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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【紀さんの宇宙あれこれ】 Vol.5 N1ロケットと最近の海外ロケットの動き
今回はN1ロケット、アメリカの民間企業が開発したファルコン9ロケットと宇宙船ドラゴンの予定でしたが、ファルコン9とドラゴンは次回にさせて頂きたいと思います。
理由は8月から9月にかけて、ロケット関係でバッドニュースとグッドニュースがたて続けにあったので、これらをまとめてタイムリーにお伝えしようと思ったからです。
バッドニュースは、前回お話したロシアのロケットも含め1週間の内に3回も打上げ失敗があったこと、グッドニュースはNASAが検討していたポストスペースシャトルの役割も担う次世代新大型ロケット構想や、米欧共同開発の新しい大型ロケットの発表があったことです。

前半は旧ソ連で開発されたN1ロケットのお話です。N1ロケットというと、日本の宇宙関係者が先ず頭に浮かぶのは、日本が実用衛星を打上げるために、アメリカからデルタロケットを基本に導入したN-Ⅰロケットになります。全長約33m、打上げ時重量約90トン、低軌道(LEO)に約1.2トンの打ち上げ能力でした。1975年9月9日種子島から技術試験衛星Ⅰ(ETS-Ⅰ:愛称きく)を打上げました。

打上げ直前のN-Ⅰロケット:NASDA(JAXA前身)時代の実用衛星打上げ第1世代ロケット、種子島射点 全長33m 直径2.4m
このN1ロケットはロシア語ではH1ですが、H-Ⅰというと、これまた日本にあって、N-Ⅰロケットを増強したN-Ⅱロケットを経て2段目に液酸・液水エンジンを搭載して国産化率を上げたH-Ⅰロケットで、1986年に初飛行しました。呼び名は偶然ですがややこしいですね。発音では区別が出来ませんが、書く場合はロシアはN1、H1とアルファベットと数字が続いており、日本はN-Ⅰ、H-Ⅰとアルファベットと数字の間にハイフンが入り、数字もローマ数字と違いますね。

さて話をN1ロケットに戻すと、1960年代米国でアポロ計画が進行中でしたが、西側諸国には極秘密裏に進められおり、一般には知られていませんでした。1960年以前にこの前も出てきたコロリョフの発案でミッションは有人惑星飛行、宇宙ステーション、大型軍事衛星打上げが出来る多目的超大型ロケットでした。いろいろとトレードオフの結果、1962年LEO打上げ能力75トンという当時としてはとてつもない能力を持つ超大型ロケットとしてスタートしました。
「こうのとり(HTV)」を打上げた日本のH-ⅡBロケットのLEO打上げ能力が、約17トンであることを考えると、その構想の大きさが想像できると思います。

旧ソ連N1ロケット:全長105m 最大径約17m:バイコヌール射場射点
サターンⅤロケット:打上げ 全長110m 最大径10m
旧ソ連N1ロケット:1段エンジン30基のノズル、右下の人物の大きさに注目
サターンロケット:第1段ロケットF-1エンジンの5基のノズル
当初は上段に液酸液水エンジンも計画されましたが見送られ、どこでもよくある既存技術の最大限活用が大前提で設計され、全段液酸ケロシンエンジンとなりました。

N1ロケットは、アメリカの有人月探査アポロ計画のサターンⅤロケットとよく比較され、5段ロケットとも言われますが、正確には3段ロケット部分のN1とソユーズ有人月飛行システムL3を合わせた(N1-L3)のことです。

当時の技術力と予算では大型エンジン開発は不可能だったので、N1は1段(ブロックA:NK-15エンジン24基とエンジン制御システム(KORDシステム)、2段(ブロックB:NK-15Vエンジン15基)、3段(ブロックV:NK-21エンジン4基)の構成です。L3は地球軌道から月軌道まで運ぶ4段(ブロックG:NK-19エンジン1基)と最終的に月面着陸する5段(ブロックD:RD-58エンジン1基)にLK着陸船とソユーズLOK母船から構成されていました。
1964年、アポロ計画と同じ月軌道ランデブー方式へ変更され、月探査部分(L3)の全重量が約93トンにもなったため、設計の大幅な変更が行われました。N1は打上げ能力95トンが要求されたため、推進力の不足を補うために第1段のエンジンは中心部に6基追加されて30基になったのです。

このことが前述したエンジン制御のKORD システムを複雑にし、失敗の一因になったと言われています。
N1-L3を担当していたコロリョフ設計局(OKB-1)は他にも、ウォストークからソユーズに至る一連の有人宇宙機、通信衛星、月探査機、スパイ衛星、R7ロケットの改良、R9大陸間弾道弾の開発など、多岐にわたるプロジェクトを進めており、コロリョフは多忙を極め指導管理が十分出来なかったとも言われています。

