オーキシンがなぜ減少するのか、そのメカニズムは解明されているのですか。
「オーキシンの減少をめぐっては、あるタンパク質が重要な働きをしていることがわかってきました。
それはオーキシンを細胞から細胞に運んでいくのに必要なタンパク質で、オーキシン排出キャリアと呼んでいます。
キュウリの場合の英語名はCsPINと名づけました。
CsPINにはいくつか種類があって、CsPIN1がペグ形成に、CsPIN5が根の重力屈性と水分屈性に関係する可能性がみえてきました。
Hydro Tropiに続く実験では、この2種類のCsPINについて調べるつもりなので、実験名称は『CsPINs』としました」
CsPINsというのは、オーキシンの運び屋であるタンパク質の名前からとったものだったんですね。
CsPINの働きについて、もう少し詳しく説明していただけますか。
「オーキシンは細胞から細胞へひとつの方向性をもって運ばれます。
たとえば、ペグ形成の場合には、横になった胚軸の基部の上側で、オーキシンが下側に流れ込んで溜まっていく、という具合です。
そうして結果的に、上側でオーキシンが減少し、ペグ形成が抑制されるのです。
オーキシンは、細胞に入る時はどこからでも入れるのですが、出る時は特定の場所からしか出られません。
なぜかと言うと、オーキシンを排出するためのタンパク質、すなわちCsPINが出口にあたる場所にしか存在しないからなんです。
このように、細胞から細胞へCsPINの分布に沿ってオーキシンが移動していくことで、オーキシンの大きな流れと分布ができるというわけです」
ペグが下側に形成されるのも、根が重力や水分に応答して曲がるのも、オーキシンとCsPINが絶妙に連携しているからなんですね。
CsPINs実験では、特にどんなことを明らかにしたいとお考えですか。
「CsPIN1とCsPIN5の宇宙での発現の仕方を観察することです。
具体的に言うと、たとえばペグ形成の場合、地上ではオーキシン排出キャリアタンパク質(CsPIN1)は常に下側よりも上側で余計に発現します。
それが重力に応答して起きている現象である証拠をおさえたいのです。
宇宙では、ペグ形成部位である胚軸基部の両面おけるCsPIN1の細胞内局在は同じになると予想しています。
根に関しては、重力と水分に対する応答をきちんと分けたうえで、重力のないところでも、オーキシン排出キャリアタンパク質(CsPIN5)が仮説どおり水分の多い側で発現することを証明したいと考えています」
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