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宇宙実験サクッと解説:氷の結晶成長実験編

【第2回】干渉計って何?


宇宙実験調査団のピカルが氷の実験を大調査!

実験提案者の北海道大学古川義純教授とも
仲良しの物知りハカセに突撃取材です。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

ところでハカセ、実験の勉強をして気づいたのですが、干渉計ってものがあるんですね。

ハカセ:

よう気づいたのう。 これで結晶周囲の温度を計測するんじゃ。

ピカル:

えーっ、容器の中に温度計をたくさん入れて計っているんじゃないんですか?

ハカセ:

うむ、実はな、温度計をたくさん入れると、入れた温度計によって温度が変化してしまうんじゃ。 温度計の金属を通して熱が逃げたりするんでの。 そのために、温度計を入れずに温度を測りたいんじゃよ。 その方法が、光の干渉を利用した干渉計というわけじゃ。

ピカル:

干渉?干渉って何ですか?

ハカセ:

干渉とは、波と波が重なった時に生じる現象じゃ。 光は波でもあり、粒子でもある、と聞いたことがあるかな? ここで重要なのは波の性質なんじゃが、簡単に言うと、重なった波同士の足し算じゃな。 きれいに重なれば、波が大きくなる。 増幅されたと言っても良いじゃろうな(図1)。 例えば、合唱を想像してみるのじゃ。タイミングよく一緒に歌うと大きな声になるじゃろう?



図1 波と波がきれいに重なり、増幅されている

ピカル:

ふうん、干渉計は、声じゃなくて、光を重ねて増幅してるわけですか?

ハカセ:

そうなんじゃ。 光というのは奥が深くて面白いんじゃが、今回はさわりだけ話しておこう。 君は光の速さを知ってるかね?

ピカル:

えーっと、1秒で地球を7周半・・・ってやつでしたっけ?

ハカセ:

そうそう。 光は、真空中や空気中では、1秒でおよそ30万キロメートルも進むんじゃ。 地球の円周が4万キロメートルだから7周半ってわけじゃ。 ところで、真空や空気の場合にはこの速さだが、物質の中だと光の速さはどうなると思うかね?

ピカル:

そうですねえ、物質の中はいろんなものがあって邪魔が入りそうだから、遅くなる?

ハカセ:

ふむ、まあ邪魔というのは正確ではないが、結論は合っておるな。 君は自分で答えを探そうと努力しておるところが非常に良いな。 屈折率というのは知っておるだろう。 屈折率とは、真空中の光の速さと比べて、物質中の光の速さがどれだけ遅いかを示す指標じゃ。 屈折率が1よりも大きな物質では、光の速さが、真空中や空気中の光の速さよりも遅くなるのじゃ(注1)。 この実験で使う水の屈折率も、もちろん1よりも大きいんじゃよ。 そして、速さが遅くなると、図2の緑の部分のように波の山から山までの長さ(光の波長)は短くなるのじゃ。

注1:量子力学的には、光の「位相速度」が遅れます。



図2 緑の部分では、波の山から山までの長さ(光の波長)が短い

ハカセ:

緑の部分を過ぎたあとの波を見てみると、ずっとピンクのところを通ってきた波とはズレがあるじゃろう? このズレを専門的な用語でいうと、「位相のずれ」というのじゃ。 そして、温度が変わると屈折率も変わるので、温度によって位相のずれ方が変化することになる。 この性質を利用して温度計測を行うんじゃがね。

ピカル:

ハカセ、なんだか結構難しい話ですね・・・。 頭痛がしてきました。

ハカセ:

ふむ、君にはまだ少し難しいかもしれんな。 じゃが、もう少し辛抱してほしい。 さて、ここでレーザーの光(注2)が出ているとする。 これを特殊な装置を使って2つの光に分けてやり、その後、1つに合わせてやる。 そうすると、どうなるかな?

注2:レーザーとは光を増幅する装置のこと。 レーザー光は、位相の揃った単一波長の光です。

ピカル:

それは・・・2つに分けて、また合わせるんだから、また最初と同じ波になるんじゃないですか?

ハカセ:

そのとおり! 図1をもういちど見て欲しいんじゃが、合成前の2つの波には位相のズレが無い。 このため、合成後の波は、合成前の2つの波と同じ長さ(波長)の波だが、波の高さ(振幅)が変わるんじゃ。 つまり、光の強さじゃな。 同じ声の大きさの人がすばらしいタイミングで2人で合唱すると声の大きさが2倍になる。 それと一緒で2倍になるんじゃ。

ピカル:

なるほど・・・。

ハカセ:

じゃあ次の問題だ。 君が歌い始めてしばらく経ってから、わしが歌い始めるとどうなるかな?

ピカル:

輪唱になります。

ハカセ:

いや、そうじゃなくて・・・。

ピカル:

ああそうか、さっきの場合と違って、声の大きさが2倍にはならないんですね。

ハカセ:

そうそう、そういうことじゃ。 光も同じで、位相のズレがあるものを重ねると、図1のようにきれいに重ならず、図3図4のような具合になる。 図4は、波同士が打ち消しあって真っ暗ってことだ。 ただ、いずれも、重なってはいるので干渉とは呼ぶわけだ。



図3 波の位置にずれがあるため、振幅が小さくなる


図4 波の山と谷の部分を重ねると、打ち消しあって真っ暗になる

ピカル:

ここまでをまとめてみると、光の波長は、通る物質や温度によって変わって、それによって位相のずれが起きる。 そして、位相がずれた光を重ねても干渉はするけれど、位相が同じもの同士の干渉とは、光の強さが違う・・・ってことですね。

ハカセ:

そのとおりじゃ。 君はほんに理解力に優れておるの。 ところで、君はヤングという人物を知っているかね?

