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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポート 2013年3月

最終更新日:2013年4月19日

JAXA宇宙飛行士の2013年3月の活動状況についてご紹介します。

若田宇宙飛行士、JSCでISS長期滞在に向けた訓練を実施

国際宇宙ステーション(ISS)の第38次/第39次長期滞在クルーである若田宇宙飛行士は、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)で、ISS長期滞在に向けた訓練を実施しました。


写真:SAFERの訓練を実施後、インストラクタと結果を確認する若田宇宙飛行士

SAFERの訓練を実施後、インストラクタと結果を確認する若田宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)

船外活動に関わる訓練では、ISSの実物大の訓練施設が水中に沈められている無重量環境訓練施設(Neutral Buoyancy Laboratory: NBL)のプールを使用して、ISSの船外機器のメンテナンス作業を想定した訓練を行いました。この他にも、船外活動時に着用する船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit: EMU)のメンテナンス方法や、セルフレスキュー用の推進装置(Simplified Aid For EVA Rescue: SAFER)の操作訓練を行いました。SAFERは、船外活動中の宇宙飛行士が誤って宇宙空間に放り出された場合でも、自ら飛行してISSに戻れるようにするための小型の推進装置で、EMUの背中の生命維持装置下部に取り付けられています。若田宇宙飛行士は、バーチャルリアリティ(VR)システムを使用して、ISSの船外活動中にISSから離れてしまった状況を模擬し、SAFERの操作方法を訓練しました。


写真:ロボノートの訓練を受ける若田宇宙飛行士

ロボノートの訓練を受ける若田宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)

また、若田宇宙飛行士は、宇宙飛行士の作業負荷を軽減させる目的で開発されたロボノートの組み立て・起動方法や、停止・収納方法を確認しました。ISSで火災・急減圧・空気汚染などの緊急事態が発生した際の対応手順について確認する訓練も行いました。

その他には、実験試料を保管する冷凍・冷蔵庫(Minus Eighty degree Celsius Laboratory Freezer for ISS: MELFI)の操作や、ISSに接近した無人の補給船を把持するためのロボットアーム操作、ISSに搭載されている機器の扱い方などについての訓練や、ISSに搭乗する宇宙飛行士の飛行前・中・後の認知能力を評価するための定期的な医学検査を行いました。さらに宇宙飛行準備訓練としてのT-38ジェット練習機による飛行訓練も継続して実施しました。

油井宇宙飛行士、GCTCとJSCでISS長期滞在に向けた訓練を実施

国際宇宙ステーション(ISS)の第44次/第45次長期滞在クルーである油井宇宙飛行士は、ISS長期滞在に向けた訓練を継続しています。

3月上旬は、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)で、2月に引き続きソユーズ宇宙船に関する訓練を行いました。

GCTCでの訓練を終えた油井宇宙飛行士は、米国に戻り、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)でISSの運用に関わる訓練を再開しました。油井宇宙飛行士は、ISSで使用され始めたタブレット端末に関する訓練や、ISSに物質を運ぶ補給船に関する講義、ISSに備えられている工具やISS内のネットワークの使用方法に関する訓練、ISSでの物品管理の方法に関する訓練、船外活動の準備を支援するための訓練など、ISSに滞在する上で必要になる知識・技術を身につけるためにさまざまな訓練を行いました。

語学訓練としてロシア語の訓練も継続したほか、T-38ジェット練習機での飛行訓練や、船外活動の訓練を行う上で必要になるスキューバダイビングの技量試験なども受けました。

野口宇宙飛行士、宇宙船操縦シミュレータの評価試験に参加


写真:シミュレータを操作する野口宇宙飛行士

シミュレータを操作する野口宇宙飛行士(出典:JAXA)

3月14日、野口宇宙飛行士は、筑波宇宙センターにて、宇宙船操縦シミュレータの評価試験に参加しました。

JAXAでは、将来の有人宇宙船独自開発や国際協力開発を見据え、「きぼう」日本実験棟や宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)などで獲得・蓄積した有人技術をベースに、次の重要かつ必須のステップとして、有人基幹技術に関する技術基盤を構築する研究・検討を行っています。

