スペースシャトルエンデバー号によるSTS-97ミッション(4Aフライト)は、9回目の国際宇宙ステーション(ISS)組立てミッションであり、スペースシャトルによるものとしては6回目になります。STS-97は2000年11月2日から3人の宇宙飛行士が滞在しているISSを訪問する、初めてのスペースシャトルによる飛行です。この飛行はSTS-92で取り付けたZ1トラスの上に、米国製の巨大な太陽電池パドルを取り付け、ISSの電力供給能力をこれまでの約5倍に増強することを主たる目的としています。
飛行の概要は以下のとおりです。詳細はNASAステータスレポートをご覧下さい。
(「日本時間」と明示のない日時は米国中部標準時間です。)
- 打上げと帰還
打上げ |
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2000年11月30日午後 9時06分(日本時間12月 1日午後12時06分) |
帰還 |
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2000年12月11日午後 5時03分(日本時間12月12日午前 8時03分) |
総飛行時間 |
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10日19時間57分 |
- ISSとのドッキング(結合)とアンドッキング(切り離し)
ドッキング |
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12月 2日午後 2時00分(日本時間12月 3日午前 5時00分) |
アンドッキング |
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12月 9日午前 1時13分(日本時間12月10日午前 4時13) |
ISSとの結合期間 |
: |
6日23時間13分 |
- P6トラスのISSへの取り付けと太陽電池パドルの展開
飛行4日目に、エンデバー号のロボットアームの操作と第1回目の船外活動によって、今回運んだP6トラスをISSのZ1トラス上に仮設置しました。P6トラスは将来P5トラスが取り付けられた後、13Aフライト(2003年に予定)以降にP5トラスに隣接する位置に最終的に取り付けられる予定です。P6トラスには米国製の巨大な太陽電池パドルが2枚取り付けられており、このミッションでISSの右舷と左舷(ISSの進行方向に向かって右側と左側)に展開される構造になっています。
右舷のパドルはP6トラスを取り付けた後ただちに展開されましたが、確認の結果発電能力には問題はないものの、ピンと張られていなかったため、シャトルのドッキング/
アンドッキング時の振動に耐えられない可能性があり、修理が必要になるという不具合発生しました。
これは第3回目の船外活動の中で追加の作業を実施し、完全に展開することができました。
左舷のパドルは予定を1日延期して飛行5日目に右舷のパドルの不具合を参考に2時間近くかけ、完全に展開することができました。
- ラジエータの展開
P6トラスには、P6トラスに搭載された機器の発生する熱を放熱するラジエータ(放熱板)が1セットと、2001年1月に取付ける予定の米国の実験棟デスティニーの発熱に対応するものが2セット取り付けられています。飛行第4日目、第1回目の船外活動終了後にP6トラスの機器用のラジエータを展開しました。デスティニー用の2セットのうち1セットは飛行7日目に展開しました。残りの1セットはデスティニー取付け完了後に展開する予定です。
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船外活動(EVA)
この飛行では1日おきに計3回の船外活動が行われました。
第1回船外活動(飛行4日目)
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開始時刻 |
12月 3日午後12時35分(日本時間12月 4日午前 3時35分) |
終了時刻 |
12月 3日午後 8時08分(日本時間12月 4日午前11時08分) |
作業時間 |
7時間33分 |
記録 |
ISS組立て11回目(累計77時間7分)、シャトル史上55回目 、米国史上94回目 |
作業者 |
ジョー・タナー、カルロス・ノリエガ |
作業内容 |
a. |
STS-92で取り付けたZ1トラスの上に、太陽電池パドルを取り付けたP6トラスを取り付けた。 |
b. |
P6トラス太陽電池パドルを展開するための各種準備作業を実施した。 |
c. |
P6トラスのラジエータ(放熱板)を展開するための準備作業を実施した。 |
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第2回船外活動(飛行6日目)
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開始時刻 |
12月 5日午前11時21分(日本時間12月 6日午前 2時21分) |
終了時刻 |
12月 5日午後 5時58分(日本時間12月 6日午前 8時58分) |
作業時間 |
6時間37分 |
記録 |
ISS組立て12回目(累計83時間44分)、シャトル史上56回目、米国史上95回目 |
作業者 |
ジョー・タナー、カルロス・ノリエガ |
作業内容 |
a. |
P6トラスで発電する電力を利用できるようにするために、電気ケーブルの接続を変更した。 |
b. |
STS-92の際Z1トラスに仮設置したSバンドアンテナ(SASA)を、P6トラスの上部に移設した。 |
c. |
その他STS-98(5Aフライト)の準備作業を行った。 |
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第3回船外活動(飛行8日目)
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開始時刻 |
12月 7日午前10時13分(日本時間12月 8日午前 1時13分) |
終了時刻 |
12月 7日午後 3時23分(日本時間12月 8日午前 6時23分) |
作業時間 |
5時間10分 |
記録 |
ISS組立て13回目(累計88時間54分)、シャトル史上57回目、米国史上96回目 |
作業者 |
ジョー・タナー、カルロス・ノリエガ |
作業内容 |
a. |
ISS周辺のプラズマ電位を測定する装置(FPP)をP6トラスの最上部に設置した。 |
b. |
第1回目の船外活動の直後に展開した右舷の太陽電池パドルが完全に展開していなかっ
たので、張力を加えるケーブルを正常状態に戻す作業を実施した。これによりパドルは正常に展開することができた。 |
c. |
その他STS-98(5Aフライト)の準備作業を行った。 |
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- 船内活動
ISSには3人のクルーが常駐しており、日々忙しく作業をしています。ここではISSクルーの活動のうちSTS-97のミッションと直接関連のある主要な船内活動と、STS-97クルーの主要な船内活動を示します。
飛行3日目 12月 2日
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作業場所 |
ISSのドッキングポート(PMA-3) (PMA-3のISS側のハッチは閉鎖状態) |
作業者 |
STS-97クルー(ジョー・タナー、カルロス・ノリエガ) |
作業内容 |
a. |
飲料水、通信機器他の補給品をPMA-3に搬入した。(後ほどISSのクルーがPMA-3の反対側のハッチを開いてユニティに搬入した。) |
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飛行6日目 12月 5日
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作業場所 |
ユニティ |
作業者 |
ISSクルー(ビル・シェパード、ユーリ・ギドゼンコ、セルゲイ・クリカレフ) |
作業内容 |
a.
