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宇宙実験サクッと解説:幹細胞実験編
〜宇宙でも人類は長期間生活できるか〜


宇宙実験調査団のピカルがStem Cells実験を大調査!
実験提案者の森田先生とも仲良しの物知りハカセに聞きました。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

ハカセ、宇宙兄弟の映画を見ました。でも将来、僕たちが宇宙旅行をしたり、宇宙ホテルができて長い間宇宙に住むことができたりするようになったとしても、やっぱり、宇宙放射線の影響は気になりますよね。

ハカセ:

ほう、ピカルは宇宙に住みたくないかね。もともと生命は海で誕生し、陸上に進化したと言われておるし、コロンブスがアメリカ大陸を発見したように、人間もどんどんとその生息域を広げておる。そして我々は宇宙へと進出していき、将来は宇宙への旅行も移住も、普通のことになるかもしれんぞ。わしはもう年じゃが、ピカルが大人になるころには宇宙への移住は可能になっているかもしれんな。ピカルはどのくらいの期間なら宇宙に行ってもいいと思うかな?

ピカル:

半年くらいならいいかもしれませんね。宇宙飛行士は半年滞在しているし、2015年からは1年滞在する宇宙飛行士もいるそうですね。

ハカセ:

ほほう。さすがよく知っているな。確かに国際宇宙ステーション(ISS)の高度(400km)に半年住むくらいなら宇宙放射線はあまり心配はいらないみたいじゃよ。

ピカル:

えーっ!そうなんですか? でも地上で受ける放射線量の半年分を宇宙では1日で受けてしまうと聞きました。だから計算するとえーっと・・・。

ハカセ:

宇宙ステーションでは1日に0.5ミリシーベルト程度じゃ。JAXAは国際宇宙ステーションで宇宙放射線の計測を行っておるから、くわしくはこちらを見てもらいたいが、もちろんヒトが病気になるというレベルではないぞ。

ピカル:

そうなんですね。ちょっと安心しました。でも、やっぱり、何年も宇宙に住んで、子孫も増やしていくというのは難しそうですね。

ハカセ:

そうじゃな。宇宙で子供を作ることができた脊椎動物は、今までのところメダカだけじゃ。1994年に日本が実施したスペースシャトルの実験じゃが、宇宙で生まれたメダカの卵は、正常に発生して子メダカになったことはピカルも知っておるじゃろう。哺乳類の受精卵も、宇宙で正常に発生し成長するのか、これが重要なんじゃが、実験しようとしても難しいわけじゃ。

ピカル:

うーん、哺乳類ですと、生まれるまでに時間もかかりますしねえ。

ハカセ:

宇宙飛行士に宇宙で子供を産んでもらうわけにもいかんしのう。ネズミのような哺乳類を長く飼って宇宙で子供を産ませるというのも、飼育装置の開発、つまり餌や糞尿の処理、ネズミを健康に飼育する技術が必要で、まだ世代交代をさせられるほど長期間の飼育ができる装置は完成しておらん。

そこで、森田先生のグループは、宇宙環境の哺乳動物に与える影響を研究するために、ネズミのES細胞を使うことにしたわけじゃ。ネズミは哺乳類で、人間と基本的に同じ体の仕組みを持っておるから、実験動物として好都合というわけじゃ。

写真

森田先生の研究チーム、大阪市立大学 医学部前で撮影

写真

マウスES細胞
フィーダー細胞と呼ばれる細胞を下に培養し、その上にマウス胚性線維芽細胞を培養してES細胞を作成します。ES細胞にはGFPとよばれる緑色のタンパクを発現する遺伝子を導入しているので、緑色に見えます。写真はES細胞がたくさん集まったコロニーで、一つの細胞ではありません。

写真

顕微鏡を用いて受精卵にES細胞をマイクロインジェクションしているところです。

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細いガラス管の先がマウスの胚に刺さっていて、その中からES細胞が注入されています。

写真

マウスES細胞が入った受精卵を、偽妊娠したマウス(白いマウス)の子宮に移植するとES細胞をたくさん含むマウス(真ん中の茶色のマウス)が生まれます(写真は地上での飼育実験)。

ピカル:

ハカセ、ES細胞ってなんですか?

