生命維持システム(Life Support System: LSS)は、宇宙服の内部気圧と温度をコントロールし、呼吸用の酸素や電力を供給する他、通信機能を提供するシステムであり、宇宙服の背中に取り付けられています。 万一故障などで酸素が供給できなくなった場合に備えて、バックアップ用の二次酸素タンクも装備してあります。宇宙服内は、約0.3気圧(4.3psia)の純酸素で満たされており、その環境をLSSが維持します。 生命維持システムは主に以下の機器から構成されます。
主生命維持システム(PLSS)は、宇宙服を外部に依存することなく、独立して使用できるようにするものであり、内部気圧と温湿度を制御するほか、酸素や電力を供給します。 宇宙服内の空気は、PLSS内の水酸化リチウムカートリッジで余分な水分、二酸化炭素、その他の有害物質などを取り除いて再循環されています。
冷却器は、氷の昇華熱を利用して冷却水の冷却を行う装置です。冷却水の一部を毛細管を経由して宇宙空間に導いて凍らせ、氷が直接宇宙空間に昇華する際の昇華熱を利用して冷却します。
また、外部との音声通信や心電図データ、酸素消費量などを知らせるための通信装置、宇宙服にトラブルが発生した時の警告警報機能があります。
| | (c)
Hamilton Standard | PLSSの構成 |
| | | METOXキャニスター |
(c) Hamilton Standard |
水酸化リチウムカートリッジは、水酸化リチウム、活性炭、微粒子フィルターの3層から成り、呼吸用酸素の浄化のために次の機能を果たします。 - 活性炭層での微量成分(有害ガス)の吸着
- 水酸化リチウム層での二酸化炭素の吸着
- 微粒子フィルターでの固体の微粒子や水酸化リチウムの塵の拡散防止
これらは、主生命維持システム(PLSS)の背中に取り付けて使用し、軌道上で交換可能です。
水酸化リチウムカートリッジは使い捨てのため、使用後は船内で交換されます。また、現在はISSでの船外活動に備えて開発された再利用式のMETOXキャニスターも使われています。
EMUではどちらでも使用可能でキャニスターの再生はクエストエアロック内の再生装置で高温の空気で加熱することで再利用されます。
宇宙服のバッテリーには、銀亜鉛電池(26.6
A/H:重量4.3kg)を使用しており、宇宙服の全ての電気機器の電源となります。 通常のEVA作業(6~8時間程度)を行うには問題のない容量です。 PLSSの背中に装着して使用し、使用後は軌道上で交換、充電されます。 また、宇宙服を着た状態のまま、エアロックの電力・流体供給用ケーブルを経由して一時的に充電することもできます。
表示制御モジュール(Display and Control Module: DCM)は、宇宙服の胸部に装着されており、宇宙服の状態表示と各機器の調節を行うためのものです。 通信機器、温度調節、換気、電源、宇宙服内の気圧などの制御が可能なほか、警告警報システム(CWS)も装備しています。
またエアロック内にいる間は、宇宙服で消費する酸素、電力、冷却水は節約のため、エアロック経由で供給されますが、そのためのエアロックアンビリカル(Service
and Cooling Umbilical: SCU)もこの表示制御モジュールの前部に取り付けられます。
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表示制御モジュール(DCM)の外観 (出典:EVA SUITS AND
LIFE SUPRORT SYSTEMS G.LUTZ 1/10/91 ) |
二次酸素パック(Secondary
Oxygen Pack: SOP)は主生命維持システムが故障したり、主生命維持システムの酸素が枯渇するといった緊急時に、自動的に切替わり、最低30分間、生命維持装置のバックアップとして酸素を供給します。 二次酸素パックは、主生命維持システムの下部に装着されます。緊急用の装備であるため、地上でしか再充填はできません。
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二次酸素パック(SOP)の構造
(出典:National Space Transportation Reference. Volume 1 Systems and Facilities)
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最終更新日:2003年 3月24日
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