野口宇宙飛行士は、9月上旬から中旬にかけて、イタリアのサルデーニャ島で欧州宇宙機関(ESA)が実施したCAVES(Cooperative Adventure for Valuing and Exercising human behaviour and performance Skills)訓練に参加しました。
訓練には、野口宇宙飛行士の他、国際宇宙ステーション(ISS)計画に参加するESA、NASA、カナダ宇宙庁(CSA)、ロシア全パートナーの宇宙飛行士で構成される6名のチームで臨みました。
この訓練は、サルデーニャ島の洞窟内で、集団で数日間にわたり生活しながらミッションを遂行していく体験を通して、リーダシップや自己管理能力、異文化・経験の枠を越えたチームワーク形成能力やコミュニケ―ション能力の向上を目的に行われるもので、いずれもISS長期滞在時には必要不可欠な能力です。
訓練中は、洞窟の外の世界から隔離された状態となり、集団生活のためプライバシーも限られ、物資や食糧はチームで運べる量だけという制約を受けるなど、宇宙飛行に似た極限環境下におかれます。また、洞窟内の移動においては、ISSの船外活動と同様に、常に身の回りの安全に注意を払わなければならないといった共通点もあります。洞窟内には太陽の光が差さないことから、自然の時間の流れを知覚する術がなく、人工の光を太陽に見立てて一日の昼と夜を模擬する工夫も行われます。
9月2日から7日にかけては、事前準備として、訓練の目的や概要を確認するとともに、洞窟の地形的な特徴や、洞窟内の地図の作成方法、科学サンプルの採取方法、人工の光しかない洞窟内での写真の撮影方法、移動する際に必要となるロッククライミング技術や水泳技術など、洞窟内での探索期間中に必要となる知識や技術を学びました。加えて、安全に訓練を実施するために遵守する事項や、緊急事態が発生した際の対応などについても事前に確認を行いました。
そして9月8日、洞窟内での訓練を開始しました。洞窟内を探索し、キャンプ設営や洞窟内の測量、地図作成、地質調査、微生物採取、気象データ収集、写真撮影の他、通信機器の試験などのミッションをこなしながら、6日間を洞窟内で過ごしました。
9月13日に洞窟から帰還した後は、収集したデータとサンプルを整理する作業や、チームディスカッション、活動報告などを行い、訓練を締めくくりました。
今回私が参加したCAVES訓練(洞窟を利用した極限閉鎖環境適応訓練)は、日夜の変化が無い地中で一週間の隔離生活を送り、地上からの支援が限られている状況で6名の宇宙飛行士がサバイバルする訓練でした。
場所は地中海に浮かぶイタリア・サルディニア島の鍾乳洞。風光明媚な観光地として知られる地上とは全く違う、まるで火星か小惑星のような光景が広がる巨大な地下洞窟です。洞窟とは言っても単なる横穴ではなく、ロープを使って垂直な縦穴を上り下りしたり、ウェットスーツを着て地下水脈の測量を行ったりと、まさに別世界の探検をしているようでした。
現地の地質学者や登山家たちの支援体制も充実しており、アメリカ、ロシア、デンマーク、カナダ、そして日本からの飛行士がチームを組み、将来の惑星探査ミッションを想定した訓練を無事成功させることができました。私も若い飛行士をまとめるコマンダー役としての経験を積む事ができ、大変有意義でした。今回の経験を次のISS滞在ミッション、さらには月・惑星探査ミッションに繋げていきたいと思います。