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実験の背景と目的


宇宙放射線が生物に与える影響については、宇宙放射線が遺伝子に傷をつけるとがん化が進むのではないかという可能性が指摘されています。

ですが、放射線が遺伝子そのものに傷をつけるところや、つけた傷がどのように修復されるのかについては、これまではなかなか観測できませんでした。



そこで、この実験では、遺伝子に放射線が直接傷を付けた「証拠」をヘテロ性の喪失(LOH)として高感度に検出できるように、ある「仕掛け」をしています。



この実験のキーワードは「ヘテロ」です。

ヘテロとは「異なった」という意味のギリシャ語でその反意語は「同じ」という意味の「ホモ」です。

ヒトの細胞には染色体が23対あります。

それぞれの染色体の上に遺伝子が配列されています。



実験では、ある一対の染色体上にある一方の遺伝子に変異を入れ、残る一方は正常のままにしておきます。

異常と正常の組み合わせですから、「ヘテロ」の状態です。

この状態で宇宙に持っていきます。

もし宇宙放射線に当たって正常な染色体の方に傷がつくと、どちらも異常な状態の「LOH」になる可能性があります(図1)。



持ち帰ったサンプルを特殊な薬剤を加えて培養すると、「ヘテロ」、つまり染色体に何も変化がなかったものはすべて死んでしまい、変化のあった「LOH」だけが生きたまま検出できます(図2)。

この方法では、生きている細胞と死んでいる細胞の区別は簡単につくために、たった1個の細胞に起こった変化でも確実に検出できます。



宇宙放射線には、特に染色体を切断してしまうほどの高いエネルギーをもった重粒子線が含まれています。

重粒子線は細胞に与えるダメージが大きいため、この方法以外にも様々な方法で検出が可能です。

ただし、国際宇宙ステーションの軌道は、重粒子線が頻繁にふりそそぐわけではなく、もう少し低いエネルギーの放射線に当たり続けているという環境のため、その影響を検出するためには、感度の高い検出機能が必要になるのです。

図1 ヘテロ性の喪失(LOH)のしくみ

染色体の片方に変異の入ったヘテロ状態の細胞を打ち上げる。 もう一方にも傷がつき、「LOH」の状態へ変化すると検出できる。

図2 培養液の色の変化によるLOHの検出

96個の穴のうち、ヘテロ性がなくなって「LOH」になったものが育つと培養液が赤から黄色に変わる。 細胞が生きていて老廃物を出し培養液の色が変わってくるため。 このように色の変化でヘテロの中から「LOH」を見つけ出す。



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