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次世代先端宇宙服研究・開発に係るアイディア募集

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現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)ではJAXA長期ビジョンに基づき、日本として将来の有人宇宙活動を確立するために必須要素のひとつである、「宇宙服」について日本の技術で開発可能か調査・検討を行っております。(「JAXAが目指す宇宙服」参照)

この調査・検討業務をより有効に行うために、国内の機関、大学、メーカー各社が保有する様々な技術調査以外に、可能な限り多くの情報を収集するため、本アイディア募集を実施します。

本アイディア募集は終了いたしました。ご協力ありがとうございました。



JAXAが目指す宇宙服

これからJAXAが目指す宇宙服は、JAXAの長期ビジョンに基づき、日本として独自の有人宇宙活動を目指すにあたり現存の宇宙服の要求(「表-1 機能要求」)及び課題(「表-2 目標仕様等」)を踏まえ、日本の技術を活用し、次世代先端宇宙服を開発することを目指しています。

これまでの検討の中で、次世代先端宇宙服の形態として3つのオプションが提案されています。

どのような形態の宇宙服になるかは今後、図-1 宇宙服開発構想にあるように様々な技術のメリット/デメリット等のトレードオフを行うことで決めていくことになります。

画像:宇宙服CG(ハードタイプ)

ハードタイプ

基本構造 硬いシェル構造
概要 甲冑のように全身を覆う、防護性を重視したタイプ
メリット
  • 構造が硬いことから高い圧力でも膨張による動きにくさを軽減できる。
  • 宇宙服の重量を宇宙服自身に負担させることで装着者の負担を軽減。
  • デブリ/微小隕石への耐性が最も高い。
デメリット
  • 作業目的(掘削、探査等)に応じた宇宙服が必要になる。
  • 動きの自由度が低くなる。
  • ジョイント部が多くなる。
  • 輸送時の輸送機スペースが多く必要となる。
  • アポロ宇宙服と違い、打上げ・帰還時とは別に宇宙服が必要となる。
  • 装着性が悪くなる。

画像:宇宙服CG(ハードタイプ)

ハイブリッドタイプ

基本構造 硬いシェル構造部とソフトな繊維部分の組合せ(従来型)
概要

柔軟性と防護性が介在する従来型の宇宙服と同様の構造で、現存する宇宙服の課題をクリアした、「向上型」。

メリット
  • 従来の宇宙服の課題が解決されているため、最も実現性が高い。
デメリット
  • ハードタイプ同様、輸送時のスペースが必要。
  • アポロ宇宙服と違い、打上げ・帰還時とは別に宇宙服が必要となる。

画像:宇宙服CG(ソフトタイプ)

ソフトタイプ

基本構造 繊維による柔らかい構成
概要

柔軟性及び動きやすさを重視したタイプ。
他のタイプと比較して防護性に欠けるためアタッチメント(装備品)によって補完する。
*アタッチメント(装着することで「ハイブリッド・タイプ」のようになる)は作業別(掘削用、探査用等)に準備し、必要に応じて変更可能

メリット
  • 打上げ・帰還時用の与圧服として装着も可能。
  • 自由度が最も高い。
  • アタッチメントの付け替えにより様々な作業への対応が可能。
デメリット
  • 運用圧力制御が難しい。
  • デブリ/微小隕石への防護能力が最も低い。

表-1 要求機能
要求機能 環境 要求
熱環境 軌道上・月面

それぞれの熱環境において対応できるようにする。

真空環境 軌道上・月面

真空環境に対応できるようにする。

裂傷 軌道上・月面

宇宙機及び月面の鋭利な部分に触れても宇宙服が壊れないようにする。

微粒子 月面

月面における微小な表土(レゴリス)環境に対応できるようにする。

重力 月面

月面の1/6重力下の作業に対応できるようにする。

放射線等 軌道上・月面

地球軌道上及び月面での放射線・宇宙線への曝露環境下で対応できるようにする。

デブリ/微小隕石耐性 軌道上・月面

デブリ(ごみ)/微小隕石が降り注ぐ環境に対応できるようにする。

*地球周回および月周回軌道

表-2 目標仕様等
要素 目標仕様 仕様必要性 備考及び課題

運用圧力

0.58気圧

現在の宇宙服は0.3気圧(エベレスト山頂と同様の気圧)で運用されているため、宇宙飛行士は減圧症を避けるために体内の窒素を追い出すための「プレブリーズ(脱窒素)」の時間が必要なため。(最短約2時間半)

