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宇宙実験調査団のピカルが
ファセット的セル状結晶成長機構の実験を大調査!
実験提案者の稲富先生に聞きました。
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稲富先生
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ピカル
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ピカル: |
稲富先生、はじめまして。
今日は実験テーマの勉強に来ました。
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稲富先生: |
どうも、ピカルくんはじめまして。
よろしくお願いします。
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ピカル: |
早速ですが、先生の実験テーマ名「ファセット的セル状結晶成長機構の研究」って、名前からしてちんぷんかんぷんなんですけど。
ファセット的?
セル状?
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稲富先生: |
そうですね、わかりにくいですよね。
まず、ファセットというのは「平らな面」という意味です。
たとえば、私の持っているこの紫水晶をみてください。
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ピカル: |
はい。
わぁ〜、きれいですね!
きらきらするもの大好きなんです。
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稲富先生: |
きれいでしょう(うれしそう)。
どうやってこういうきれいな結晶の形が決まってくるのか?というのが私の研究の大きなモチベーションなんです。
この結晶、よくみると平らな面で囲まれていることがわかりますよね?
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ピカル: |
そうですね。
このような平らな面のことをファセットというんですか?
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稲富先生: |
そのとおりです。
このような面のある結晶は「ファセット成長をする」なんて言い方もします。
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ピカル: |
なるほど。
では、セル状というのはどういう意味なんでしょうか?
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稲富先生: |
ピカルくんは以前、浅島先生の実験の取材にも行きましたよね?
そのときに、カエルの細胞の話をしませんでしたか?
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ピカル: |
はい、しました。
それと何か関係があるんですか?
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稲富先生: |
実は、「セル」というのは「細胞」を意味する英語でCellと書きます。
つまり、セル状というのは細胞のような形状を意味するんです。
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ピカル: |
へえ〜、そうだったんですか!
つまり、細胞のように小さく分かれて平らな成長をする結晶の、成長の仕組みを調べる研究ということですね。
でも、ちょっとイメージがわかないなあ。
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稲富先生: |
この図はいかがでしょうか?
結晶がファセット的セル状成長をしている様子の模式図です。
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ピカル: |
あ、確かに、細胞が並んでるように見えますね!
うちのお姉さんが読む美容雑誌に載ってる「皮膚の表面細胞」みたいです。
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稲富先生: |
そうでしょう。
赤丸で囲った部分を順々に見ていくと、細胞が分裂しているように見えませんか?
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ピカル: |
あっ、本当だ!
平らな面が増えてます。
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稲富先生: |
そのとおりです。
例えば半導体の結晶でも、条件によっては、成長が進むにつれて新しい小さなファセット面ができたり、反対に小さなファセット面同士がくっついて大きくなるような成長をすることがあるのですが、この新しいファセット面ができるときに結晶に欠陥が入ったり、不純物がたまったりして、結晶の品質が悪くなると言われているんです。
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ピカル: |
えっ、それは困りますね。
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稲富先生: |
そうなんです。
しかし、どういったきっかけで新たなファセット面ができるのか、その仕組みは全然わかっていないんですよ。
この実験では、新しいファセット面ができる場所と、そのときの周囲の濃度や温度を正確に調べることで、その秘密を解き明かそうとしています。
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ピカル: |
先生、この実験は地上ではできないものなんですか?
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稲富先生: |
いい質問ですね。
確かに、地上でも実験はできます。
が、地上では対流がありますから、結晶の周りの濃度や温度が乱されてしまいます。
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ピカル: |
氷の実験の取材の時に物知りハカセが言っていた「潜熱」がこの結晶でもでるんですか?
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稲富先生: |
おお、よく勉強していますね!
そのとおりです。
結晶が固まるときにでる熱ですね。
それから、実は結晶が成長するときに、濃度も変わるんです。
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ピカル: |
何の濃度ですか?
そういえば、これって何の結晶なんでしたっけ?
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稲富先生: |
ああ、それを言うのを忘れてました。
この実験では、「サリチル酸フェニル(注)」という名前の物質にブタノールを混ぜて一緒に結晶化します。
注:有機溶剤の一種。
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ピカル: |
サリチル酸フェニル・・・。
聞いたことのない名前ですが、どうしてその物質を使うんですか?
