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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポート 2012年9月

最終更新日:2012年10月22日

JAXA宇宙飛行士の2012年9月の活動状況についてご紹介します。

野口宇宙飛行士、CAVES訓練に参加

写真:訓練に参加した野口宇宙飛行士ら

訓練に参加した野口宇宙飛行士ら"Cavenauts"(出典:JAXA/ESA-V. Crobu)

野口宇宙飛行士は、9月上旬から中旬にかけて、イタリアのサルデーニャ島で欧州宇宙機関(ESA)が実施したCAVES(Cooperative Adventure for Valuing and Exercising human behaviour and performance Skills)訓練に参加しました。

訓練には、野口宇宙飛行士の他、国際宇宙ステーション(ISS)計画に参加するESA、NASA、カナダ宇宙庁(CSA)、ロシア全パートナーの宇宙飛行士で構成される6名のチームで臨みました。

この訓練は、サルデーニャ島の洞窟内で、集団で数日間にわたり生活しながらミッションを遂行していく体験を通して、リーダシップや自己管理能力、異文化・経験の枠を越えたチームワーク形成能力やコミュニケ―ション能力の向上を目的に行われるもので、いずれもISS長期滞在時には必要不可欠な能力です。

訓練中は、洞窟の外の世界から隔離された状態となり、集団生活のためプライバシーも限られ、物資や食糧はチームで運べる量だけという制約を受けるなど、宇宙飛行に似た極限環境下におかれます。また、洞窟内の移動においては、ISSの船外活動と同様に、常に身の回りの安全に注意を払わなければならないといった共通点もあります。洞窟内には太陽の光が差さないことから、自然の時間の流れを知覚する術がなく、人工の光を太陽に見立てて一日の昼と夜を模擬する工夫も行われます。

写真:洞窟内での訓練の様子

写真:洞窟内での訓練の様子

洞窟内での訓練の様子(出典:JAXA/ESA-V. Crobu)

9月2日から7日にかけては、事前準備として、訓練の目的や概要を確認するとともに、洞窟の地形的な特徴や、洞窟内の地図の作成方法、科学サンプルの採取方法、人工の光しかない洞窟内での写真の撮影方法、移動する際に必要となるロッククライミング技術や水泳技術など、洞窟内での探索期間中に必要となる知識や技術を学びました。加えて、安全に訓練を実施するために遵守する事項や、緊急事態が発生した際の対応などについても事前に確認を行いました。

そして9月8日、洞窟内での訓練を開始しました。洞窟内を探索し、キャンプ設営や洞窟内の測量、地図作成、地質調査、微生物採取、気象データ収集、写真撮影の他、通信機器の試験などのミッションをこなしながら、6日間を洞窟内で過ごしました。

9月13日に洞窟から帰還した後は、収集したデータとサンプルを整理する作業や、チームディスカッション、活動報告などを行い、訓練を締めくくりました。

CAVES(ESAウェブサイト 英語)

今回私が参加したCAVES訓練(洞窟を利用した極限閉鎖環境適応訓練)は、日夜の変化が無い地中で一週間の隔離生活を送り、地上からの支援が限られている状況で6名の宇宙飛行士がサバイバルする訓練でした。

場所は地中海に浮かぶイタリア・サルディニア島の鍾乳洞。風光明媚な観光地として知られる地上とは全く違う、まるで火星か小惑星のような光景が広がる巨大な地下洞窟です。洞窟とは言っても単なる横穴ではなく、ロープを使って垂直な縦穴を上り下りしたり、ウェットスーツを着て地下水脈の測量を行ったりと、まさに別世界の探検をしているようでした。

現地の地質学者や登山家たちの支援体制も充実しており、アメリカ、ロシア、デンマーク、カナダ、そして日本からの飛行士がチームを組み、将来の惑星探査ミッションを想定した訓練を無事成功させることができました。私も若い飛行士をまとめるコマンダー役としての経験を積む事ができ、大変有意義でした。今回の経験を次のISS滞在ミッション、さらには月・惑星探査ミッションに繋げていきたいと思います。

油井宇宙飛行士、野外リーダシップ訓練に参加

写真:NOLS訓練中のひとこま

NOLS訓練中のひとこま(出典:JAXA)

