえた上で、従来の科学・技術の研究開発分野にとらわれない新しい領域として、様々な試みが行われ始めている一般利用の持つ意義を整理してみた。
1. 地球人育成への貢献
ISSからの視点が、地球の有限性の認識や、地球人としての一体感などを醸成することに貢献できる。さらに、人類が様々な困難を乗り越え、国家を超えて共同で未来を開拓する営みを続けることなど、ISS計画が持つ人類史的観点での意義をわかり易く伝えることが、次世代の人材育成に必要である。
また、ISSは微小重力環境、人の介在によるきめ細かなサービス、宇宙空間への容易なアクセスといった特徴を活かして科学研究、技術開発のインフラとして活用されると同時に、自然科学教育のインフラとしても非常に有効な活用ができる。
この様にISSを教育的観点で活用することにより、21世紀の科学技術立国を支え、地球人として活躍できるような創造性豊かな人材育成に貢献できる。
2. 人類未来の開拓への貢献
ISSを含む有人宇宙活動は、宇宙に人間が存在することにより、宇宙での生活そのものから宇宙と人間の係わり合いといった精神的な面まで、一般の人々の関心が高い多様な接点を持ちうる活動であり、その他の宇宙活動と異なるユニークな点である。
有人宇宙活動が持つ、一般の人々が幅広く関心を持つ特徴を活かせるような利用にISSを開放することは、あらゆる人々を直接宇宙開発に参加させる契機となり、宇宙を身近に感じさせ、興味を喚起し、ISS計画を含む人類の宇宙進出の価値を共有することを可能にし、ともに人類の未来の開拓に貢献できる。
3. 宇宙利用における新しい価値の創出
ISSでの有人滞在が本格化し、日本の実験モジュール「きぼう」での利用機会が現実味を帯びてくるにつれて、従来の宇宙利用では発生し得なかった、もしくはそれまでは対応が困難であったニーズが顕在化してきている。これらのニーズを実現していくことは、宇宙利用の新しい価値を創出し、利用を拡大することにつながり、また民間を含む様々な地上の活動への宇宙利用機会の提供を通じて、それらの活動を活性化することにも貢献できる。
2. 人文社会科学的研究への取り組み
平成8年7月にまとめられた宇宙開発委員会宇宙環境利用部会報告において、今後検討すべき課題のひとつとして「宇宙環境利用を契機とした宇宙に関わる文化、人文・社会科学等の推進」が挙げられており、これを受けて、ISSを念頭においた中長期的視点に立った人文社会科学分野における利用の可能性を検討した。
本研究により、本分野の意義などを明確にした。
人類の持続的発展(サステナビィリティ)に貢献できるような、新たな倫理観、世界観、地球観の創出や、新たな文化の芽生えの促進
21世紀の地球社会は、教育問題、環境問題、人口問題、エネルギー問題、高齢化社会、民族対立などの難問に直面している。これらは、人類の存続にも影響を与える大きな社会問題であり、その解決には、「地球規模の叡智の結集」、「国際協力・国際協調と民族の融和」、「自然や地球の包容力が限られたものであるとの認識」が必要とされる。
地球から離れてISS からの視点を持つことにより、地球の有限性の認識、人類中心主義(人類が世界の中心である)からの脱却、地球人・人類共同体としての意識を醸成することに非常に有効である。
また、ISSは人間が恒常的に生活できるミニチュアの地球社会と見なすこともできる。このミニチュア社会を実験空間に見立てて、そこで繰り広げられる多民族・多文化の人間の生活が、調和し安定するための条件を見出すための実験を行うことも、地球人としての新たな倫理観の醸成に貢献できる可能性がある。
人間の感性、精神活動のフロンティアを開拓する新しい人文社会科学の展開
人類文明は地上での1G環境を前提に発展してきた。21世紀に人類の宇宙進出が本格化する時代には、これまでの地上の常識を覆す微小重力環境での新たな文明が想定される。ISSはこれら新しい宇宙文明への第一歩であり、微小重力環境や相対化された地球という視点は、これまでとは全く異なる新しいフロンティアとして人文社会科学分野の発展に寄与できる。
科学技術と人文社会科学の「新たな総合」
これまで多くの科学技術プロジェクトとは異なり、ISS計画は上記のような点で、文理融合型の研究といえる。
3. 芸術分野への取り組み
人文分野における調査・研究から、具体的な研究分野として芸術分野を立ち上げ、ISSの利用を通じて人類が新たな自然観・人間観・世界観を共有する一つの方法として、創作活動や造形研究などの芸術の視点における、宇宙と人間の関わりの本質を探究することを目指した。(成果については各共同研究成果報告書を参照)
最終更新日:2006年5月19日
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