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P6トラスからの電力をザーリャやズヴェズダへ供給できるように配線を変更した。
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飛行8日目 12月 7日 |
作業場所 |
ユニティ |
作業者 |
ISSクルー(ビル・シェパード、ユーリ・ギドゼンコ、セルゲイ・クリカレフ) |
作業内容 |
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飛行9日目 12月 8日 |
ハッチ開放 |
12月 8日午前 8時36分(日本時間12月 8日午後11時36分 |
ハッチ閉鎖 |
12月 9日午前 9時51分(日本時間12月10日午前 0時51分 |
ハッチ開放期間 |
1日 1時間15分 |
作業場所 |
ISS内、エンデバー号内 |
作業者 |
ISSクルー、STS-97クルー全員 |
作業内容 |
a. |
シャトルからISSに飲料水、機器などの補給品を搬入した。
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b. |
ISSで不要になった機器や廃棄物など、地球に持ち帰る物品をシャトルに搬出した。 |
c. |
シャトルの軌道姿勢制御用スラスタを噴射して、ISSの振動特性を測定した。 |
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- リブースト(軌道高度を上昇させる軌道制御)
リブーストとは軌道高度を上昇させるための軌道制御のことです。ISSは、空気抵抗で高度が日々下がります。これまでの飛行では、その次の便が到着するまでの高度の低下を見込んで、シャトルをISSから分離する前にISSの軌道高度をあらかじめ上昇させておくようにしていました。しかし、今回は実施していません。
シャトルの力を借りずにISS単独でリブーストを実施する場合は、ズヴェズダの
後部に結合している、プログレス補給船のスラスタを使用します。プログレス補給船のスラスタが使用できない場合には、
ズヴェズダのスラスタを使用することは可能ですが、ズヴェズダのスラスタをなるべく消耗させないために、原則として使用しないこととしています。
今回の飛行で新しく取り付けた太陽電池パドルは、約50kWの電力を発電しています。
(注:定格では64kWの発電が予定されていますが、運用条件で低めの発電が行われているようです。この状況については、NASAに確認中です。明らかになり次第本文を改訂いたします。)
現在ISSの電力供給能力は約5倍に増強され、十分な電力が供給できるようになっています。このミッションにより、2001年1月に予定されている次回のSTS-98(5Aフライト)で米国の実験棟デスティニーを取り付け、ISS建設の目的である実験を開始するための準備が整いました。
また、電力不足のため利用できなかったユニティも常時利用できるようになり、ISSのクルーはこれまでより広いスペースを利用しています。
右舷の太陽電池パドル展開時の不具合
飛行4日目に実施した第1回船外活動で、P6トラスをZ1トラスの上に取け付けた後、船内からの指令によりP6トラス上部の太陽電池パドルを展開させましたが、このとき不具合が発生しています。
右舷(ISSの進行方向に向かって右側)のパドルを計画どおりの方法で、10数分間かけて展開したところ、パドルを完全にピンと張らせることができませんでした。
地上で専門家が検討を重ねた結果、パドルを引張るケーブルが、パドル展開中に発生した振動が原因でリールから外れたことが原因と判明しました。この不具合に対処するために急いで考案された方法に従って、飛行8日目の第3回船外活動の際に復旧を図った結果、外れていたケーブルを元の位置に戻すことに成功し、右舷のパドルは完全に展開することができました。
なお左舷のパドルは、第1回船外活動翌日の飛行5日目に、前日の不具合を教訓として2時間近くかけてゆっくりと展開したところ、完全に展開することができました。
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