今回、低周回軌道・月面・小惑星などからの有人帰還に必要な要素技術のうち、優先度(革新性、自在性など)の高い技術を確立するとともに、有人宇宙船のシステム検討などにより、有人宇宙船のシステム要求とコンセプトのオプションを明確にすることを目的に行われた評価試験において、シミュレータ操作を通じ、野口宇宙飛行士は宇宙飛行士としての視点から評価を行いました。

「きぼう」の運用5周年セレモニーに野口宇宙飛行士が参加


写真:メッセージを述べる野口宇宙飛行士

メッセージを述べる野口宇宙飛行士(出典:JAXA)

3月13日、「きぼう」日本実験棟の運用開始5周年を記念したセレモニーを筑波宇宙センターの「きぼう」運用管制室で行いました。

セレモニーには、運用管制チーム(JAXA Flight Control Team: JFCT)のメンバーを中心に、多くの関係者が参加し、JAXA宇宙飛行士を代表して野口宇宙飛行士がこのイベントに参加しました。野口宇宙飛行士は、メッセージを述べる場面で、JFCTのこれまでの活躍を称えるとともに、自身にとって、「きぼう」の運用管制室がどの様な存在なのかを述べました。

セレモニーの様子は報道関係者にも公開し、セレモニーの後には記者会見を行いました。野口宇宙飛行士は、会見において、記者からの質問に答える中で、JFCTに寄せる信頼などを語りました。

「きぼう」が5周年を迎え、記念のセレモニーを開催しました

星出宇宙飛行士の国内でのミッション報告会

写真:トークショーの様子

トークショーの様子(出典:JAXA)

国際宇宙ステーション(ISS)の第32次/第33次長期滞在クルーとしての任務を終えて2月に帰国した星出宇宙飛行士は、3月上旬まで日本に滞在し、2月に引き続き、各地を回ってミッションの報告会を行いました。

3月9日には、東京都港区のヤクルトホールで、小中学生を対象としたミッションの報告会「星出宇宙飛行士と話そう!~ISS長期滞在ミッション報告会~」を開催しました。報告会では、星出宇宙飛行士自身がミッションの内容を紹介したほか、会場に集まった参加者全員で運動やあやとりを行い、地上と宇宙での身体の使い方の違いや宇宙であやとりをする際のコツなどを星出宇宙飛行士が解説しました。ロンドンオリンピックのウエイトリフティング女子48kg級で銀メダルを獲得した三宅宏実選手をゲストに迎えたトークショーでは、夢を実現するために大切なことや、普段から心がけていることなどをお互いに語りました。トークショーの後には、星出宇宙飛行士自らがマイクを持って会場内をまわり、子供たちからの質問に答えました。報告会の最後に、星出宇宙飛行士は、会場に集まった子供たちに向けて、「宇宙飛行士になるにはいろんな苦難があった。訓練でもいっぱい失敗した。それを乗り越えてきたからこそ、しっかりとミッションをできたと思う。皆も夢の実現に向けて、どんどんチャレンジしていっぱい失敗をして強くなっていってほしい」とメッセージを送りました。


油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」


みなさん、こんにちは!

今回の宙亀日記は、3月31日、ロシアに向かう飛行機の中で書いています。

皆さん、宇宙に関する話題をお望みですよね…でも、今回は、今思っている事を素直に書こうと思います。宇宙の話とあまり関係がありませんが、読んで頂ければ幸いです。

最近、私の頑張りを見て励まされたというメッセージを頂く事があります。私の頑張りを認めて頂いた気がして、とても嬉しいです。でも、他方で私の頑張りなんて、大した事では無い事を私自身が一番良く知っています。私は、まだ努力が足りないですし、時間を無駄にしています…それを痛切に感じるのは、被災地で復興の為に努力している方々の話を聞いたり、恵まれない環境でも頑張っている方々の話、病気と闘っている方々の話を聞いたりする時です。以前もツイッターで話をしましたが、私が立派に見えるのは、環境を整えてくれる多くの方々がいるからであって、その方々の助け無しには、私は自分の任務を遂行できないのです。言ってみれば、私は花壇の中の花みたいなものですね。

