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宇宙実験サクッと解説:NanoStep編


宇宙実験調査団のピカルがタンパク質結晶成長実験を大調査!
実験提案者の塚本先生とも仲良しの物知りハカセに聞きました。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

ハカセ、こんにちは。 今日はNanoStep実験の調査で来ました。 タンパク質結晶の成長の様子を観察する研究と聞きましたけど、宇宙ではタンパク質の結晶実験って結構やってますよね?

ハカセ:

ほほう、ピカルもちゃんと予習してきたな。そうじゃ、宇宙ではタンパク質の結晶成長はたくさんやられておる。かなりいい成果もでておるんじゃよ(詳しくはこちら)。今回のNanoStep実験は、その結晶がどうやって成長するといい結晶になるのか、その仕組みを詳しく調べるのが目的なんじゃ。

ピカル:

結晶を顕微鏡で拡大して観察するんですか?

ハカセ:

うん、顕微鏡は顕微鏡でも、干渉顕微鏡を使うんじゃ。

ピカル:

干渉・・・もしかして、昔、氷の実験の時に教えてもらった光の干渉ですか?

ハカセ:

そうじゃ。よく覚えておったのう。その光の干渉を使って、今回は結晶の表面の様子を観察するんじゃ。今回の実験提案者の塚本先生は、光の干渉を使った結晶観察では世界でも最先端を走る研究者なんじゃよ。

ピカル:

へえ〜、そうなんですか!でも、結晶の表面の様子を観察っていっても、結晶の表面って平らですよね?

ハカセ:

そう思うじゃろう。・・・実はそうではないのじゃ。こっちの写真をみてごらん。これはリゾチームというタンパク質結晶を、普通の顕微鏡と干渉顕微鏡で観察したものなんじゃ。



左:リゾチーム結晶を実体顕微鏡で観察した画像。右:リゾチーム結晶表面を干渉計で観察した画像

ピカル:

えーっ!ふつうの顕微鏡だと表面が平らに見えるのに、干渉顕微鏡だとなんだか変な山の等高線みたいなのが見える!

ハカセ:

そうじゃろう。方法を変えれば、今まで見えなかったものが見えてくるわけじゃよ。科学者はこうやって、真実に迫っていくものなんじゃ。話はそれるが、国際宇宙ステーションで今めざましい成果をあげているMAXIは、宇宙を飛び交うX線を検出することで、今まで望遠鏡とかでは見えなかった、激動する宇宙の様子をとらえておる。

ピカル:

すごいですよね!それで、話を戻しますと、この結晶表面の等高線みたいなのは何ですか?

ハカセ:

うむ、これはまさに地形図の等高線と同じようなものと考えてよい。結晶の表面は実に複雑で、いくつもの山や谷があるのじゃ。まず光源から出る光を2つに分け、片方の光(試料光)を結晶表面にあてて反射して跳ね返ってきた光を捕えるのじゃが、山までの距離より谷までの距離のほうが長くなるじゃろう。この距離の違いがあるから、結晶の場所によって光の位相のずれが生じ、2つに分けたもう一方の光(参照光)と合体させたときにこのような干渉縞が出るわけじゃ。

ピカル:

なるほど・・・。干渉計を使って、どんな山や谷があるかを調べるわけですね。

ハカセ:

山や谷がどんなふうに広がったり埋まったりしているか、それをいろいろな温度で、リアルタイムで観察するのがこの実験じゃ。それだけじゃないぞ。場合によっては、温度を上げてちょっと溶かした時に大きな穴ぼこができたりすることもある。どんな条件で成長させると穴ぼこができるのかを調べれば、逆に穴ぼこができない、いい結晶を作る指針にもなるわけじゃよ。

ピカル:

ハカセ、この実験の目的は分かったんですけど、地上で実験するわけにはいかないんですか?

ハカセ:

もちろん、地上でもさまざまな実験を行っておる。しかし、地上ではどうしても、温度や濃度の差による対流が発生するから、正確な実験を行うには適していないのじゃ。理由はもう一つある。塚本先生たちが2007年に行った回収衛星を使った宇宙実験では、予想に反して、宇宙で作った結晶の成長が速いケースもある、という結果が出たんじゃ。これをきちんと検証したい、というのも今回の実験目的の一つじゃな。

ピカル:

宇宙では対流がないから、結晶への原料の供給が少なくなって、成長が遅くなるのかと思ってました。

ハカセ:

ピカルと同じで、みんなそう思ってたんじゃ。しかし、そうじゃないこともある、という結果が出たんじゃから、これは面白いのう。塚本先生は、液中の不純物が影響しているんじゃないかと推測しておるが、さて、結果が楽しみじゃ。

ピカル:

ほんとに、結果が楽しみですね。ところで、実験名であるNanoStepってどういう意味ですか?

ハカセ:

これはな、山の斜面が段々畑みたいになっておることに由来する。この階段のことを、専門用語でステップというのじゃ。実際、英語で階段の段のことをステップともいうんじゃよ。結晶が成長する、というのは、ステップが横に広がって、山全体が広がり、谷が埋まり、全体的に土地が広がって海抜が上がっていくようなイメージじゃ。タンパク質分子でできた土地じゃ。栄養があって、おいしそうじゃのう。

ピカル:

結晶成長のイメージがわいてきました!それで、Nanoのほうは?

ハカセ:

今回使うリゾチームというタンパク質は、ニワトリの卵の卵白に入っているタンパク質なんじゃが、1分子のサイズが直径3ナノメートルくらいしかないんじゃ。ステップの一段の高さも5〜6ナノメートルくらいで、非常に小さい。(注:1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1)

ピカル:

うわー、本当に小さいんですね。それでNanoなStepというわけか・・・。

ハカセ:

そうじゃ。ステップそのものが干渉計で見えるわけではないが、山の傾斜や山の広がりは検出できるから、計算によって1個1個のナノメートルサイズのステップがどう成長しているかを推測することができるわけじゃな。

ピカル:

よくわかりました。今回、いろいろな条件で結晶を成長させて、いい結晶ができる秘訣が分かるといいですね。

ハカセ:

そうじゃな。この結果は、タンパク質だけじゃなくて、いろいろな結晶に応用がきくから、わしも楽しみにしておる。

ピカル:

ハカセ、今日はどうもありがとうございました!


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