自然現象に関心を持ち、その不思議に挑戦してみる。
そうすればこれまで見えなかったものが見えてくる。
お話をうかがって、先生は昆虫少年からそのまま科学者になったような印象を受けました。
先輩として、子どもたちの科学離れを食い止めるにはどうしたらいいと思われますか。
「大人になるとつい見過ごしてしまいますが、僕らの身の回りには、面白いな、不思議だなと思えることがたくさんあると思うんです。
そういうことに目を留めるというのが第一歩でしょうね」
都会の日常生活の中にもありますか。
「たとえば、ゴキブリ。
ゴキブリが出ると、皆さんすぐキャーッと言って逃げますけど、実はとても興味深い虫なんです。
まず、ゴキブリは大抵、夜中に動き回りますよね。
あれはなぜかっていうと、夜行性の体内時計に支配されているからなんです。
それから、ゴキブリは生きた化石っていうくらい長い歴史を生き抜いてきた生物です。
地球の歴史の中では、僕ら人類よりよっぽど先輩なんですが、どうやって厳しい生存競争を勝ち抜いてきたかというと、生命力が非常に強いからなんです。
その証拠に、一本や二本足を折っても、またすぐに生えてきます。
そういうものすごい生命力を持っていることがわかると、不潔な虫という今までの見方とは違った面白さが感じられるでしょう」
確かに、そう思うとゴキブリに対する見方が変わりますね。
「植物だってそうです。
たとえば、皆さんが大好きな桜の花にしても、どうしてああいうピンク色になるのかとか、どうして一斉に咲くのかとか、ある日は早く咲くのに、なぜ別の日は遅くなってから咲くのかとか、本当にもう色々なことがあるわけです。
僕らの身の回りのことであっても、生き物だけでなく、その周りを囲んでいる自然を違った視点で見ていけば、その中には不思議が一杯詰まっているんですよ」
まずは、自然の不思議さを見過ごさないということですね。
「そして不思議だと思ったら、それを自分で調べてみようとする心。
チャレンジする心ですね。
ノーベル化学賞を受賞した下村先生は「オワンクラゲ」というクラゲがどうして発光するかということを調べて、緑色発光タンパク質を発見されました。
僕も、オワンクラゲではありませんが、夜中にボートを漕いでいて、海ボタルが光るさまを見たことがありますけど、それはそれはきれいです。
もう本当に、なんと表現していいかわからないくらい幻想的な世界なんです。
ああいう光景を見ると、一生忘れませんね。
だから、子どもたちには色々なものを見てほしい、そしてたとえありふれたものであっても、新しい目で見つめ直してほしいと思います。
自然の中には不思議なことがたくさんあるのに、みんな見えるものしか見ていないでしょう。
もったいないですよ。
不思議だと思う、そしてその不思議を解き明かそうとチャレンジしてみる。
そうすれば、これまで見えなかったものが見えてきます。
僕は、それこそが科学だと思っています」
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