油井宇宙飛行士は、NASAや欧州宇宙機関(ESA)の宇宙飛行士とともに、米国アラスカ州で実施された野外リーダシップ(National Outdoor Leadership School: NOLS)訓練に参加しました。

NOLS訓練とは、宇宙滞在に似たストレス環境下で実施される訓練で、宇宙飛行で重要な自己管理やリーダシップ、フォロワーシップなどのチームワーク、状況に応じた判断方法などを理解・習得するための訓練です。

およそ1週間にわたって、プリンスウィリアム湾をカヤックで移動しながらキャンプ地を移動とする野外生活を送り、国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在に必要となる能力を向上させました。

大西宇宙飛行士、ISSのロボットアームの運用訓練を実施

写真:シミュレータ上でSSRMSを操作する大西宇宙飛行士

シミュレータ上でSSRMSを操作する大西宇宙飛行士(出典:JAXA/CSA)

大西宇宙飛行士は、9月9日から21日にかけて、国際宇宙ステーション(ISS)のロボットアームシステム(Mobile Servicing System: MSS)を開発したカナダ宇宙庁(CSA)を訪れ、MSSに関わる訓練を行いました。

MSSは、ISSのロボットアーム(SSRMS)と、SSRMSの稼働の基点となるモービルベースシステム(Mobile Base System: MBS)、ISSトラス上の移動を可能にするモービルトランスポータ(台車:MT)から構成され、大西宇宙飛行士は、これらのシステムについて、講義やシミュレータを使用した訓練を通して理解を深めました。

2週間にわたった訓練では、最初の1週間で物を掴んで別の場所に移動するというロボットアームの基本的な操作について学び、後半の1週間では、操作中にロボットアームのシステムに異常が生じた場合の対処や、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)のキャプチャに関する訓練を受けました。

異常対処の訓練では、操作中にロボットアームを制御するコンピュータが作動しなくなり、バックアップのコンピュータに切り替えて操作を継続するといったシナリオを通し、システムに関する理解を深めることができました。

また、「こうのとり」のキャプチャ訓練では、ISSに最接近した「こうのとり」をロボットアームで掴まえる部分の操作を繰り返し何度も練習しました。最初はほぼ静止した「こうのとり」のキャプチャから始まり、次第に「こうのとり」に動きを加えて難易度を上げていきました。時には規格外の大きな動きが加えられ、操作者の判断でキャプチャを中止しなければならないようなケースもあり、様々な状況に対処できる能力を磨きました。

大西宇宙飛行士は今後米国ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センター(JSC)で、ロボットアームのスペシャリスト訓練を受ける予定になっています。

古川宇宙飛行士、JAXAシンポジウム2012に登壇

写真:トークセッションの様子

トークセッションの様子(出典:JAXA)

古川宇宙飛行士は、9月19日に福岡市で、21日に札幌市で開催したJAXAシンポジウム2012「宙(そら)から視(み)る、宙(そら)をつかう」において、「宙(そら)を匠(つく)るひと ~星出飛行士、宙(そら)に」をテーマにしたトークセッションに登壇しました。

トークセッションでは、ナビゲーターにパックンマックンを迎え、星出宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッションの内容や、古川宇宙飛行士自身が行った医学実験の成果を紹介しました。会場からは「近い未来に宇宙で生活するために、普段の生活のなかでできることは?」など、ユニークな質問が多く寄せられ、大いに盛り上がりました。

トークセッションの最後に、古川宇宙飛行士は来場者に向けて、「いろいろなことに興味を持ち、夢に向かって一歩ずつ努力をすれば、たいがいの夢はかなう」とエールをおくりました。


油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」

今回のNOLS訓練は、アラスカの海をカヤックで旅するというものでした。以前、この訓練に参加した方々からは、「気候もいいし、楽しい訓練だよ!」などと言われていたので楽しみにしていたのですが…そう、これまでの方々は、6~8月に参加していて、NASAが9月にこの訓練を実施するのは今回が初めてだったのです!

