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みなさん、こんにちは!ピンクシャツでお馴染みの(え?馴染んでない?)HTVフライトディレクターの内山 崇です。
大西飛行士の軌道力学解説、感覚的に理解できましたでしょうか。難しい?ですね(笑)ここでもう少し、ISSの下から接近することについて掘り下げてみます。
さらに難しくして本当に恐縮なのですが、もう少しだけ厳密に言うと、ISSの下数百mで並走する場合、本来ISSよりも低い軌道にいるとHTVが前に行く(HTVの方が速い)はずなのに、それを無理やり抑え込んでいる状態となります。抑えこむことで軌道が下がってしまうので、そこに留まるためには押し上げてやることが必要で、さらに上昇させたいわけですから、まさに滝を登っていくかのような逆走をしているわけです。
ISSの真下(地球側)から接近することは、軌道力学に反する方向へ無理やり押し上げることであり、とても大変なのです。なんとなく分かってきましたでしょうか?よ~く考えるとさらなる疑問が沸いてくる非常に面白いところなのですが、これ以上の詳細は軌道力学の教科書に委ねます!(笑)
ISSの真下500mに投入されたHTVは徐々にその軌道を上へ押し上げISSへ接近していきます。目的地であるISSを固定して考えると、HTVは下へ、前へ引っ張られる力を打ち消すように保持しながら、さらに上昇を続けるため推進装置(スラスタ)を噴射し続けます。もっとも酷使されるのは地球側に配備された、上昇するのに使用されるスラスタです。
ISSに近づくほど、ISS/HTVの軌道高度の差が小さくなり、ISSとHTVの軌道運動の違いによりHTVに働く力は弱くなり、スラスタの噴射も緩やかとなります。噴射数を例にすると、500m付近での噴射数に対し、100m付近では1/3程度となりもう安心、10m付近では1/15にまで減ります。運用管制員としては、500m~300mの厳しいエリアは一刻も早く脱出したい気持ちです。実績のなかったHTV初号機では、このエリアにおける最終確認が必要であったため、このエリアに留まった時間が長く、先ほど説明した地球側のスラスタの温度があわや高くなり過ぎるところでした。日米の運用管制員はこの状況をいち早く察知し、その場で確認試験を短縮バージョンに変更、またスラスタをバックアップ系統に切り替えることで、事なきを得ました。繰り返し行った訓練で培われた、いかなる異常事象にも対応できる対応力・チームワークが発揮された瞬間でした。我々運用管制官は、こういった考えられる無数の異常事象に対してどう対応するのが最適かを話し合い続けています。この徹底的な事前準備と、その中で培った信頼関係により、本番のミッションでは数少ないやり取りで最適な対処へ辿り着けるわけです。特に、このような決断までに時間のない(タイムクリティカルと呼びます)事象に対する対応は、運用管制官の醍醐味と言えるでしょう。
では、何故ここまでしてこのように難しい接近方法を取るのでしょうか?
これには大きな理由があります。
難しい経路から接近することで、ISSにとって安全な接近軌道を実現しているのです。
つまり、接近途中のいかなるタイミングで制御が不能になって漂ったとしても、決してISSと衝突する軌道に入らず、寧ろ遠ざかっていくわけです。故障時にも決してISSにぶつかることのない安全な軌道設計がここにあるのです。これが有人機対応の厳しい安全要求が課せられた無人機HTVの安全な接近手法です。今では、米国の民間宇宙輸送機の全てが採用しています。
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