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向井宇宙飛行士 インタビュー

向井宇宙飛行士の飛行前インタビュー
プレス記者会見 1998年8月31日(月)米国東部標準時間

プレス記者会見 1998年8月31日(月)米国東部標準時間
Q1:最近の訓練はどのようなことをしているのですか。
向井:

 やはり最近の訓練はスペースシャトルの飛行訓練や、急に緊急事態が発生したときに逃げ出したりする、そういう訓練が多くなっています。もちろんその訓練で我々が宇宙で補う仕事に関しての訓練もありますし、私としてもスペースハブとサイエンス実験そういったものに関する訓練もあります。

Q2:今回のミッションの数はどのくらいですか。
向井:

 数は全部数えてはいないですけど、全部でこのミッション自身が83ミッション、スペースハブが30ぐらいです。

Q3:向井さんが興味があるミッションは何ですか。
向井:

 私は、日本が行うガマアンコウ2匹の魚を使った実験、これはすごく面白いと思います。
 今回ニューロラブ(STS-90)と違うところは、小さなオシロスコープなんですけど、実際に軌道上でその神経の活動電位がどういうふうに変わっていくか生データを見られます。非常に私自身面白いと期待しています。それと日本が行う植物の実験。これも大変興味があります。宇宙でいろいろな実験をして面白いのは重力が無い世界でどういった現象が起こるのか乗組員が自分の目で観察したり出来るところです。

Q4:クルー同士はもう仲良くなりましたか。
向井:

 私たち宇宙でしなくてはいけないことに対しては、全て訓練を組んでいるのです。これはスペースシャトルの訓練だけじゃなく、実験の訓練もあります。
 グレンさんはグレンさん用に組んであって。それは私用に組んであって。今の時点までいくと乗組員が一緒に仕事をする訓練になりますから。四六時中一緒に仕事をしています。
 こういうものはチームワークなのです。
 宇宙飛行士はみんな一緒に仕事をしてて面白い人たちが多いし、あのグレンさんも非常にチャレンジ精神が旺盛で、暖かく、ジョークをよく飛ばす人ですから。ほとんど私たち訓練のときにはどっからしらで必ず笑い声が漏れています。
 もちろん訓練は厳しい訓練ですけど、必ずみんなにこにこジョークを飛ばしながら、訓練しています。

Q5:グレンさんと一緒にスペースシャトルに搭乗することについてどうお考えですか。
向井:

それはもう私としては大変光栄なことだと思います。いつも思うのですがグレン宇宙飛行士らフレンドシップ7の7人たちがやってきたIVA(船内活動)の功績、パイオニア精神、未知のものに向かう力とか、そのようなものがなければ現在の有人宇宙飛行はここまで発達していなかったと思います。このような大先輩と共に宇宙に行けるということはとても光栄であると思います。

Q6:グレンさんの老化の研究をサポートする上で向井さんのかつての医学上の専門知識はどのような形で役立つと思いますか。
向井:

もちろん採血などを行うには医学的な技術が必要です。同乗するスコットと私が医療担当として、グレン宇宙飛行士のみではなく、乗組員に緊急の事態が発生して医師としての作業が必要になってくれば対応しなければなりません。また、そのための訓練も受けています。医師としての作業だけではなく、臨床医としての経験、医学の知識及びライフサイエンスの知識は、スペースハブの中で行う実験などにも役立つと考えています。

Q7: グレンさんを何て呼んでいますか
向井:
 私に向かって言ったわけではありませんが、グレン宇宙飛行士がジョンソンに来て、最初に訓練を始めたときに、「このミッション中は、私は国会議員ではない。私のことはジョンと呼んでくれ」と言われました。それまで私たちは何と呼ぶべきか考えていました。
 みんなにすぐに溶け込もうという姿勢が伝わってきましたので非常にすばらしいそして良い人であると感じました。

Q8:向井さんはグレンさんに何と呼ばれていますか?
向井:

 ファーストネームで「ちあき」と呼ばれています。

Q9:他の乗組員には、向井さんは何と呼ばれていますか?
向井:

 これは私とグレン宇宙飛行士だけではなく、他の乗組員もファーストネームやニックネームで呼び合っています。

Q10:グレンさんが飛行したときのことを覚えてますか。
向井:
 グレンさんが上がったときのことははっきりとは覚えていません。当時の日本は10才の子供であった私に理解できるような報道をしていなかったのではないでしょうか。
 私がグレンさんを初めて知ったのは、高校生くらいの時でした。アポロ宇宙船の月着陸(アポロ11号)に関わる新聞や子供向けの本などの記事で、アメリカの有人宇宙飛行の歴史として紹介されていたのを見て知りました。

Q11:現在の訓練の中心となっていることは?
向井:

 クルーコーディネーションが中心です。スペースシャトルの運用や宇宙生活を行う上で、7人のクルーの息がぴたりと合うように訓練しています。
 また、宇宙での活動予定等を記したタイムラインと呼ばれるスケジュールをもとにシミュレーションを行い、宇宙での貴重な時間を効率よく使えるように乗組員全員で調整します。

