平成12年9月に発出した第1回微小重力科学国際公募における材料・物性分野における候補テーマの選定について、以下に示します。
| テーマ名 |
| 候補テーマ名 |
(1) |
研究テーマ名: |
Containerless Crystallization of Silicon in Microgravity
(微小重力下におけるシリコンの無容器結晶化)
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代表研究者: |
栗林 一彦(宇宙航空研究開発機構) |
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共同研究者: |
Dieter M. Herlach |
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ドイツ航空宇宙研究所 |
鈴木 俊夫 |
東京大学 |
青山 智胤 |
三重大学 |
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(2) |
研究テーマ名: |
Role of the short range order on the self- and impurity
diffusion of group 14(IVB) elements with a different degree of complexity
(液体構造の複雑性の系統的変化を示す14(IVB)族液体における自己拡散および不純物拡散に及ぼす短距離秩序の役割) |
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代表研究者: |
伊丹 俊夫(宇宙航空研究開発機構) |
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共同研究者: |
正木 匡彦
星野 公三
武田 信一
加美山 隆
内田 美佐子 |
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宇宙航空研究開発機構
広島大学
九州大学
北海道大学
石川島播磨重工業株式会社 |
| 選定理由 |
これまでの凝固現象に関する微小重力実験(「ふわっと92(1992年)」および「第2次国際微小重力実験室(1994年)」を含む)では、凝固時に始めに生じる結晶と融液との密度差による凝固メカニズムの解明、凝固時に融液中で密度差が生じる合金系での液体分離現象と合体機構の解明など巨視的に均質な合金の作製に関する物理現象を理解する際に、微小重力下での無対流状態の利用が極めて有効であることが示されてきました。その後、材料生成に関する物理現象の本質を探るため、より微視的な現象へと視点が移り、たとえば結晶欠陥の発生原因や均質な合金中の微細な凝固組織の成り立ちなどの研究が進められてきました。今回選定されたシリコンの結晶化のテーマは、次世代のナノスケールの材料科学の可能性を探るテーマとして、微小重力下の浮遊状態の球状シリコン液滴の結晶化過程を詳細に観察し、シリコン単結晶が生成するときの結晶への原子の取り込まれかたなどナノ領域の物理現象など結晶の高品質化にむけた重要な知見を得ることを目的としています。本研究の成果をもとに、地上における大型単結晶の育成条件の最適化や次世代電子素子への応用が図られている球状単結晶シリコンの高品質化への貢献が期待されます。
上記のような結晶化等のナノ領域の物理現象を理論的に解析する上で、拡散係数や粘性係数など基礎的な物性値の精密測定が不可欠です。ドイツが中心となって行った1985年および1993年のスペースシャトル実験では微小重力環境を利用した拡散係数の測定が行われ、従来と比較して極めて精度の高いデータを取得できることが明らかにされました。1997年に実施されたスペースシャトル実験「第1次微小重力実験室計画」では、日米欧の協力の下、拡散係数や粘性係数、熱膨張係数など材料科学にとって極めて重要な熱物性値の正確な取得が試みられました。日本は、このスペースシャトル実験において、新規の拡散実験技術(シアーセル)の開発に成功し、物性計測の中心的役割を担ってきました。今回選定された拡散係数測定のテーマは、これまでに蓄積された拡散実験技術を発展させ、日本の開発した帯域炉を用いてシリコンと同族元素であるゲルマニウムの自己拡散係数の測定実験を行います。さらに、上記の結晶化の観察と同様にナノ領域の物理現象を理解するため、コンピュータシミュレーションや中性子散乱による構造解析などと宇宙実験の結果を比較することにより、溶融した半導体中の原子の運動状態を探ります。
ドイツの研究者の提案したシリコン液滴の熱物性計測に、国際共同研究テーマとして日本の研究者が参画し、データの解析やサポートを行います。これらの物性値の正確な値の取得をもとに、材料科学におけるナノ領域の理論構築と応用をはかることができます。
| テーマ紹介 |
| 浮遊させたシリコン液滴 (通常の重力環境における実験) | (1)
「微小重力下におけるシリコンの無容器結晶化」
微小重力を利用して、空間に浮遊させたシリコン液滴中の結晶の成長する速さや形状を観察することにより、シリコン結晶に原子が取り込まれていく過程を調べます。高周波を流したコイル中の電磁場により溶融シリコンの液滴を浮遊させ、つづいて液体のまま融点以下に冷却した後に、シリコンの小さな結晶を接触させて結晶化させます。電磁場を用いた液滴試料の浮遊加熱は、通常の重力下で盛んに行われていますが、微小重力環境を利用することで通常の重力下の1/1,000,000の力で液滴を空間に浮遊させることができます。そのため、ほぼ真球状の擾乱の少ない液滴を用いた極めて高精度の観察が可能となります。
本実験は、欧州宇宙機関の開発した電磁場浮遊加熱装置(MSL-EML)を用います。MSL-EMLは、これまでのスペースシャトル実験を経て開発された新たなコンセプトの電磁場浮遊加熱装置です。
本研究の成果は、産業上重要なシリコン単結晶の高品質化へ寄与するとともに、新規の3次元半導体素子として注目されている球状シリコン素子などへの応用が期待されています。
(2)
「液体構造の複雑性の系統的変化を示す14(IVB)族液体における自己拡散および不純物拡散に及ぼす短距離秩序の役割」
溶融した金属や半導体の原子の運動を調べるために、微小重力を利用して拡散係数を正確に測定します。溶融した物質の中では、原子どうしが常に衝突しながら移動しています。それらの原子が一定時間の後にどれくらいの距離を移動したかを表す量が拡散係数です。原子の運動を直接観察する事はできませんが、液体の拡散係数を正確に測定することでそれを知ることができます。拡散係数の測定では、一般に、二種類の液体を静かに接触させて、それらの混じり合う時間を測定します。しかし、高温の溶融金属や半導体の場合、通常の重力下では僅かな温度差が対流を引き起こして混じる速さを変えてしまうために正確な測定が困難でした。微小重力環境を利用することにより、対流の影響が極めて小さい正確な測定を行うことができます。本実験は、周期律表でシリコンと同族のゲルマニウムを対象として、溶融状態の拡散係数の測定を行います。
本実験には、日本の開発した帯域炉を用います。この帯域炉を用いることにより、X線による透過映像により実験中のサンプルの様子を観察し、確実性を確認しながら計測をすることができます。拡散実験は日本の得意分野のひとつであり、スペースシャトル実験や小型ロケット実験を通して、実験技術の蓄積がはかられています。
本研究の成果は、溶融状態の原子の運動など基礎科学的な知見の獲得だけでなく、半導体などの結晶をつくる際に重要となる不純物濃度の均質化の向上などへの応用が期待されます。
| | | シアーセルによる拡散実験の模式図 | 拡散実験前 | 拡散実験中 | 実験終了 | (2種類の溶融金属を接触させる前の状態です) | (2種類の溶融金属を接触させ拡散させます) | (拡散試料を分断します) |
最終更新日:2003年10月1日
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