0.58気圧は生理学上この脱窒素作業が必要なく宇宙服をすぐに装着できる最低限の運用気圧。
ただし、酸素分圧についてはある程度高い必要があるので、宇宙服内に使用する材料の選択は必要。
また、圧力が高くなることにより宇宙服が膨張するため、動きやすさ(特に「手」)に負荷が掛かります。

重量

40kg
(生命維持装置の重量含む)

月面で活動する際の重力(1/6G)を考慮した場合、現状の宇宙服(約120kg)だと月面で約20kg着用している状態となり、着用者への負担が掛かるため。

現在の宇宙服の全体重量120kgのうち80kgが生命維持装置となっている。

熱制御

受動型

現在の宇宙服は水冷により宇宙服内の熱を制御するようになっており、この水を冷却するために「サブリメータ」という真空環境を利用して水の昇華熱により冷却するシステムとなっている。
このサブリメータ運用には別途水が必要であるため、これを機能性繊維等を利用し、受動型に切り替えることにより、冷却するための水の重量を軽減する必要がある。

月面では軌道上と異なり地表からの熱もあるため、あくまでも宇宙服内の熱を逃がし、かつ一定の温度に保てるような機能が必要。
過去、空冷による熱制御は試みられたが、熱伝導率の観点から使用されないこととなった。

構造

簡素

現在の宇宙服は非常に多くの部品を用いているため、軌道上での修理・メンテナンスが難しい。
月面での船外活動を視野に入れた場合、輸送重量等も考慮する必要があることから構造を簡素にすることにより、月面においてメンテナンス等が必要となった場合に最低限のパーツ及び工具で修理可能な形態をとるようにする必要がある。

月面には非常に細かい表土(レゴリス)があるため、アポロ時代にはこれらがベアリングに噛み込んだりすることにより不具合を起こしたり、健康に害を及ぼす可能性が示唆された。

電力

二次電源 or 燃料電池

現在の宇宙服は銀亜鉛電池(26.6A/H、重量4.3kg)を使用していて、6~8時間程度の船外活動が可能な容量となっている。
緊急時も含め必要に応じ船外活動時間を延長する必要があることを考慮し、より軽量かつ容量の大きな電力が必要となる。

電源選別に当たっては安全性が十分に考慮される必要がある。
特に、なんらかの原因による内容物が漏れることによる装着者及び宇宙服へ影響を及ぼさないようにする必要がある。

防護

デブリ及び微小隕石防護

月面及び地球軌道上で想定されるデブリ及び微小隕石等から宇宙飛行士を防護する機能が必要。

現在の宇宙服はゴアテックス®、ノーメックス®、ケブラー®等の繊維により防護する機能を有している。

放射線等

放射線等からの防護

宇宙服は月面及び地球軌道上で様々な放射線を浴びるため、これらからの防護(もしくは低減)する機能が必要。
また、宇宙服に傷がついた場合にも装着者が宇宙船等安全な場所まで移動できる機能(例:自己修復能力)を有する必要がある。
同様にヘルメット部については紫外線からの防護機能も必要。

現在の宇宙服では放射線を防ぐことを目的とした繊維層はなく、様々な繊維が重なり合うことで可能な限り放射線から防護するようにしている。
また、宇宙飛行士は体に線量計を装着することにより、被曝管理を行っている。


宇宙服改善提案
画像
図-1 宇宙服開発構想

なお、宇宙服を作るにあたっては、技術の新規開発や、ある程度の成熟度を達成するには時間を要することから、できる限り既に開発された技術(表-3 宇宙服へ利用可能な技術例)を進化させることで利用していきたいと思います。

