子どもの頃の夢をお聞かせください。
「私は信州の田舎で育ちました。実家はリンゴ農家で,大自然にもまた身近な自然にも恵まれた環境でした。そんな中でいつしか,将来は自然を相手にする仕事,自然を守る仕事に就きたいと思うようになりました。当時のあこがれの職業は,国立公園レンジャーでした。山小屋を営む親戚がいたのも影響したのかも知れません」
大学ではどのような勉強をされたのでしょうか。また,現在の研究分野に興味をもったきっかけは。
「大学で理学部生物学科に入学した後も,自然を相手にできる生態学などの分野に対する興味は持ち続けました。しかし,いろいろと勉強するうちに,もっと生命のしくみやはたらきについて知りたいと思うようになり,生理学を専攻することにしました。対象としては,人間を含む動物を考えた時期もありましたが,結局,小さい頃からなじみ深かった植物に落ち着きました」
普段の生活の中でも植物や自然に接することが多いのでしょうか。
「選んだ道は自然を直接相手にするものではなくなってしまいましたが,暮らしの中ではできるだけ自然と接するようにしています。以前はよく山歩きを楽しみました。最近は,その機会はずいぶんと減ってしまいましたが,ふだんからビブラム底の靴を履き,出張先でも時間ができたら自然の中に入るようにしています。同時に,自然に対する畏敬の念を忘れないように,シンプルライフと自然環境に対するローインパクトを旨として暮らしています。例えば,今まで車や携帯電話を持ったことはありませんし,結婚後しばらくの間はテレビもありませんでした。見かねた研究室の神阪先生が余っていたテレビを持って来てくださいました」
シンプルライフとローインパクト,実践されているなんて素晴らしいですね。でも,宇宙実験というスケールの大きな仕事に取り組むにあたっては,文明の利器に頼らざるを得ない場面も多いのでは・・・
「宇宙実験となると,必ずしもこのような生き方,考え方を前提とするわけには行きません。1回の実験には多くの人の力と費用が必要であり,資源もエネルギーもつぎ込まなければなりません。また,STS-95実験の時はヒューストンでレンタカーを運転せざるを得ませんでしたし,Resist Wall実験中は常時連絡が取れるように携帯を持つように指示されて困っています。しかし,宇宙は,日頃の信条に一時的に目を瞑ってもチャレンジすべき偉大な存在だと思います。今回の宇宙実験によって大きな成果が得られることを願っています」
どうもありがとうございました。保尊先生の違った一面をうかがって,ますますResist Wall実験への興味がわいてきました。大きな成果を期待しています。
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