私が本当に尊敬するのは、目立たない所で、ひっそりと努力を続けて、地道に生きている、そして努力している方々です。この世の中には、人に注目されるとか、されないとかに関わらず、地道に自分のやるべきことを、日々しっかりと実行している方々が沢山います。本当は、その様な方々が社会を支えているのですし、未来を明るいものにしているのだと思うのです。

それでは、環境を整えて頂いている私は、一体どうすれば良いのでしょう?私は、世界中の誰にも負けないぐらいの努力で応えるしかないと思っています。今、飛行機に乗っていますが、私は飛行機に乗る際や各種訓練に望む際に、今日、万が一の事が起こった際に、自分の人生に納得いくのか自問自答しています。私は、自分の人生に納得がいくかどうかには2つの観点があると考えています。1つ目の観点は、「自分がどれだけ努力して自分の目標を達成してきたか?」という観点です。これに納得できる人は、自分が死に望む際に「自分は常に出来るだけの事はやって来た」と納得できるのではないかと思っています。もう1つの観点は「自分がどれだけ社会に貢献できたか?」という観点です。正直言って、私はこの2つ目の観点では全くもって落第です。私は、多くの方々に助けて頂いてばかりで、それに対する恩返しは、これまでのところ、全く出来ていません。

実は、最近私の人生の目標は「どれだけ多くの方々の為に貢献できるか?」という事に変わってきました。ですから、以前はとにかく頑張っていれば、死ぬ時もきっと納得が出来るだろうと思った事もあったのですが、最近は「まだまだ死ねないな!」と思うようになってきたのです。私は、社会への貢献がまだまだ足りません!私を助けて下さっている方々、税金を支払って下さっている方々、私を応援してくれてくださっている方々に何らかの恩返しをしないと死にきれません!私は、自分が死んだ時には、何も残らず、単にこの世から消え去ると考えています。

(これは、私自身の考えなので、正しいとも正しくないとも言えないのです。宗教や人生観の問題ですからね。実は、私が小学校の頃に、姉に質問した事があるのです。「人が死ぬとどうなるのか?」という事を…その時の姉の回答は「自分が生まれる前の事を憶えてる?何も解らないでしょ?それと同じ状態になるのよ!」でした。当時、私は歴史を全く勉強していませんでしたので、自分が生まれる前の知識が全くありませんでした。それゆえに、私が生まれる前の「無」を実感できましたし、自分の死が同様の「無」であることを自分なりに実感したのです。)

そして、私の死後には、どれだけ社会に貢献したかと言う評価だけが、人々の心に残るという事も知っているつもりです。ですから、今後も自分自身で納得のいく努力を続けたいですし、その努力の方向性を「他の方々の役に立つ」という方向に向ける事で、最初に述べた2つの観点で自分の人生に納得できる様にしたいと思っているのです。

人が、それぞれの立場で一生懸命努力している姿は、他の多くの方々の感動を呼び、多くの方々に良い影響を与えます。私は、多くの方々に感動を呼び起こせる程の努力をしているかと言うと、まだまだ不十分です。「自分に厳しく!」言うのは簡単ですが、実行するのは本当に難しいです。私は、いつも物理的な限界に行き着く前に、自分の心の限界によって努力をやめそうになる事が多いです。そんな時に私に「お前の限界はもっと先にある!」と激励してくれるのは、私の周囲にいる家族であり、友人であり、職場の仲間です!きっと、人間は一人で頑張るのには限界があるのでしょう。ですから、皆様方も自分がやるべき事を頑張りながら、時には周囲を見渡し、心の限界に行き着いて諦めそうになっている人を励まして欲しいと思います。そして、時には家族や仲間同士で、それぞれの長所やどの様にしたらそれぞれの長所を生かしながら社会に貢献できるのかという事を話し合って欲しいと思います。そうすれば、多くの方々が社会に貢献出来る形で自分自身の秘めた可能性の限界まで能力を発揮することが出来、その結果、多くの方が納得の行く人生を送る事が出来る様な気がするのです。

