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微小重力環境では、熱対流(注)が抑制されるため、高品質な結晶が得られると期待されています。 宇宙飛行士の毛利さんが初めてスペースシャトルに搭乗した「ふわっと92」(1992年)でも温度勾配炉という装置を用いて高品質な半導体結晶の成長を目指した実験が行われ、対流抑制によって結晶の組成均一性向上の可能性が示されました。 しかし、狙いとする結晶品質達成のためには、従来の結晶成長方法では限界があり、理論的な検討が不可欠であることが明らかになりました。

(注)熱対流:水を火にかけたり、部屋でストーブを焚いたりしたとき、水や空気が上下に流れる現象が見られます。 これは加熱によって水や空気の密度が変化したところに重力が作用して生じる現象で、熱対流といいます。



そこでJAXAでは、「きぼう」に搭載する温度勾配炉(GHF)の開発と並行して、高品質な半導体結晶の育成法の研究を行ってきました。



高品質の条件として、組成の均一性(構成する原子がそれぞれ一様に分散してムラがないこと)があげられます。 従来の結晶化方法では実現するのが非常に困難でしたが、JAXAが開発したTLZ法(Traveling Liquidus Zone Method)は、この組成均一性を飛躍的に向上させると期待されています。



今回の宇宙実験では、微小重力環境を利用してTLZ法の有効性を実証することを目的としています。 そして、得られる結果をもとに大型かつ高品質な半導体結晶を地上で育成することに役立てます。



半導体の結晶成長方法には、「チョクラルスキー法」や「ゾーンメルト法」など多くの方法があります。 TLZ法は「ゾーンメルト法」の一種です。 ゾーンメルト法では、急峻な温度勾配をつけて加熱し、原料の一部を溶かして融液帯(原料が融けた領域)を形成し、融液帯を移動させて結晶を成長させます(図1参照)。



TLZ法では、通常のゾーンメルト法と異なり、融点の低い(低温で融けやすい)材料を、種結晶と原料の間にはさんで温度差を付けて加熱し、結晶原料が飽和濃度まで溶け込んだ融液帯(Liquidus Zone)を形成します。 。この融液帯を移動させ、種結晶上に狙いの組成の結晶を成長させます(図2、図3、動画参照)。 高品質な結晶を作るには、「温度勾配」と「加熱室の移動速度」をきちんと制御し、成長速度と加熱室移動速度を同期させて結晶を成長させる必要がありますが、TLZ法では、以下の工夫をしています。



温度や濃度を座標軸として、その条件での物質の状態(固体、液体、気体)を表示した図を状態図(相図)といいますが、TLZ法では、液体中の溶質濃度を、状態図から求められる飽和状態にすることによって、温度を決めれば濃度が自動的に決まるようにします。 この情報をもとに、ある温度勾配を与えた時の成長速度を予測し、その成長速度と合わせて加熱室を移動させることによって、結晶が成長していくときの固体と液体の境目(結晶成長界面)における温度と濃度を一定に維持します。 これにより、成長界面では常に一定組成の結晶を成長させることができます(図4)。

図1 一般的なゾーンメルト法の模式図


図2 TLZ法の模式図


図3 実験中の加熱室の動き


【動画】TLZ法の概要
上の図をクリックすると再生されます。


図4 TLZ法と従来法の比較
結晶の成長速度は溶質の濃度勾配によって決まります。 TLZ法では、溶質の濃度勾配が温度勾配によって決められるため、温度勾配によって成長速度が決まり、一定に保つことができます。 一方、従来法では、ある温度で様々な溶質濃度になることから、結晶の成長速度も様々な値をとってしまいます。

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