結局、1966年1月コロリョフがなくなった後、1号機が1969年2月21日発射後68秒、2号機が1969年7月3日発射直後、3号機が1971年6月27日52秒、4号機が1972年11月23日107秒と、4回とも1段ロケットの全燃焼時間125秒を達成せず爆発し失敗しました。特に2号機は発射台へ落下するというロケット開発史上最大の大事故でした。






トーラスⅡロケット:全長約40.5m 直径3.9m 中部大西洋地域宇宙基地(ワロップス島)
そして、1974年N1-L3計画は中止されましたが、改良型N1Fロケット用に開発されていた1段用NK-15、2段用NK-15Vが改良されたNK-33とNK-43は高性能なエンジンで、ロシアの時代になり残っていたエンジンと製造権を米国エアロジェット社が購入しAJ26-58、AJ 26-59と呼称を変え使われています。具体的にはオービタルサイエンス社がISSへ物資輸送宇宙船シグナス打上げ用に開発中のトーラスⅡロケットの1段ロケットに使われたり、ロシアの新しいロケットにも採用が検討されています。実は開発が中止になった日本のGXロケットの1段に使用する案もありました。

また、L3のブロックDはプロトンロケットや海上打上げロケットのゼニットロケットの上段に多く使われ、段階的にブロックDM,ブロックDM-2、ブロックDM-3と改良され現在に至っています。
N1ロケットの打上げは4回とも失敗し月への競争ではアメリカに負けましたが、その開発の中で培われた宇宙技術が現在に通じて生きている部分があるのは事実で、旧ソ連時代から蓄積されていたロシアの底力を感じさせられます。

後半は海外ロケットの最近の動向ですが、バッドニュースは2011年8月17日プロトンロケット、8月18日中国の長征2Cロケット、8月24日ロシアのソユーズロケットがロケット側の失敗で、それぞれミッションが達成できませんでした。
もちろんロケットは違うし、失敗の原因も違いますが1週間の内に3回も打上失敗があるのは珍しいことです。どのロケットでも油断せず常に信頼性を上げる努力が必要という警鐘で、我が国も他山の石とすべきと思います。
特にソユーズロケットは前回も触れたように約40年間に776回打上げられ745回成功しており、2000年からISSへ物資を輸送を始めて以来初の事故で、ISSの運用にも影響が出てくる可能性があります。現時点で原因究明は終わり打上げが再開されそうですが、再発防止を徹底して欲しいと思います。
なお、失敗ではありませんが8月28日、情報収集衛星「光学4号機」を打ち上げる日本のH-ⅡAロケット19号機は、ロケットが異常飛行した場合、地上からロケット破壊の指令電波を受ける「指令破壊受信機」の不具合で打上げ延期になり9月23日打ち上げられました。

さて、グッドニュースとは、新しい有人飛行用のロケット計画の発表が2つありました。ひとつめは、NASAが9月14日、スペースシャトルの後継ともなる次世代大型ロケット(SLS=Space Launch System)の開発計画を発表しました。

SLS:打上げ想像図
この新しい超大型ロケットの1段にはスペースシャトルの固体ロケットブースター(5セグメントSRB)やRS-25D/Eエンジンが再利用され、2段にはサターンⅤロケット第3段エンジンが改良されたJ-2Xエンジンが使用される予定となっています。
打上げ能力は初期は70トンですが、増強されると最大打ち上げ能力は130トンになり、アポロ計画のサターンVロケットを超える史上最強のロケットとなります。また、有人宇宙船はオリオンを見直した多目的有人宇宙船(MPCV)が搭載される予定で、国際宇宙ステーション(ISS)へのミッションのほか、小惑星や火星への有人探査ミッションなども検討されています。。
最初の無人打ち上げは2017年に予定されているが、問題はNASAの試算によると、それらを実現するためには、年間30億ドル必要とする開発予算の獲得ですね。

ふたつめは、「リバティ」という2段式ロケットで、アメリカの固体ロケットメーカーアライアントテクシステム(ATK)とヨーロッパのEADSアストリウムが共同開発するものです。第1段はスペースシャトルのSRBを増強した5セグメントSRB、第2段はアリアンⅤロケットの第1段液体ロケットで構成されます。

リバティロケット:全長約90m 直径5.4m スペースシャトルとアリアンⅤロケットの大きさとの比較に注目
「リバティ」は全長約91m、LEOへ約21トン打上げ能力を有し、1,2段とも実績があるので、2013年に試験飛行、2015年には運用可能と説明しています。ATK社はNASAと無償ですが技術説明に対応する契約を結んだと9月13日発表がありました。
今回は内容が技術的になり過ぎになってしまいましたが、N1の実態の一部や世界のロケットの動きを感じていただければ幸いです。
次回はファルコン9とドラゴン宇宙船の話をしたいと思います。(続)
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