少し偉そうな事を書いてしまいましたね。申し訳ありません。

そろそろ、飛行機がモスクワに到着します。これを皆様が読んでいるということは、私が無事にロシアに到着し、星の街で訓練に励むことが出来ているということでしょう。「些細なことも当たり前と思わずに、今自分が出来る事を最後まで継続する!」当たり前の事ですが、実行するには助け合いが必要です。私も皆様方に負けないように頑張ります。それによって、皆さんを元気付けることが出来るとしたら、これほど嬉しいことはありません!他方で、もし皆様方が私の訓練や活動を見て、もっと努力できるところに気付いたとしたら「油井さん!もっとこんな事も出来るのでは無いですか?」と遠慮なく仰って下さい。このページの最後には、皆様方からのご意見を伺う欄が設けられています。私達は、皆様のメッセージを全て読んでいます!是非私が、自分の限界に挑戦できるように、そして宇宙の無限の可能性を少しでも引き出し、皆様方に貢献出来る様に、応援をして下さい。今後ともよろしくお願いします!

写真:ロシアに無事に着いたものの、この天気には驚きです!ヒューストンでは30℃に近い日もあったのに、こちらはまだまだ、春が遠い感じでした。健康管理が大変です!

ロシアに無事に着いたものの、この天気には驚きです!ヒューストンでは30℃に近い日もあったのに、こちらはまだまだ、春が遠い感じでした。健康管理が大変です!

写真:ゴム長靴

今回の話題に関連する写真が無いので、話題提供ということで…

この茶色のゴム長靴は何でしょう?そうです!ツイッターで紹介したゴム長靴です。

確かに格好は悪いのですが、機能は抜群です(笑)。ただ、日本の宇宙飛行士と言う以上、あまり格好が悪いのも問題なのかもしれません…ファッションセンス…私に全く関係の無い言葉です…

※写真の出典はJAXA




モスクワでのロシア語没入訓練からヒューストンに戻ってきて、早くも1ヶ月が経ちました。

気付けば今月のコラムの原稿締め切りが迫ってきています。

・・・正直に言うと、忙しくて原稿を書く時間が取れず、少し締め切りを延ばしてもらったのですが(^^;)

締め切りに追われる漫画家の方々の気持ちが、少しだけわかったような気がします。

でもこのコラムは、私たちのことを皆さんに知って頂く貴重な場ですし、自分の好きなように書かせて頂いているので、皆さんに楽しんで読んでもらえるうちは頑張って続けていきたいと思っています。

本拠地ヒューストンを2ヵ月半近くも離れていると、当然色々な仕事が溜まっていくわけで、この1ヶ月はそれを取り戻すのに一生懸命でした。一例を挙げると、私たちはT-38ジェット練習機での操縦訓練を1クォーター(3ヶ月)で12時間実施することになっているのですが、私はその3ヶ月のうち2ヶ月半近くヒューストンを離れていたわけで・・・

同期のパイロットに頼んで一緒に飛んでもらったり、何とか12時間の訓練を終えることが出来ました。

他にも、中断していたCAPCOM(キャプコム)訓練を再開したりと、かなり充実した1ヶ月でした。CAPCOM訓練については、またいずれコラムで書きますね!

今月のトピックは先月に続き、モスクワでのロシア語没入訓練についてです。

私が訪れた2~3月という時期は、厳寒の冬から徐々に春へと移行していく季節なのですが、私のように日本の関東以南で育った者にとっては、マイナス20~10℃と言われてもいまいちピンとこず、一体どれくらいの寒さなのか見当もつきませんでした。冬のロシア=厳寒というイメージだけ先立って、とりあえず着るものはなるべく暖かいものを、と出発前から念入りに準備しました。上着は重ね着のしやすいものにして、手袋は2重、帽子は耳まですっぽり収まるものにしました。靴にいたってはマイナス50℃での使用に耐えられるブーツを用意していったのですが、冬山の登山に行くわけでもあるまいし、さすがにこれはやり過ぎだったようで(笑)、街歩きにはもっぱらスニーカーを使っていました。