9月のアラスカは寒い!ヒューストンで連日37℃の経験をしていた私にとっては、5℃しかも冷たい雨が連日降り注ぐ天気は、真冬のように感じました(実際、海には氷がプカプカ浮いています)。海も大荒れの日が多く、カヤックの訓練が出来たのは、ほんの数日です。しかし、幸運なことにカヤックで長距離(約20km)移動する日に、グループのリーダーをさせて頂く事が出来ました。今回は、そこで学んだことについて少し書かせて頂きます。

私がリーダーをしたのは、次の日にボートの迎えがくるという、実質訓練最終日でした。これまで荒天の為、終日カヤックの訓練をできたのは、1日だけという状況です。前日に天気予報を確認すると、最終日は一時的に天気が回復するということでしたので、少しばかり期待しながら眠りについたのですが…朝、目覚めてみると強い雨がまだ降っています…皆より早く起きてラジオの天気予報を確認すると、天気予報では回復が遅れているだけで、やはり天気は一時的に回復するとの事…「本当かな?」と思いつつも、皆を予定どおりの時間に起こすことにしました。ただ、天気予報の詳細を知らない皆は、この天気で遠出が出来るとは思っていなかったようで、明らかに士気が低い感じです。天候が回復しても一時的で、その隙をついて移動する必要があるため、皆に次の集合時間と個人の出発準備をそれまでに完了させることを指示しました。

写真:こんなに良い天気ばかりだったら良かったのに…でも、それでは、訓練効果がありません!本当は、困難に直面したら、「困難を与えて下さって有難うございます!」と感謝しなければいけませんね。

こんなに良い天気ばかりだったら良かったのに…でも、それでは、訓練効果がありません!本当は、困難に直面したら、「困難を与えて下さって有難うございます!」と感謝しなければいけませんね。

そして、いよいよ、皆を集めて「予定どおり移動するか?」或いは「この場に留まるか?」の意思決定のミーティングです。グループの意思決定にはいろいろな手段がありますが、今回のように、皆が実施すべきことをしっかり理解している場合は、それぞれの意見を聞き、同意を得ながら意思決定をしたいと考えていました。私は、本日の天気予報と予定されている行程、天候悪化時の代替プランなどを説明した上で、述べました。

「今は雨が降っていますが、天気予報と海上を観察した結果、予定どおりの行程を進むことは可能であると思われる。しかし、私が見たところ皆の士気は現在あまり高いとは言えない。長距離の移動になる上、不確定要素も多いので、士気が低いと別の危険を誘発する恐れがある。予定どおり移動するべきか、この場にとどまるべきか、皆の率直な意見が聞きたい。」

案の定意見はバラバラで、なかなか決着しそうにありません。「今回の訓練では、チームワークを向上させるのが目的なのであるから、これまでどおり、この場で他の活動をしながらチームワークを向上させることもできるのではないか?」という意見もありました。私も、リーダーとして一日を過ごす上では、この場に留まる方が判断事項も少なく、正直そちらの方が楽です。しかし、あるクルーが言います。「我々は、カヤックの訓練を通じてチームワークを向上させるためにここに来ているのであって、テントで話をしながら過ごすことでチームワークを向上させるのではない!」と。確かにそのとおり!その意見以降、徐々に移動に積極的な意見が増え始め、意見が出切った所で、皆が私の顔を見ています。私は意を決して「それでは、困難にチャレンジしましょう!荷物の積込み開始は0930!」と言い、最終準備を開始させました。

ただ、出発の直前にも、天候は思ったほど回復はしておらず、逆に風が強まっていました。皆も少し不安そうな顔をしていたので、「天気予報とは、状況が異なるものの、危険な程海が荒れているわけではありません。まずは、行けるところまで行ってみましょう。代替プランは、沢山ありますから!」と皆に告げ出発です(実は私も不安なのですが、それを顔に出さずに明るく言う事が大切です)。

写真:いつも、びしょ濡れでしたが、気持ち次第で楽しくも、みすぼらしくもなります。ということで、笑顔!

いつも、びしょ濡れでしたが、気持ち次第で楽しくも、みすぼらしくもなります。ということで、笑顔!