ピカル:

ヤング・・・若い人ですか?

ハカセ:

うーん、何百年も前の人じゃからなあ。 そうかね、知らないかね。 トーマス・ヤングというイギリス人で、医者でありながら、光について研究したり、ヤング率という物性値を研究したり、ロゼッタストーンの解読にもチャレンジした偉人じゃ。

ピカル:

へえー、昔の人は多才な人が多いですね。

ハカセ:

ほんに、そうじゃ。 それで、ヤングの行った光の干渉に関する実験を紹介したい。 図5をみてごらん。



図5 スリット(小さな穴)1を通って光の波が広がっていく様子

ハカセ:

スリット1を通って広がった光の波(黄色波線)をまず見てみるのじゃ。 波の山にあたるところを赤線、波の谷にあたるところを黒線で示しておる。 小さな穴を通った光はこんなふうに広がる性質があるんじゃ。 この波たちがもうひとつの壁の穴を通ったあとにどうなるか、図6をみてごらん。



図6 スリット2と3を通ってきた光の山と山、谷と谷がぴったり重なり、光の干渉によって2倍に増幅される様子(黄色線)

ピカル:

2つの穴から、それぞれ光が広がってますね。

ハカセ:

黄色の線で示したところをよく見ると、赤線と赤線、あるいは黒線と黒線が交わった点を通っていることがわかるじゃろう? 赤線は光の山、黒線は光の谷を表わしておるので、それらが交わる点はすなわち、スリット2と3を通ってきた光の山と山、谷と谷がぴったりあうということを意味する。 つまり、光が干渉して、図1のように2倍に増幅されるということじゃ。

ピカル:

それで、一番右側のスクリーンが白く明るくなっているんですね。

ハカセ:

そうじゃ。 逆に青色の線で示したところを見てみるとどうじゃ?

ピカル:

赤線と黒線が交わってますね。 ということは、山と谷ということだから、図4のように、打ち消しあって真っ暗ってことですね!

ハカセ:

そうじゃ。 それでスクリーンも真っ黒というわけじゃ。

ピカル:

なるほど、わかってきました。

ハカセ:

黄色の線と青色の線の間は、位相が徐々にずれているので、干渉後の光の強さも徐々に変化することになるんじゃ。 その様子が、スクリーンにはグラデーションで映るわけじゃ。 この、スクリーンに映る白黒の縞模様を「干渉縞」と呼ぶんじゃ。

ピカル:

へえー、面白いですね。 でも、今日は新しいことの勉強ばかりで、頭がパンクしそうです。

ハカセ:

まあまあ、そういうな。 今まで学んだことで干渉計は理解できるのじゃ。 ヤングがやったような実験で、図6のスリット3の後ろに水の入った容器をおくとどうなるかね?

ピカル:

えーっと、水の入った容器を通した光の速さは遅くなって、そのために波長が短くなって、位相のずれが起こります。 スリット3を通った光の赤線と黒線の位置が、図6とはちょっと変わるはずですよね。

ハカセ:

そのとおりじゃ! その、水の入った容器を通ったあとの光を、図6と同じように、スリット2を通ってきた光と干渉させるとどうなるかね?

ピカル:

ええーっと、位相のずれ具合に応じて、最後のスクリーンに映る光の強さが図6とは変わりますね。 つまり、干渉縞の具合が変わりますね。

ハカセ:

そうじゃ! 君は全くすばらしい! 干渉縞の変化の具合を調べることで、逆にどのくらい位相がずれたか、光が遅れたかを計算することができるんじゃ。 つまり、さっき言った屈折率がわかる。

ピカル:

なるほど・・・。

ハカセ:

屈折率は、屈折率計を使って測ることができるので、たとえば10℃の水、20℃の水、30℃の水の屈折率をあらかじめ計測しておけば、干渉後に出てきた光の強さを調べることによって、その水が何℃だったかがわかるわけじゃ。

ピカル:

推理小説みたいですね!

ハカセ:

そうじゃ。 では次の質問じゃ。 水の入った容器の中の一部の温度が違う場合はどうなると思うかね?

ピカル:

えええーっと、温度が違うと屈折率が違うので、その一部を通った光は、他のところを通った光とは干渉の具合が変わるんじゃないでしょうか?

ハカセ:

まさに、そのとおりじゃ。 つまり、この実験では、氷の周辺の局所的な温度変化を調べたいわけじゃが、その部分の干渉縞の具合が変化するので、それをカメラで検出して、あとで計算で温度変化を求めるわけじゃ。



図7 成長中の氷結晶周辺の干渉縞

ピカル:

やっと分かりました〜。 干渉計ってすごく便利ですね! 干渉計はいつもこういう用途で使うんですか?

ハカセ:

うむ、古くは、空間に「エーテル」というものが詰まっていることを証明しようとして、アメリカ人の物理学者のマイケルソンとモーリーが干渉計を使って実験したが、結果としてはそんなものはないことが証明されたんじゃ。 今は、天文学でもさかんに使われておる。 もっと身近なところでは、工業製品などの表面の凹凸を測る機械によく用いられておる。 光の特性を利用した、なかなか便利な道具じゃ。

ピカル:

今日はものすごく勉強になりました。 頭が3倍くらい重くなった感じです。


第1回の解説は「これはどんな実験ですか?」です。

文責:

氷結晶成長実験コーディネーター

吉崎 泉 (よしざき いずみ)
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 ISS科学プロジェクト室
主任研究員


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