実際行ってみてどうだったかと言うと、私の滞在中は奇跡的にほとんど雪が降らず、気温がマイナス10℃を割ったのも数日間しかなく、予想以上に「快適に」過ごすことが出来ました。私は外国の街歩きが大好きなので今回もかなり歩いたのですが、歩いている間はむしろ暑いくらいです。ただ、少し立ち止まっていると身を切るような寒さが襲ってきますが。。。

驚くべきはモスクワの雪への対応力のすごさで、ある夜深々と雪が降ったのですが、翌朝早くから道路には雪かき車が行き来して、私が授業に行く頃には道路上にはほとんど雪が残っていませんでした。

もう1つ、モスクワで驚いたのがメトロです。巨大都市だけあって、モスクワはメトロが市内中に張り巡らされていて、市内の主要部にはメトロと徒歩でほとんど行くことが出来ます。年々整備が繰り返されているのですが、駅や使われている車両は一般的に古く、そして一日中人で溢れかえっています。すごいのは、ラッシュアワーともなるとホームには引っ切り無しに電車が滑り込んできて、前の電車の最後尾が見えなくなる頃には、次の電車のヘッドライトがホームに差し込んでくる程です。

「これ、一体どうやって運行管理してるんだろう?」と正直心配になってきますが、それでも毎日数え切れない人を運んでいるわけですから、しっかりと実績に裏打ちされた安全性があるのでしょう。このあたりは、古いソユーズロケットをマイナーチェンジを重ねながら今でも使い続けているロシアの宇宙開発を連想させるものがありました。良いものは古くなってもずっと使う、というのはロシアの国民性なのでしょうか。

モスクワで会ったロシア人たちの全体的な印象としては、とても親切な人が多いです。アメリカ人のような初対面での愛想の良さといったものが重視されていないのか、一見無愛想な感はありますが、こちらが困っていると本当に親身になって良くしてくれます。ロシア語を教えてくれた先生方もそうですが、街中の警備員にいたるまで、今回の滞在中本当に色々な方にお世話になりました。

ロシア語の授業では、文法の総復習から会話練習、読解と幅広くこなしました。他にもロシア映画を見たりもしたのですが、その中のある映画について今回はご紹介しましょう。

『Ирония судьбы, или С лёгким паром!』(邦題:運命の皮肉)という映画で、製作されたのが旧ソ連時代の1975年ですから古典的な作品になります。ロシアでは国民的人気を誇る作品で、老若男女知らない人はいないのではと思われるくらい、誰に聞いても「ああ~、あの映画か」というリアクションが返ってきます。何でも大晦日~元旦にかけて家族で見るのが定番になっているらしいです。日本で言えば紅白歌合戦のような位置づけでしょうか。

内容はドタバタラブコメといった感じなのですが、驚くべきはその設定で、モスクワとレニングラード(現・サンクトペテルブルク)という700km近く離れた2つの街の同じ名前の通りの同じ番地に、なぜか同じようなマンションが建っていて、部屋の間取りもほとんど同じ、置かれている家具もほとんど同じ、しかも使われている鍵まで同じという2つの部屋が存在して・・・

というビックリ仰天な設定なのですが、そのことが2組の男女の運命を狂わせていくという内容になっています。私たち日本人の感覚からすると、作り話でしか有り得ないようなその設定さえ受け入れてしまえば、あとは俳優たちの上手な演技や歌など、とても楽しい映画です。

ところが!ロシアの人々に言わせるとなんとこの設定、決して絵空事ではないらしいのです。当時社会主義体制下にあったソ連では、同じ間取りのアパートが各地で建てられ、お店に行っても同じものが並んでいるという状態だったようです。ホストファミリーのお母さんに聞いても、「小学生の頃、友達の家に行くと自分の家と同じ家具が置いてあって、ここは自分の家かと思った」とか。

写真:モスクワの宇宙飛行士記念博物館。宇宙ファン必見の博物館です。宇宙犬、ベルカとストレルカにも会えますよ!