ここまで来ると、さすがにこれまで修羅場をくぐり抜けてきた方ばかりですから、士気は大いにあがり、私をいろいろな面で助けながら積極的に指示に従ってくれます。地図の判読、休憩の指示、低体温症対策、移動隊形の指示、次のキャンプ地の決定など、リーダーとしてやるべきことは山ほどありましたが、それほど困難を感じることなく、無事に計画通りの場所に、しかも予定よりも早く到着する事が出来ました(それでも、その日約4~5時間カヤックを漕ぎました)。

この一日で、私は本当に多くのことを学びました。最も興味深い経験は、私達でも、時に本来の目的を忘れ、安易な道を取りそうになる事があるという事です。「これまでと同じことを継続する」、「何かと理由をつけて安易な道を選択することを正当化する」といった傾向が人間にはあるのかもしれませんね。そのような中で、その流れを変えるような発言や決定をする事は非常に難しいことです。しかし、困難の後には、それに見あった収穫があるのも事実です。実際、この日を境に、皆が私を見る目が変わったのを感じましたし、皆もやり遂げた充実感を味わっているようでした。

私は、「困難は人を成長させる。選択に迷ったら厳しい道を選択すること!」と日頃講演で述べていますが、今回の訓練でも自らその言葉を実践し、結果を残せた事に充実感を感じると共に、少しホッとしています。私は、講演でもツイッターでも、僭越であると思いつつも、いつも偉そうな事ばかり言っています。でも言葉だけで、私自身の行動が伴わないと何にもなりませんし、他の人からも信頼されないですからね。

写真:今度の訓練では、イーグルが会いに来てくれました!(NEEMOの時は、海亀でしたね)私も、遠い昔に、イーグル・ドライバーと呼ばれていた時代がありました…

今度の訓練では、イーグルが会いに来てくれました!(NEEMOの時は、海亀でしたね)

私も、遠い昔に、イーグル・ドライバーと呼ばれていた時代がありました…

※写真の出典はJAXA


10月5日、皆さんもニュース等でご覧になられたかと思いますが、私の同僚である油井亀美也宇宙飛行士の国際宇宙ステーション長期滞在決定が発表されました。それを記念して、今月のコラムでは油井さんについて語りたいと思います。私たち3人の2009年組JAXA宇宙飛行士は、まだまだ一般の方々に知られていないので、この他己紹介を通して、油井さんの知られざる一面をお伝えできればと思います。

写真:左から大西、油井、金井宇宙飛行士

油井さんと金井さんと私は、JAXAが2008~2009年に実施した宇宙飛行士候補者選抜試験で選ばれJAXAに入社した、いわゆる同期入社になります。とはいえ、油井さんはパイロットとしても、社会人としても、私よりもずっと先輩で、同期というのも本来はおこがましいのですが(汗)

尊敬できる先輩であり、とても頼りになる同期でもあり、プライベートではよく遊んでもらう友人でもあり、私にとって油井さんはそんな色々な側面をもった存在なのです。

油井さんと初めて会ったのは、2008年の暮れのことです。当時、選抜試験は2次選抜まで進んでいて、その2次選抜受験者の間で企画された親睦会という名目での宴会の場でした。この時の選抜試験にはパイロットが多く参加しており、その中に自衛隊のテストパイロットがいることは聞いていましたが、油井さんがその人でした。

自衛隊のパイロットというと、勝手ながら私の中ではものすごく強面で筋肉ムキムキの屈強な人というイメージがあったのですが、実際に会った油井さんは、とても穏やかで気さくで、特段眼光が鋭いというわけでもなく、むしろ何だか眠そうな眼をしているな、というのが第一印象で(笑)、言ってしまえばどこにでもいそうな普通のおじさん(失礼!)でした。

その「普通のおじさん」に見えた油井さんが、そのあと行われた最終選抜で、群を抜く統率力でチームをまとめ、強力なリーダーシップを発揮したことは、鮮烈なイメージで今も私の記憶に焼きついています。どんな場面でも、物事の本質をしっかりと捉えていて、今のチームに必要なもの・不必要なものを明確に区別し、周囲をどんどん引っ張っていくので、長期間に及んだ最終選抜試験の期間中、知らず知らずのうちに油井さんがリーダーになっているケースが多々ありました。リーダーシップというものが、天性によるものなのか、それとも訓練で身につくものなのかということは議論の余地があると思いますが、自衛隊での厳しい訓練をパスしてきたという自信が、油井さんのリーダーシップスタイルの根本的なところを支えているような気がします。

