実験の背景
宇宙飛行士が国際宇宙ステーションで長期間生活すると、骨量が著しく減少することが知られています。地上での生活では骨吸収と骨形成のバランスが一定に保たれていますが、微小重力環境になると、骨吸収が骨形成より大きくなり、骨が減ることが考えられます。このメカニズムを解明すると、重力が生物にどのように影響するかを明らかにできます。このバランスがこわれる一つの原因として、破骨細胞の働きが強まる(=活性化される)ことが考えられますが、実際のところ、本当に破骨細胞が活性化されるのか、また活性化されるとしたら、どのように活性化されるのか、基本的かつ重要なことはわかっていません。
また、骨は、腱を介して筋肉とつながっています。これまで、宇宙飛行士やラットの宇宙実験で、骨とそれにつながる腱や筋肉が宇宙で変形し、筋肉や腱の萎縮が観察されています。工藤明先生たちは、微小重力の宇宙では、骨への荷重がなくなり、骨を支えている腱や筋肉がゆるみ、この“ゆるみ”が骨に影響することで破骨細胞を活性化するのではないかと考えています。この実験では、脊椎動物のモデル生物であるメダカを用いて(図1)、その“ゆるみ”説に迫ります。
実験の目的
水中にいるメダカは、見かけ上、地上で重力の影響を受けにくいと思われがちですが、水中においてもメダカの各組織の密度は水よりも大きいため、その大きさに見合った重さがあります(図
2)。
鰾(うきぶくろ)から生じる浮力と体の重さを釣り合わせ、背骨が曲がらないように姿勢を保つには、背骨につながる腱や筋肉が働いていることは、私たちと同じです。宇宙では、浮力が作用せず、鰾は球形に近づき、骨の周りの組織に“ゆるみ”が生まれ、それが破骨細胞を活性化する可能性があるのです。宇宙での実験では、蛍光タンパク質で破骨細胞と骨芽細胞の両方を識別できるトランスジェニックメダカを用いて(図3)、破骨細胞と骨芽細胞の相互作用も含め、宇宙における骨代謝を解析します。
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