モスクワの宇宙飛行士記念博物館。宇宙ファン必見の博物館です。宇宙犬、ベルカとストレルカにも会えますよ!

どうです?私たちのお隣の国、ロシア。近いようで遠い国、ロシア。何となく興味がわいてきませんか?国と国の関係は人間関係と一緒で、まずはお互いを良く知ることから始まるのではないでしょうか。ロシアの人々は日本の文化に非常に興味を持っています。村上春樹さんの小説や日本のアニメは、現地でもとても人気があります。このコラムを読んで下さった方々が、少しでもロシアという国に興味を持って頂けたら幸いです。

※写真の出典はJAXA




みなさん、こんにちは。JAXA宇宙飛行士の金井宣茂です。新年度が始まりましたが、いかがお過ごしでしょうか?

学生さんならば、新しい学校での、あるいは新しい学年としての生活が始まりますし、社会人ならば、新しい部署に異動したり、逆に新しく人を迎え入れたりしたかもしれません。毎年のことではあるのですが、春という季節は、新しいことを始める気持ちがみなぎるような気がします。

わたしたち3人の新人宇宙飛行士が、約1年がかりの宇宙飛行士選抜試験を受けたのが、2008年。選抜結果が出たのが、2009年の3月末でしたので、それからもう4年が経ったことになります。もう「新人」というほどのフレッシュさはなくなってしまったかもしれませんね。

さて、その後、宇宙飛行士候補者として訓練を受けることになって、苦労はいろいろありましたが、そのひとつは、“語学の壁”であったと思います。

もしかしたら皆さんの中にも、「英語がしゃべれたら良いのに・・・」とか「今度、海外出張があるけれど、語学が苦手だから憂うつ」という方がいらっしゃるかもしれません。何を隠そう、私自身が、JAXAに入社する前は、まさしくそんなことを考えて毎日の生活を送っていました。

JAXAに入る前は、海上自衛隊で勤務をしており、日々の仕事で英語を使うことは皆無でした。

ただ、ときおり米海軍や他国の海軍と合同演習があったり、在日米軍の関係者と交流したり、あるいは近年は自衛隊の海外での活動も行われるようになってきたこともあり、ありがたいことに、職場として英語学習を奨励する環境にはありました。

希望者のみですが、年1回、TOEICの試験を受けることができましたので、個人的に参考書を読んだり、リスニング教材を勉強したりしていました。

勉強をすることで、毎回テストの点数が上がっていくのは楽しいものです。また、文法の問題には、クイズやパズルを解くような面白さを感じておりました。

よくあるプロフィールの質問で「趣味は?」という質問項目があったら、「英語学習」と答えていたかもしれません。「“英会話”はあくまでコミュニケーションの“手段”に過ぎず、“趣味”などと言えるものではない」と、厳密なことをおっしゃる人もいるかもしれませんが、当時の自分にとっては、クロスワードパズルや将棋を趣味にするような感覚で、英語の勉強を楽しんでいたというのが正直なところでした。

「日本の英語学習は、文法ばかりが中心で、英語コミュニケーションに役立たない」という意見がありますが、わたしの英語勉強も、まさにその「コミュニケーションに役立たない、日本式英語学習」の典型であったと思います。

今になって思い返してみると、そもそも、勉強することそのものが目的になってしまっており、外国人とコミュニケーションを取ろうということを、目的として明確に意識さえしていなかったように思います。しかし、結論を先に言ってしまうと、そんな「役に立たない日本式英語学習」でも、今から思い返してみると、割と役立ったなぁと感じています。

米国ヒューストンに渡って宇宙飛行士の訓練(語学だけではなく、宇宙ステーションのシステムや、航空機訓練など)が始まると、説明はすべて英語で行われました。言われることがチンプンカンプンで、「英語が全然分かってないヤツが来たぞ」とずいぶん心配されたものでした。

でも、言われて分からないのは、宇宙工学や航空業界の専門用語、宇宙ステーションに関連する略語、そしてインストラクターやクラスメートがしゃべるネイティブのくだけた言い回し(とジョーク)なのです。