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稲富先生: |
透明なので、結晶の様子が観察しやすいのと、固まる温度が30℃〜40℃なので、実験がしやすいのです。
それに、化学的に安定で、かつファセット面が簡単にあらわれるので昔から結晶成長の研究者は良く使っています。
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ピカル: |
なるほど、理解しました。
それで、どっちの濃度が変わるんですか?
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稲富先生: |
はい、サリチル酸フェニルとブタノールが一緒に結晶になっていくんですが、ブタノールが一部余って出てきてしまいます。
つまり、結晶周辺のブタノールの濃度が変わってしまうわけです。ブタノールの濃度が違うと、結晶が固まる温度も少し変わるので、この濃度が対流によって乱されてしまうと正確な実験ができないんですよ。
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ピカル: |
やっとわかりましたよ!
つまり、対流のない宇宙で、新しいファセット面ができるときの周囲の温度・濃度を正確に調べて、どういうきっかけでファセットができるのかを明らかにしようという実験なんですね。
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稲富先生: |
そのとおりです。
ところで、濃度はどうやって測るか知ってますか?
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ピカル: |
濃度を測る???
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稲富先生: |
温度はどうでしょう。
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ピカル: |
温度・・・。 そういえば、氷の実験では、温度計ではなくて、光の干渉を利用した干渉計を使う、とハカセに教わりました。
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稲富先生: |
ちゃんと覚えてましたね。
実は、濃度も同じ干渉計を使うんです。
光の屈折率は、温度だけではなく、濃度の違いによっても変化するので、干渉計で濃度も温度も分かるんです。
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ピカル: |
すごい!
干渉計って本当に便利なんですね。
でも、1枚の写真から温度と濃度の両方がわかるんですか?
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稲富先生: |
いいところに気づきましたね。
1枚では分からなくて、波長の違う光で撮った2枚の写真がないとだめなんです。
ところで、ピカルくんは連立方程式は習いましたか?
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ピカル: |
あ、家庭教師の先生に・・・。
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稲富先生: |
それなら話が早いですね。
分からないことが2つあるので、それを含む式が2つあれば解けるんです。
温度だけが分からないときは、1つの波長を使って温度による屈折率の違いを調べておけば、縞の曲がりから逆算して温度を求めることができました。
これは前にハカセに教えてもらったとおりですよね?
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ピカル: |
はい。
確かそんな感じの、頭が重くなる話でした。
半分くらい忘れちゃいましたよ〜。
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稲富先生: |
まあまあ、そういわないで。
今回の実験では、温度と濃度が同時に変化します。
すると、縞が曲がっても、温度のせいなのか濃度のせいなのか分からなくなってしまいます。
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ピカル: |
それはそうですね。
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稲富先生: |
そのために、2種類の波長の光を使うんです。
波長が違うと温度や濃度による屈折率の違いも変わるんですよ。
ちょっとこの図をみてもらえますか。
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ピカル: |
確かに!
同じものの写真なのに、波長が違うと縞の具合も違いますね。
つまり、事前に温度や濃度を変えて、それぞれの波長における屈折率の違いを調べておけば、方程式が解けるということですね。
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稲富先生: |
そのとおりです。
さすがピカルくん、評判通りの賢さですね。
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ピカル: |
いやあ、そんな(照)。
では最後に、この実験は私たちの生活にどんな恩恵をもたらすのか教えてください。
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稲富先生: |
そうですね、これはファセット結晶成長に関する基礎研究ではありますが、最初のほうでも言いましたように、新しいファセットのできるところには結晶欠陥や不純物がたまりやすいことがわかっています。
ですから、どのようなきっかけでファセットができるのかを明らかにすれば、非常に品質の高い結晶をつくることができ、半導体などの最先端材料の量産化や性能アップにつながります。
身近な例でいうと、太陽電池パネルで用いられる多結晶シリコンという材料を効率良く製造することができ、クリーンエネルギーの普及に貢献すると期待されています。
また、超伝導材料の性能がアップすれば、リニアモーターカーの普及や、携帯電話の基地局の整備などにも役立ちます。
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ピカル: |
結晶は私たちの生活のあちこちで使われていて、高品質の結晶を効率よく作ることに貢献するってことですね。
先生、今日はどうもありがとうございました。
宇宙ステーションで実験が始まる日を楽しみにしています!
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