実験内容
マウスのES細胞を凍結状態でスペースX社のドラゴン宇宙船2号機によりISSに打上げ、きぼう内の冷凍庫(MELFI,−95℃)に保存します。それぞれ6ヶ月、1年、1年半、2年、3年と軌道上で保存したのち、地上へ回収し細胞を培養して宇宙滞在の影響を調べます(図1)。
宇宙空間は多種多様な放射線が混在する環境であり、地上では長期的にそのような環境をつくることができないため宇宙での実験が必要です。ES細胞は宇宙で凍結保存している間に宇宙放射線に被ばくします。地上へ回収したES細胞について、生存率、DNAの切断、染色体異常などを調べます。さらにES細胞を受精卵に導入し、初期発生の過程および生殖細胞形成への宇宙放射線の影響を解析します。
この実験では正常なES細胞の他に、DNA損傷を修復するヒストンH2AX遺伝子を欠損したES細胞も打ち上げる予定です。この遺伝子を欠損したES細胞に放射線を地上で照射すると、図2および図3に示すような染色体の断裂や転移の頻度が元の細胞よりも多いことがわかりました。これらの細胞を用いると効果的に宇宙放射線の影響を調べられるとともに、生物に本来備わっているDNA修復遺伝子の働きを明らかにできると考えています。
ココがポイント!
ES細胞を用いた実験は、宇宙実験以外にも応用が考えられます。宇宙実験の結果をもとに医療機器などによる放射線のリスク評価に利用できるだけでなく、地球環境における有害な化学物質の影響評価ができれば食品添加物などの発がん性や有害性のリスクを予測できると期待しています。
|