講義や会議などで、意思の疎通には支障のない語彙と文法知識は、日本で勉強している段階ですべてマスターしていたと、今でははっきり言うことができます。

逆に、現在でも、事前の知識のない特別な装置やシステムに関する話し合いに参加しても、初めてアメリカに来たときと同じくらい話についていけませんし、ネイティブの人に、くだけた言い回しでしゃべられてもポカンとするばかりなのは変わりません。

4年間のアメリカでの生活で、耳が英語の音に慣れて一つ一つの単語を聞き取る力がついたこと、ネイティブ風のくだけた言い回しを幾つか覚えたことはあるものの、正直なところ、自分の英語の語学知識そのものはさほど深まったようには思いません。むしろ、JAXAに入る前のように文法テキストを真面目に勉強することもなくなり、知識という点では、やや退化したかもしれません。

「おまえの英語は本当に進歩したよ。すごいよ、尊敬するよ」

励ましなのか、そう言ってくれるクラスメートやインストラクターは多いのですが、苦笑いをしながら「サンキュー」とのみ答えています。

この場面だったら、こういう風に声を掛ける、こんな話題を振るという風に、会話のパターンにも文化的な差異がありますので、そういった異文化への理解という点では、現地で過ごしてきた4年という“時間”が効いているのかもしれません。純粋な意味での語学力というのとは、ちょっと違う気もしますが、現地の人の考え方を理解するというのも、コミュニケーションという点ではとても大切だと感じます。

さて、宇宙飛行士訓練の科目でも大切なものの一つに、ロシア語の勉強もあります。

語学の学習方法に関しては人それぞれのやり方はあろうかと思いますが、わたしの場合、ロシア語学習においても、まずは基本的な文法事項から固めていくという日本風のアプローチが非常に肌に合っているような気がします。

アメリカ人やカナダ人のクラスメートや先輩飛行士は、「文法なんかどうでもいいから、とにかく言葉をたくさん覚えて、それを並べれば意思は通じるんだ」と、ロシア人相手に果敢にコミュニケーションを取りに行きます。尊敬すべき積極性ですし、実際にそれで、言葉の通じないロシアの宇宙飛行士やインストラクターと仲良くなっていますから、少し見習ったほうが良いのかもしれません。

でも、自分の場合、(英語を話すときもそういう傾向があるのですが)文法や構文に反したり、自分で自信のない内容を口にすることに、どうにも抵抗感を感じるのです。

ロシアの『星の街』に、ソユーズ宇宙船と宇宙ステーションの訓練に出かけた際も、勉強を始めたばかりのロシア語はほとんど封印して、ロシア語-英語の通訳を介して授業を受けたものでした。これを、「消極的である」と批判的にとられることもありましたが、自分の性分ですからしかたありません。

ヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターには、語学ラボがあって、専門の先生たちが、NASA職員や宇宙飛行士に対して語学レッスンを提供してくれます(写真)。

写真:いつもお世話になっている語学ラボの先生(ジェーン先生(英語)、ピーター先生(ロシア語))とスケジューラーのナターシャ(中央)さん。ほかにもたくさんの先生がいますが、みんなとてもフレンドリーで、親身に勉強を教えてもらってます。

いつもお世話になっている語学ラボの先生(ジェーン先生(英語)、ピーター先生(ロシア語))とスケジューラーのナターシャ(中央)さん。ほかにもたくさんの先生がいますが、みんなとてもフレンドリーで、親身に勉強を教えてもらってます。

ロシア語を教えてくれる先生の指導法も、大きく2パターンあり、細かな文法事項は放っておいて、とにかく日常会話や技術書などのテキストの読み下しを重視する先生と、教科書に沿って単純な構文で基礎文法事項から始める先生とがいます。

いろいろと先生が変わるので苦労することもありましたが、わたしの好みに合っていたのは断然、後者のパターン。

「このときはこの構文を使い、このときは別のルールを適用する」と、一つ一つ納得していくことで、自信を持ってロシア語会話に臨むことができる気がします。最初は、型にはまった単純なことしかしゃべれませんが、最終的には応用が効いて、正確な会話ができるようになる近道なのではと考えています。