表-3 宇宙服への利用可能な技術例
携帯端末用小型燃料電池

【説明】
現在既に車などで利用されている燃料電池ですが、今後携帯端末等での利用も考えられており、「小型化」に向けた研究開発が行われています。

【宇宙服への利用】
現在の宇宙服では銀亜鉛電池が電力として使用されており、宇宙服の生命維持装置、通信機器及びコンピュータで利用されております。
また、暗闇で作業する際の照明用の電源は生命維持装置とは切り離されていることから、そこへの利用も可能だと考えられます。

特殊樹脂

【説明】
現在スキーゴーグルやメガネ、カーポートなど様々な分野で利用されているポリカーボネート樹脂は宇宙服のヘルメットでも利用されている材料です。

【宇宙服への利用】
ポリカーボンのような特殊樹脂をヘルメットのバイザーとして使用し、合わせて紫外線等を極力カットするためのコーティング材を使用することが可能です。

衝撃吸収材

【説明】
スポーツ靴のソール(底面)などに利用されている衝撃吸収材はアポロ時代に宇宙飛行士の膝等への負担を軽減するために宇宙服のブーツで利用された材料です。

【宇宙服への利用】
アポロ時代より進化した衝撃吸収材を用いることで月面での探査などの船外活動時に宇宙飛行士の身体への負担を極力軽減するために、ブーツに利用。

機能性繊維

【説明】
服の中の湿度を逃がし、温度の安定/冷却/暖房できるような繊維素材が多く開発されてきました。

【宇宙服への利用】
現在の宇宙服では宇宙服内の運動により発生する代謝熱の温度上昇を冷却下着を使用して冷却している。
冷却・調湿機能を有する機能性繊維を利用することで、宇宙服内環境の調整を自動的に行うようにする。


宇宙服について

2005年7月の野口宇宙飛行士の船外活動について皆様の記憶はまだ新しいことでしょう。

その中でも野口宇宙飛行士が着用していた宇宙服は最先端技術の集合体だと思われがちですが、アポロ時代(1960年代)の技術がベースとなって開発されたもののため、宇宙服の構成要素は今日の技術から比べるとかなり古い技術が基本となっております。

また、「JAXAが目指す宇宙服」の表-2 目標仕様等にあるように、服内圧力が低い(0.3~0.4気圧)ことによる船外活動に掛かる準備時間、運用制約、構造等非常に多くの課題を抱えております。

ここでは現在軌道上で実際に運用されている米ロの宇宙服について紹介します。

<既存の宇宙服>

現在国際宇宙ステーションで使用されている宇宙服はアメリカのEMU(イー・エム・ユー)とロシアのOrlan(オーラン)があり、それぞれの簡単な特徴は以下のようになっております。

宇宙服名称 EMU Orlan(オーラン)
重量 約120kg 約110kg
運用圧力 0.3気圧(純酸素) 0.4気圧(純酸素)
主要構成品 ヘルメット、上部胴体(腕含む)、下部胴体、グローブ 1ピース
寿命 30年(適切な保守により) 4年又は12回の船外活動
サイズ M, L, XLの3サイズに加え、手足の長さを調整することで対応 腕及び足の長さを紐で引っ張ることにより対応

両者の違いは設計思想が異なることに起因しますが、宇宙服における課題は共通部分が多く、また、Orlanの情報が非常に少ないことからここではアメリカの宇宙服をベースに説明をします。

さらに詳細な情報については「宇宙服と船外活動」に記述されていますのでご覧ください。

<宇宙服基本構成要素>

宇宙服は図-2にあるように、多くの構成要素からなりますが、大分すると「服」と「生命維持装置」のふたつの部位に分けることができます。

また、宇宙服は宇宙の熱環境、真空環境等から宇宙飛行士を護るために幾重もの異なる機能を有する繊維層から構成されています(図-3)。

画像
図-2 宇宙服基本構成要素
(画像をクリックすると該当ページが別ウィンドウで開きます)