その後、アメリカのヒューストンに渡り、NASAの宇宙飛行士候補者訓練に一緒に参加するようになってから、こんなことがありました。

当初、私は英語力がまだまだで、授業についていくのも必死という時期で、ある授業の後、油井さんはどれくらい理解できているのだろうと不安になって聞いてみたことがあります。その時の油井さんの回答は、「今の授業は、このへんとこのへん、それからここさえ理解しておけば多分大丈夫ですよ」というものでした。私は衝撃を受けました。油井さんと言えど授業の全てを聞き取れているというわけではないのでしょうが、その授業の中で、どこが大事なのか、逆に言えばそんなに重要でないところはどこか、ということをしっかりと整理出来ているのが驚きでした。何より、油井さんにそう言われると、本当にそこさえ理解出来ていれば大丈夫だというような、妙な安心感が沸いてくるから不思議です。

他にも油井さんがいかにすごい人かというエピソードは沢山ありますが、あまり褒めちぎっても面白くないので(笑)、そんな完璧超人・油井さんの人間くさい面もご紹介しましょう。

油井さんは自他共に認める野菜嫌いですが、食事には独自のこだわりがあるようで、行くお店によって注文するメニューが決まっています。アメリカに来た当初、お互い単身だったのでよく食事に一緒に行きましたが、行きつけの中華料理屋で油井さんはいつも蝦チャーハンを頼んでいました。私はどちらかと言うと、色々なメニューを試すのが好きなので、いつも同じメニューでよく飽きないなあと思って見ておりました。

ある日、私はこう言いました。

「油井さん、ここのお店はこのカレーチキンも美味しいですよ」

すると油井さんは、

「へえ、そうなんですか! 美味しそうですね」

と言って、ニッコリ笑いました。しばらくしてウエイターがやって来て、「注文は?」と聞くと、油井さんは何事もなかったかのように、

「蝦チャーハンで(真顔)」

これには思わず、「やっぱりいつものですか!」とツッコんでしまいました。

油井さん、食べるものに関してはかなり頑固なようです。野菜嫌いなのも、単なる好き嫌いではなく、何か深い事情があるのかも・・・

他にも、人の話を真剣に聞いているようで、実は聞き流しているという得意技も油井さんは持っていますが、あまり色々書くと今後の油井さんとの人間関係に支障が出かねないので、このへんにしておきましょう。

写真:大西宇宙飛行士(左)と油井宇宙飛行士(右)

・・・最後にどうでもいい話を一つ。ここヒューストンで、油井さんと私に気に入られたお店は、しばらくすると潰れるという何ともはた迷惑なジンクスがあります(汗)
これまで、タイ料理屋に始まり、インド料理屋、サンドイッチ屋、中華料理屋、極めつけは行きつけのバッティングセンターまで潰れたのには本当に驚きました。ヒューストンでお店を経営している方々、私たち2人が足繁く通うようになったらご注意を。

※写真の出典はJAXA


みなさん、こんにちは。新米宇宙飛行士の金井宣茂(かないのりしげ)です。

旅から旅を重ねながらの宇宙飛行士“修業”は、まだまだ続いています。

早いもので、宇宙飛行士候補者として選ばれてから、約3年が経ちました。その後、アメリカのヒューストンを拠点にしながらも、さまざまな国に行って訓練を継続しています。

国際宇宙ステーションという一つのプロジェクトに関わっているのは同じなのですが、訓練に行く場所ごとで、訓練のやり方や現場の雰囲気に、それぞれのお国柄が感じられるのは興味をひかれます。

たとえば、ロシアに行くと、古くからの有人宇宙開発の歴史があり、「宇宙ステーションの運営はロシアがリーダーシップをとっているんだ!」という強いプライドを感じます。かといって外国人に対して冷たいようなところは全然なく、むしろ外国から技術や知識を学びに来る者を温かく迎え入れる、“度量の大きさ”や“対応慣れ”のようなものさえ感じます。旧ソ連時代に、社会主義の国々から宇宙飛行士を募って宇宙飛行を行ったり、民間人から宇宙旅行者を募ったりしてきた歴史的な背景によるのでしょうか?