ハカセ:

おお、ES細胞とは胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells)という万能細胞のことで、どんな細胞にも分化する能力をもつ特殊な細胞じゃ。実験名のStem Cellsもこれに由来しておる。

普通、細胞は皮膚なら皮膚、神経なら神経というように、決まった性質を持った状態になってしまったら別の細胞になるということはない。ところがES細胞はどんな細胞にもなる能力を持つわけじゃ。すごいじゃろう。

ピカル:

すごいですね! ES細胞が万能細胞っていうことは、ノーベル賞を受賞した京都大学の山中先生が作り出したiPS細胞の仲間なんですか?

ハカセ:

うむ、さすがはピカル、よくニュースを見ておるな。そのとおりじゃ。山中先生は、マウスやヒトのES細胞が色々な細胞に分化できることに興味を持ち、すでに分化した細胞から人工的に万能細胞をつくることに成功したのじゃ。これがiPS細胞じゃよ。

実際に、宇宙で長期間保管したES細胞を地上にもって帰り、マウスの受精卵に注入すると(マイクロインジェクション)、宇宙を経験したES細胞由来の細胞をたくさん含む子ネズミが生まれることになるのじゃ。つまり、間接的ではあるが、宇宙環境の影響を調べられるわけじゃな。ES細胞でなければ受精卵に入れても一匹のマウスにはならないのじゃよ。

ピカル:

なるほど・・・。万能細胞だからこそ、発生や出産など次世代への宇宙環境の影響も調べられるわけですね。

ハカセ:

そうじゃ。もしES細胞が受けた宇宙放射線の影響が大きい場合には、親ネズミのおなかの中で発生が止まったり、正常なネズミが生まれなかったりすることもあるかもしれん。このようにして放射線の影響を調べることができるのじゃ。

それに、ES細胞は、正常な染色体をもっておるから、遺伝子の本体であるDNAの傷を見つけたり、染色体の異常を見つけ出したりするのに便利で、遺伝子への影響を調べることもできるから、これも重要じゃ。

ピカル:

ES細胞、大活躍ですね。

ハカセ:

宇宙に保管するのは、ふつうのES細胞だけじゃない。生物の細胞のなかには、DNAの傷を治してくれる遺伝子があるのじゃ。それらが昔々、まだ放射線や紫外線が強かった時代に、細胞の中の遺伝子を守ってくれたと考えられるのじゃ。だからこそ、我々人間をはじめとする多彩な生物が現在の地球上に生き残ってこられたわけじゃよ。

ところが、今回実験する細胞のなかには、このような放射線から細胞を守ってきた遺伝子を人工的に無くしたES細胞も入っておるから、逆に、その遺伝子が宇宙放射線によるDNAの傷をどの程度治してくれているかがわかるはずなんじゃ。これらの遺伝子ががんばってくれれば、宇宙での長期滞在も、いよいよ期待できるかもしれん。

ピカル:

宇宙に打ち上げたES細胞でもノーベル賞が取れるかもしれませんね。

ハカセ:

ぜひそうなるとよいな。

ES細胞は凍らせたまま国際宇宙ステーションに運ぶ予定じゃ。RadGeneLOHなどのこれまでの日本の宇宙実験棟である「きぼう」日本実験棟での研究で、細胞は凍っていても放射線の影響を受けることが分かったのでな。ES細胞を宇宙ステーションに3年間程度凍結した状態で保管して、地上に持って帰り長期間宇宙放射線を受けた影響を調べる実験に使うことにしておる。

図

遺伝子の本体であるDNAに宇宙放射線が照射されるとDNA二重鎖が切断されます。この傷は、DNA修復タンパク(緑色)により修復され、再び結合してもとの姿に戻ります。

ピカル:

ハカセ、冷凍しておけば3年も保管できるんですか?

ハカセ:

うむ、普通は液体窒素など-150℃で長期間保管するのじゃが、宇宙ステーションには、-95℃の冷凍庫しかないので、その温度で、ES細胞が3年間以上ちゃんともつか、チェックしたんじゃぞ。

ピカル:

なるほど・・・。それ自体がすごいことなんですね。

ハカセ:

宇宙に持っていくにはいろいろな困難があるからのう。

ピカル:

これで、マウスへの影響が詳しくわかると、僕たちが宇宙に行って、そこで子孫を残すことができるかもしれないのですね。もしかして遠い将来は「月で暮らす家族」なんて人たちもでてくるかもしれませんね?

ハカセ:

そんな時代もすぐ来るかもしれんぞ。どうやら、人類の将来が浮かんできたようじゃな。

ピカル:

月の家族かあ。僕が第一号になれるかもしれないね。がんばるぞ!


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