画像
図-3 宇宙服繊維層
(画像をクリックすると該当ページが別ウィンドウで開きます)

宇宙環境について

宇宙服が使用される宇宙環境(月・火星含め)は地上の環境とは非常に異なります。

以下にそれぞれ軌道上(国際宇宙ステーションがある場所)、月・惑星等の環境について説明をします。

項目 地球 低軌道(ISS)
大気 1気圧 真空 真空
宇宙線 なし あり あり
1日長 24時間 90分 27.32日
地表温度 -70~+40°C -55~+125°C -170~+125°C
隕石 大気でほとんど消滅 直撃 直撃
表土 通常水分を含む なし 水分なし

宇宙服にはこれらの環境で人間が活動できるような環境を整備することは当然のことながら、真空環境、熱環境、宇宙線等による電子機器の誤作動や不具合が起こらないよう安全に配慮することも重要となってきます。

月環境に関する参考URL


JAXAの長期ビジョン

JAXAが2005年4月に今後の日本の宇宙開発について「長期ビジョン」を提案しました。

長期ビジョンの中にある「有人月面拠点への準備」では将来の「国際有人月面拠点」を、これまでに培ってきた有人宇宙活動能力を最大限発揮し、継承・発展させていく場として捉えて、段階かつ戦略的に、月面における有人支援技術を蓄積していくこととしています。

ここでは長期ビジョンの中の「有人宇宙活動」について簡単に説明させて頂きます。(長期ビジョンを紹介する全ての資料はJAXA長期ビジョンページから)

画像:将来の月探査・利用活動(イメージ) 画像:自在な宇宙活動能力の確立に向けて 画像:将来の有人宇宙活動(イメージ)
図-4 JAXA長期ビジョン(「有人宇宙活動」抜粋)
(それぞれをクリックすると大きな画像が開きます)

JAXA長期ビジョンの当面(今後10年程度:2015年)の目標として、長期的な独自の有人宇宙活動への着手を可能とすることを視野に入れ、基盤的な研究開発を推進することとしています。

また、ISS計画を通じた有人宇宙技術等の重要技術の獲得および宇宙実証を図ることとしております。

それらの結果に基づき、次期有人宇宙活動への展開可否判断を行います。展開可と判断された場合は、2025年頃までを目処とし、独自の有人滞在、活動を可能とする技術として、研究・開発を行います。


宇宙服開発計画

これから宇宙服を開発するにあたり、研究フェーズ、開発フェーズ、認定フェーズ、運用フェーズについては以下のようなスケジュールで考えています。

図:開発スケジュール

本計画では段階的に研究、開発を経る際にISSでの要素技術実証等を行いながら実施することを検討しています。

宇宙服に係る要素技術を新規に開発し、運用に至るまでには非常に時間を要することから、開発にあたっては可能な限り既存技術を極力利用した開発を行っていきたいと考えております。


他国の次世代宇宙服

現在他国でもこれからの月・火星探査に向けて次世代宇宙服の開発が進んでいます。

以下に現在他国が研究している次世代宇宙服についてどのようなものがあるか紹介します。

<アメリカの次世代宇宙服>

現在、次世代宇宙服についてもっとも多く紹介されているのがアメリカのものです。

NASAでは、大学及び企業との共同研究を行いながら複数種のタイプの次世代型宇宙服研究を行っています。

「NASA月面/火星用宇宙服」
NASAが米国アリゾナ州で実施している月面/火星用宇宙服。
「I-suits」(ILC Dover社)
ILC Doverが開発している月面/火星用宇宙服。
「Bio-Suit」(MIT(マサチューセッツ工科大学)との共同研究)
肌にぴったりとフィットするタイプの宇宙服。
「Chameleon Suit」(ハミルトン・サンドストランド社との共同研究)
最終目標として宇宙服自身に空気再生機能を持たせることを設定している宇宙服。

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