JAXA宇宙飛行士活動レポート 2012年1月
最終更新日:2012年2月17日
JAXA宇宙飛行士の2012年1月の活動状況についてご紹介します。
若田、野口両宇宙飛行士、ロシアで船外活動訓練を実施
船外活動訓練前、GCTCのインストラクタと記念撮影する若田(左)、野口(右)両宇宙飛行士(出典:JAXA/GCTC)
船外活動訓練に備えて、訓練用のオーラン宇宙服を着用する若田宇宙飛行士(出典:JAXA/GCTC)
国際宇宙ステーション(ISS)の第38次/第39次長期滞在クルーである若田宇宙飛行士は、野口宇宙飛行士とともに、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)で、ロシアの船外活動に関わる訓練を行いました。
ISSにおいて実施される船外活動は、米国主導とロシア主導の2種類あります。米国の船外活動においては、船外活動クルーは船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit: EMU)を着用し、「クエスト」(エアロック)から船外に出ますが、ロシアの船外活動では、オーラン宇宙服を着用し、「ピアース」(ロシアのドッキング室)が船外への出入り口となります。
水の浮力で宇宙の無重量環境を模擬する巨大なプール施設を使用する訓練に先立ち、若田、野口両宇宙飛行士は、数日間にわたり、船外活動訓練の準備を行いました。若田、野口両宇宙飛行士は、訓練全体の流れや安全に関わる説明を受け、基本的な船外活動手順や、オーラン宇宙服の機能、船外活動で使用する工具などについて、GCTCのインストラクタの指導の下、確認しました。本番の訓練に備えて、プールを使用したスキューバ技術の実習も行いました。
訓練本番では、水中訓練用のオーラン宇宙服を着用し、ISSのロシアモジュールのモックアップ(実物大の訓練施設)が沈められているプールに潜り、船外活動で想定される作業内容を実施しました。
船外活動訓練を行う若田(中央右)、野口(中央左)両宇宙飛行士(出典:JAXA/GCTC)
若田、野口両宇宙飛行士は、ピアースのハッチを開けてISS船外に出る動作や、テザーで身体をISS船体につなぎながらハンドレールを伝って移動する動作、工具の運び方や使用方法など、船外活動で要求される基本的な動作について訓練を行いました。
その他に、緊急事態を想定した訓練も行い、船外活動クルーのパートナーが何らかの原因で動けなくなった場合に、ピアースまで連れ戻る方法や、ピアースでリーク(空気漏れ)が発生してエアロックとして使用できなくなった場合に、「ズヴェズダ」(ロシアのサービスモジュール)の移送区画をピアースの代替として利用するための手順についても実習しました。
若田宇宙飛行士は、船外活動訓練のほかに、ロシアモジュールとソユーズ宇宙船のシステムや運用についても訓練を行いました。ロシアモジュールについては、SUBAと呼ばれるズヴェズダのシステムの状態を監視・制御するシステムや、ドッキングシステム、火災検知消火システムについて復習しました。ソユーズ宇宙船については、機体構造や宇宙船に装備されている機器類全般に関する訓練、運動制御・航法システムについての講義とシミュレータ訓練を受けました。また、ISSで日常的に使用するロシアの衛生用品の使い方なども確認しました。ソユーズ宇宙船に関わる一部の訓練には、同時期にGCTCで訓練を行っていた金井宇宙飛行士も参加しました。
金井宇宙飛行士、ロシアでサバイバル訓練に参加
サバイバル訓練に参加した金井宇宙飛行士(右)ら3名(出典:JAXA/GCTC)
金井宇宙飛行士は、1月中旬からロシアを訪れ、ガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)にて、ロシアモジュールやソユーズ宇宙船に関わる訓練のほか、モスクワ郊外で、ロシアの宇宙飛行士候補者とカナダ宇宙庁(CSA)の宇宙飛行士とともに、サバイバル訓練を行いました。
サバイバル訓練は、氷点下を大幅に下回る極寒の中、2泊3日のスケジュールで、ソユーズ宇宙船が森林の中に不時着したことを想定して実施されました。この訓練は、ソユーズ宇宙船が予期しない場所に不時着した場合は捜索に2、3日要する可能性があるため、生還するための技術を身につけるとともに、そのような事態に陥った場合の精神的・肉体的ストレスを経験することが目的です。