Q12:前回の飛行で、宇宙酔いに苦しめられたそうですが、今回何か対策はありますか?
向井:

 宇宙酔いとは、海外旅行に行ったときに起る時差ぼけのようなもので、個人差はありますが誰しもかかります。私は自分の体に起る宇宙酔いという現象を自ら観察し、ありのままを受け止めて宇宙生活を送っていきたいと思っています。

Q13:ガマアンコウの実験で宇宙酔いについて調べますね。
向井:

 この意味からもガマアンコウの実験に興味があります。
 ガマアンコウの実験というのはテクニカル的に一本の神経繊維から出る活動電位を測定できるわけです。それがなおかつ24時間連続的に観測できるので、宇宙での重力のないことによって生物が宇宙酔いになり、重力感知器、耳石と言いますが、そういうものから出てくるシグナルがどういうふうに感知していくか、どういうふうに生物が適応していくかそういったことを調べようと思っています。

Q14:データが生で見れるのですね。
向井:
 ええ、生で今度見れますから、それは非常に面白い。

Q15:4月のニューロラブの時はデータは帰還後に見たのですか。
向井:

 そうです。回収しても、そのデータのはデジタル変換されています。今度見れるのはアナログで、スペクトルが研究室で見れるのと同じような活動電位が見れますから。少しニューロラブの経験を生かして、さらにもっと細かい所まで見ていけると思います。

Q16:前回に着陸した後に逆に重力の面白さを感じたとおっしゃっていましたけど、再び行けるというのは期待感でいっぱいですか。
向井:

 私は今度の飛行もそうですけど、もちろん仕事をちゃんとやってくるのですが、一つ期待しているのは、また宇宙に自分の体がなれて帰ってきた後にこの地球上に本当に重力がある、例えばその一枚の紙の重ささえ自分で感じた、あのときの感動をもう一回味わいたいと思っています。
 そのために自分の体を重力のない所においてみたい。それが一回目のフライトの時に一番思ったところで、まあ、頭では地球上では物を下に落とす重力があるって分かっていても実際にそのそういったものがなくなった世界から帰ってくるまで重力って言うものに感謝していなかった。人間って大体無くしてみて分かるのです、あったありがたみが。私たちが地球でこういうふうにうまく生活しているのは、重力がある所で発生し発達してきた生命体だから重力はどうしても必要だと思います。
 そういったことを研究するためには、重力がない世界に行かないと実際に重力がどういうふうにわれわれの体に影響しているか分からないので、そういうことも含めてその宇宙については私自身楽しみにしています。

Q17:グレンさんは77歳で宇宙に行くことについて、何か問題はないのでしょうか。
向井:

 これは、年齢に関係なく、別に年が77歳だからダメとかではなく、宇宙という環境の違うところに自分が行って、そこから環境の違う地球に戻ってくるっていうことが生物にとってのストレスです。
 これは若くても年取っていても誰でもストレスがあります。どんなに時差ボケに強いっていっても必ず細かい点で調べてみると時差が違うところに行って慣れるのに時間がかかる。環境の違うところでは、人間は慣れますけど、そのためのずれは生じてしまう。77歳だから出来るか出来ないとは全く関係なくて、グレンさんは、十分慣らしてあるし、大丈夫であるといってます。

Q18:向井さんは睡眠実験を行いますが、どういったことをするのですか?
向井:

 メラトニンが実際に睡眠の催眠剤として利くかどうかを調べます。そのためにメラトニンかメラトニンでないか誰も分からない。研究者も分からないそれを我々が毎日飲んで、ある特定の日の睡眠脳波を計測することで、実際にメラトニンが睡眠剤として利くかどうか調べます。
 これは元々宇宙飛行士の中で睡眠がなかなか宇宙でとれないということがあったので、できればそういうメラトニンのようなものを将来ISS等に使用したいというクリニカルリサーチ(臨床研究)により、宇宙飛行士に活用できるか調べます。
 宇宙飛行士もシフトワークなのです。要するに夜中働いてみたり、地上でも例えばトラックを運転している人とか、夜勤している人とか、それと同じように宇宙飛行士も時間ていうものを非常にずらして生活しなければいけないので、基礎的な研究というよりは、より臨床タイプに近いものです。

Q19:今回の飛行で、是非押さえておきたい宇宙からの景色などは?
向井:
 今回は軌道も高く、スパルタンを放出したりしますので、必ずしも窓が宇宙に向いているわけではなく、地球を向いていることが多いのでもっと日本を眺めたいと思います。
 地球は宇宙から見ていると見飽きないぐらいとても綺麗なんです。自分が故郷にしているのを変に思えるくらい。ただ、スペースハブの仕事も面白いので、どうしても仕事の方をやってしまいます。

Q20:今回の飛行中、余暇などで特別にやりたいことは?
向井:

 今のところは自分の任務の遂行が精一杯で自分の余暇をどう使うかというのは考えていません。ただ、今回の飛行で私が行う植物実験と同じ実験を地上で子供たちが行います。これはとても面白いことであると思っています。自分が面白いと思っていることを、ほかの人とも共感できたら最高にすばらしいと思います。とても楽しみにしています。




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