考えてみると、今、自分が行っているロシア語の勉強は、日本の中学・高校時代に英語を習ったときの過程そのものな気がしてきます。

日本式の英語学習方法のように、日常会話に直結するような実践的なアプローチではないかもしれませんが、逆に将来的に応用が効く、しっかりとした文法知識という点では、英語を母国語としない他国の学習者に比べて優れているような気がします。

わたしの性格的な問題なのかもしれませんが、同じ内容をしゃべっていても、文法的に正しく話しているという自信があるか・ないかだけで、相手からの理解も格段に違うような気もします。

最近、ロシア語文法に関する知識が少しずつ増えていくのが実感としてありますので、かつてTOEICで高い得点がとれるように英語勉強をしていたときのような、楽しささえ感じます。

他国の言語を学ぶことで、その土地の文化や考え方を知ることが楽しい・・・などと高尚なことを言うと格好良いのですが、テストで良い点を取ることを目指したり、クイズ的な知識を蓄えることだって十分に楽しいことだと思います。

英語とロシア語の2ヶ国語を学んでいて強く感じるのは、どんな形であっても“楽しい!”という気持ちがないと、勉強がまったく進まないということです。

さまざまな国々の協力プロジェクトである国際宇宙ステーション計画に携わっていると、色々な局面で、国ごとの特徴(お国柄)が見えることがありますが、語学学習に対するアプローチも、もしかしたらそういうお国柄があるのかもしれません(個人の性格による影響も大きいように思えますが)。

日本風の英語学習というと、あまりポジティブな評価がないような気がしますが、そうはいっても日本人には誰しも馴染みの深い方法ですし、個人的な経験では、いざ海外赴任となって、実際に役立ってくれてたなぁという気がします。

この新学期、みなさんも新しい挑戦として、英語や他の外国語習得にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

“楽しい”と思い続けられたら、語学学習の成功は約束されたようなものですよ(きっと)。

※写真の出典はJAXA/NASA



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今月は、このJAXA宇宙飛行士活動レポートを作成する現場職員の声をお届けします。

写真:安西(右)・新関(左)

「JAXA宇宙飛行士活動レポート」、「新米宇宙飛行士最前線!」を毎月ご愛読(と信じて)いただき、ありがとうございます。JAXA宇宙飛行士のスケジュール管理などを担当している安西(写真右)と、広報担当の新関(写真左)です。

このページを作成するにあたっては、私たちとWEB担当者とで、毎月、編集会議と呼ぶにはちょっとお恥ずかしいながらのミーティングの場で、JAXA宇宙飛行士のスケジュール表を見ながら、『先月は若田さんがロシアで訓練を受けた。職員の○○さんがその訓練に立ち会っているから、情報をもらおう』、『今月の野口さんは△△会議に出席するから、情報を集めよう』、『古川さんのNASAでの活動がNASAのサイトで紹介されていたから、私たちのページでも取り上げよう』、『星出さんのミッション報告会を取材して、ページで紹介しよう』・・・・と情報(ネタ?)を洗い出し、収集して、WEBページの形に作りこんでいます。私たちの情報収集能力が至らず、JAXA宇宙飛行士の全活動をご紹介できないこと、また、毎月の情報量にバラつきがある点は何卒ご容赦ください。

一方、油井・大西・金井の新米宇宙飛行士(そろそろ“新米”の形容詞は不要かな)の日々の大奮闘もお伝えせねばと思うものの、ヒューストン(NASAジョンソン宇宙センター)を中心に訓練漬けの彼らの活動を追いかけきれないジレンマが・・・。そこで、彼ら本人に、自分たちの近況を紹介してもらおうとスタートしたのが「新米宇宙飛行士最前線!」です。この1年の執筆で、個性あふれる3人を知っていただけたでしょうか?

引き続き、彼らの活動報告、さらには将来の宇宙飛行に向け、応援をいただけたら、宇宙飛行士担当、広報担当として嬉しい限りです。

これからも末永く、JAXA宇宙飛行士の活動を応援してくださいね。


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