発煙筒を焚いて救助隊にサインを送る金井宇宙飛行士(出典:JAXA/GCTC)
金井宇宙飛行士らは、通信機器を使用して救助隊と連絡を取りながら、救助を待つ間、帰還モジュールに搭載されている水、食糧、救急薬品、ラジオ、発炎筒、なた、マッチなどのサバイバルキットを駆使して、シェルタの設営や、暖を取るための火おこしなど、事前に習得した知識や技術を活かし、3日間の野外生活を送りました。訓練中には、クルー1名が足を骨折した設定で、その対処方法についても実習を行いました。
油井宇宙飛行士はロシア語没入訓練を開始
油井宇宙飛行士は、1月中旬から、ロシア語のコミュニケーション能力向上を目的とした、没入型のロシア語訓練を行っています。約1カ月半にわたり、油井宇宙飛行士はロシアに滞在し、ロシア語の文法や日常会話などの語学学習を行うとともに、ロシアでの生活や文化的活動などを通して、ロシア人の思考理論などを学びます。この訓練により、将来の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在において、ロシア人クルーとの円滑なコミュニケーションや共同作業に備えます。
古川宇宙飛行士がISS帰還後初めて帰国
古川宇宙飛行士は、国際宇宙ステーション(ISS)から帰還後、はじめて帰国し、日本各地でミッション報告会を行いました。
1月16日にJAXA主催で開催した、渋谷区文化総合センター大和田(東京都渋谷区)での報告会では、ISS長期滞在をともにしたNASAのマイケル・フォッサム宇宙飛行士、ロシアのセルゲイ・ヴォルコフ宇宙飛行士と一緒に出席し、ISS滞在中に撮影した映像や写真を交えながら、ミッションでの活動内容を報告しました。
地元の横浜市で開催された報告会の様子(出典:JAXA)
この報告会では、ミッションの報告のほかに、古川宇宙飛行士がISS滞在中に実施したJAXAが関係する実験のうち、医療に関わるライフサイエンス系などの3つの実験の研究者が登壇し、実験の概要とその成果を報告しました。古川宇宙飛行士ら3名の宇宙飛行士と研究者3名でのパネルディスカッションも行われ、古川宇宙飛行士は医師の視点を交えた意見を研究者らと交わしました。
そのほか、古川宇宙飛行士は、出身地である神奈川県の横浜市や、宮城県の仙台市でも報告会を行いました。
また、3名の宇宙飛行士は筑波宇宙センター(TKSC)も訪れ、今後のJAXA宇宙飛行士の長期滞在ミッションを、より実のあるものにするべく、関係者と長期滞在で得られたことや反省点を振り返るデブリーフィング(技術的な報告会)を行いました。
- 古川宇宙飛行士 長期滞在ミッション報告会開催レポート
- 東京都渋谷区で開催した報告会の開催レポートです。
星出宇宙飛行士が小型衛星放出機構の訓練を実施
小型衛星放出機構のプレス公開の様子(出典:JAXA)
記者会見を行う星出宇宙飛行士(出典:JAXA)
国際宇宙ステーション(ISS)の第32次/第33次長期滞在クルーである星出宇宙飛行士は、1月下旬に一時帰国し、「きぼう」日本実験棟の小型衛星放出機構に関わる訓練を筑波宇宙センター(TKSC)で実施しました。
星出宇宙飛行士は、ISS長期滞在中に、小型衛星放出機構の組立てや、小型衛星放出機構を「きぼう」船内実験室のエアロックからISS船外へ搬出する作業など、小型衛星放出技術実証ミッションに関わる作業を行う予定です。
1月25日、TKSCで打上げに向けた準備が進められている小型衛星放出機構のプレス公開が行われ、星出宇宙飛行士は集まった報道関係者を前に、小型衛星放出技術実証ミッションの概要や放出する小型衛星について解説しました。プレス公開後には記者会見を行い、ミッションに向けた現在の訓練状況の報告のほか、質疑応答では、ミッションに向けた抱負などを語りました。
- 星出宇宙飛行士による小型衛星放出機構プレス公開と記者会見を開催
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ロシア製の船外活動服を使用しての船外活動訓練は14年ぶりでしたが、ずいぶん機能が進化していることに驚きました。
ソユーズ宇宙船もそうですが、ロシアの宇宙開発技術はいつまでも変わらないようでいて実は最新のテクノロジーをスムーズに導入しています。
これからも常に最新の宇宙船技術に触れていきたいと思いました。