写真:ロシアでのソユーズ宇宙船の訓練の様子

ロシアでのソユーズ宇宙船の訓練の様子(出典:JAXA/GCTC)

ガガーリンの時代を知っているような古株の名物教官の指導は人間味があって、実際に訓練を受けてみると、日本で言うところの「師匠と弟子」の関係のような心の絆を感じさせられました。ロシア語も満足にできない自分にも、温かく親身に、有人宇宙活動のイロハを手ほどきしてくれたのには、本当に感謝でいっぱいです。

これに対して、アメリカのインストラクターは、若くて優秀なエンジニアが多く、効率的に短時間で、必要十分な知識と技能が身につくような訓練体系が練られています。

また、飛行訓練を行うために、T-38というNASA独自のジェット練習機をたくさん保有していたり、宇宙遊泳の訓練を行うために超巨大なプールに実物大の宇宙ステーションの模型(モックアップと言います)を沈めて、水中用に改造した宇宙服を使って訓練したり、宇宙センター中に、内部まで模擬した実物大モックアップ(プールに沈んでいるものとは別物)を用意して、故障した装置の交換修理や緊急事態対応の訓練を実施したりと、とことんまでリアリティーを追及した訓練を提供してくれます。これだけの設備を維持管理するだけでも、どれだけ予算がかかっているんだろう?と他人事ながら心配になってしまいますが、これには「さすが、大国アメリカ」と脱帽するしかありません。

単に国力の大きさというだけでなく、宇宙開発に対する国民の理解と期待、月に人類を送ったという“誇り”が、NASAにそれだけ大きな活動の余地を与えているのだと思います。

写真:NASAでのプールを使用した船外活動訓練の様子

NASAでのプールを使用した船外活動訓練の様子(出典:JAXA/NASA)

一方、欧州宇宙機関は、ヨーロッパの国々が予算を出し合って運営する比較的小さな組織です。宇宙飛行士も職員も、異なる言語、異なる歴史、異なる文化を背景に持つ人々が一つの目的に向かって協力して仕事をしているのが印象的でした。日本から見れば一つの欧州のようにも思えるのですが、現地に行ってみると、国ごとの宇宙政策の違いがあり、計画や予算をまとめるのが非常に難しいところもあるようです。

宇宙ステーションの管制センターも、実験棟「コロンバス」はドイツ、宇宙輸送機「ATV」はフランス、「コロンバス」内に設置された実験装置ごとに、別々の国や地域に特別の施設を持っており、全ヨーロッパに散らばった管制センターを、通信ネットワークを使って、巧みにまとめあげているのも、大きな特色だと思われました。

言葉や考え方だけでなく、ときには目指すゴールさえ微妙に異なる国々で、辛抱強く調整を重ねて、一つ一つの実績を積み上げて行く様子には、古い歴史に裏打ちされた、成熟した国際人としてのありかたを感じることができ、島国で外国との交流が限られている日本人として、学ぶことが大いにあります。

新しく知り合った人と一緒に仕事をするにあたって、国籍をもとに、ステレオタイプに判断するのは良くないという考えもあるでしょうが、特にわたしのような新人にとっては、対話を始めるにあたって、ひとつの材料になるような気がします。

宇宙ステーションに限らず、現代の宇宙開発は多国間の国際協力なしでは考えられません。このような国際協力活動では、自分の主張をしっかり述べることが大切ですが、同時に、互いの異なる立場や考え方を理解して、双方が利を得ることができるような関係が必要であると思います。

そんな相互理解にあたって特に大切なのは、何よりもまず、お互いの顔と顔を突き合わせて実際に話してみることであると思います。

仕事のやり方、訓練のしかた、はたまたお酒の飲み方など、小さなことから始まる他文化への理解こそが、大きな仕事を達成するための、最初の一歩であると考えています。

その点では、宇宙ステーションへ参加している各極に、直接、訓練に行かせていただき、現地のインストラクターやエンジニア、宇宙飛行士たちと知り合いになれたのは、非常に良い経験となりました。

まだまだ宇宙飛行士として、JAXAの職員として力不足ですが、訓練や勉強を通して専門技術や知識を高めるだけでなく、さまざまな現場で色々な人に出会い、経験や知見を積み重ねていくこともまた、宇宙飛行士“修業”なのかと考えています。


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