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スペシャルインタビュー 【槇村先生編】 vol.1


槇村准教授。トレードマークは帽子。祖父の遺言により外出時は常にかぶっている。


インタビュー風景

まず、なぜ宇宙でカビの実験をしようと思ったのですか。 宇宙ステーション(ISS)にカビって、とても意外な感じがしたんですが。

「ISSは、完全に制御されていて無菌状態のように思われるかもしれませんが、ヒトが快適に暮らせる環境を宇宙で再現したという意味で、ヒトだけでなくカビにとっても心地よい場所なんです。 そもそもヒトが生きている限り、カビとの関係を断ち切ることはできません。 宇宙でもカビの問題は必ず出てくるはずですから、あらかじめ基礎的なデータを蓄積しておいて、万一の場合には必要な対策が取れるようにしておこう、というのが第一の目的です」

新型インフルエンザが流行して、バイオハザードという言葉も一般的になりました。 宇宙だからこそ起こりうる事態というのは想定されていますか。

「実は、私がいちばん関心を持っているのはそこなんです。 通常、カビというのは、床とか浴室の隅っこの湿っぽいところに生えますよね。 それは、重力が作用しているからです。 ところが、ISS内は微小重力環境ですから上も下もありませんし、ほこりやゴミが下に落ちることもありません。 カビの胞子も同じで、空中をずうっと漂っているわけですから、宇宙飛行士が知らぬ間に吸い込んでしまうこともあるでしょう。 地上よりもカビの胞子に曝露する確率が高ければ、アレルギーや呼吸器の感染も起こりやすくなるだろうと考えられます」

真菌が引き起こす症状というと、水虫なんかを思い浮かべますが。

「水虫の原因である白癬菌はほとんどヒトの常在菌のようになっていますから、宇宙飛行士が持ち込んでいる可能性は高いと思います。 ここでちょっと考えてみてほしいのですが、なぜ水虫は足の裏にできるんでしょうか。 それは、地上では重力によって白癬菌が下に落ち、その落ちた菌を踏んで足が水虫になるからです。 では、重力がほとんどないISSではどうかというと、やはり白癬菌は宙を舞うことになります。 つまり、ISSには地上とは違ったカビとの関わり方、曝露のしかたがあるんですね。 それによって地上では例のない症状も生じるかもしれない。 これらは非常に興味深いテーマですね」

ISSという閉鎖的な空間で、宇宙飛行士がカビに曝露しているかと思うと、ちょっと怖い気がしますね。

「ええ。 でも、むやみに怖がる必要はないと思いますよ。 ISSでの生活は、重力や放射線によって地上よりはるかに大きい負荷がかかるだけでなく、行動が制限されるなど、宇宙飛行士の肉体的、精神的ストレスは相当なものだろうと予想されます。 当然、免疫力にも影響が出るでしょう。 にもかかわらず、少なくとも現在まで重篤な症例は報告されていない、ということから考えると、ヒトとカビはある程度まで共存できるのではないかと思います。 カビ、酵母、キノコなど、従来、日本人は上手に真菌を利用してきたわけですが、今後、私たちが宇宙で生活するにあたっても、彼らとのつき合い方を積極的な視点で考えていく必要があるのかな、と思っています」



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