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最終更新日:2015年4月13日

宇宙実験サクッと解説:筋繊維の変化って?編

宇宙実験調査団のピカルが物知りハカセに突撃取材しました。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

ハカセ、最近線虫を使った実験が多いですね。「エピジェネティクス」「スペースエイジング」に続いて、新しい実験「Nematode Muscles(ネマトーダ・マッスルズ)」ですね。マッスルというからには筋肉の実験なんでしょうか。

ハカセ:

うむ。エピジェネティクス実験の時も説明したように、2009年のきぼうでの宇宙実験CERISEで、線虫の筋肉などが微小重力環境の影響を受けて、特定の遺伝子の働き(発現)が低下したという結果が出た。だから今回の宇宙実験では、その理由を知るために適したサンプルを持って行く。つまり今度は観察できるように可視化したサンプルじゃ。宇宙で9種類の線虫を培養して、実際の筋肉や繊維、体長など形に現れる変化をしっかり調べようという実験はこれが初めてなのだ。宇宙で培養して得られた線虫を培地ごと保存液と混合して冷蔵保管して、地上に持ち帰り詳細に観察を行う予定なんじゃ。

ピカル:

今回は何世代交代させるの?

ハカセ:

今回は成虫1世代と2世代目の子虫だけじゃ。しかし9種類も持って行くから、十分な解析が期待できるぞ。

【表3】Nematode musclesで使用する線虫 東北大学提供
系統 特徴 phenotype
1) SD1590 野生型の線虫。筋細胞の核とミトコンドリアが見える。 Muscle Nuclei
Muscle Mitochondria
Intestine
2) HI1002 短寿命の線虫。筋細胞の核とミトコンドリアが見える。 Muscle Nuclei
Muscle Mitochondria
3) HI1003 長寿命の線虫。筋細胞の核とミトコンドリアが見える。 Muscle Nuclei
Muscle Mitochondria
The most cells
4) TJ356 野生型の線虫。DAF-16タンパク質が見える。 DAF-16 protein localization
5) RW1596 野生型の線虫。筋繊維が見える Muscle myosin fiber
6) BC20374 野生型の線虫。筋細胞が見える。 Muscle area and mass
7) LT121 変異型の線虫。体が短い。 Short
8) BW1940 変異型の線虫。体が長い。 Long
The most cells
9) CB15 接触刺激の変異型の線虫。尾が曲がっている。 Tail bend

ピカル:

宇宙に行ったら重力がなくて楽になる。線虫もゆっくり泳ぐようになったってホント?

ハカセ:

うむ。線虫を液体培地で育てた時、重力がないところで育った線虫は、重力があるところで育った線虫より動きがゆっくりになった。しかも餌が十分あるのにエネルギー生産に関わる遺伝子群の発現が低下したのじゃ。その代わり、栄養が足りない時に発現が増えてくるsirtuin(サーチュイン)遺伝子が活性化していた。

ピカル:

それってどういうこと?宇宙ではエネルギーをたくさん使わなくてよい状態になって筋萎縮が起こるってことかな?それとも筋萎縮が起こるからエネルギーを使わない体になるのかな?

ハカセ:

どっちが先か、非常に難しい問題なのじゃ。JAXAと東北大の研究チームは、細胞一つ一つが重さを感じていて、重さを感じなくなると、エネルギーを使わないでいい状態になり、筋肉の萎縮に至る、という仮説を提唱している。

ピカル:

なるほどね。その説が証明されれば、筋萎縮を抑えることもできる薬が作りやすくなるってことだね。

ハカセ:

そうじゃ。今、宇宙飛行士は運動器具を使ったり運動法を工夫して、筋肉の萎縮や骨の減少を防いでいるが、ある程度は進行してしまう。これはエピジェネティックスやスペースエイジング、細胞の重力感知メカニズム(Cell Mechanosensing)で研究している原因と深い関係があると考えることができるのじゃ。様々な試料を使って多くの実験がされているが、宇宙での生命科学現象を横断的・共通的に議論することができる。

ピカル:

もう少し詳しく教えてください。

ハカセ:

線虫という1種類の生物だけではなく、哺乳類細胞実験でも同じような結果が出ているので、複数の生物で結果を議論できるという意味じゃ。また個体を使った実験と細胞を使った実験で得られたデータを比べるという意味もある。

ピカル:

それで、いろいろな生物や細胞に現れる現象から、違いや共通点などを分析できるんだね。線虫の実験も、ヒトに繋がっているんだね。

ハカセ:

宇宙飛行士が長期に宇宙に滞在するとき筋肉や骨が急速に減っていく現象への解決策だけではなく、将来的には人間の病気の治療に応用することを目指しているのじゃよ。もちろん、宇宙のみならず、地上でも年をとったり、ケガをして寝たきりになった場合などにも役立つことを期待しているよ。

ピカル:

ふうーん。多くの研究者が一緒に議論して研究を進めているんだね。

ハカセ:

さらに、カロリー制限による長寿命化に関する研究は地上ではハエ、線虫、マウス、霊長類を用いて広く研究されているが、宇宙では線虫という比較的扱いやすい材料を使って再現性を確かめることも目指しているのじゃ。今回は9種類を500匹ずつ、合計4500匹を10mlのバッグに液体培地ごと入れて打ち上げる。線虫は蛍光タンパク質の発現する場所、線虫自体の大きさや形で区別できるようになっている。微小重力部と人工重力部に1つずつ、合計たった2つのバッグを使った実験じゃ。

ピカル:

たった2つのバッグでとっても面白い実験ができるんだね。ハカセ、説明どうもありがとうございました。僕も食事は腹八分目にしようと思います。


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