このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
 
JAXAトップページへ
 JAXAトップページへ宇宙ステーション・きぼう広報・情報センターサイトマップ
 
宇宙での研究

ライフサイエンス分野


宇宙環境を利用したライフサイエンスの特徴
 

重力は常に地球上に存在し、全ての生き物がその影響下に置かれており、重力の生命現象に対する本質的な役割を理解することは、地球上の動植物や人間の分化や発生、進化に関わる基本的な生理メカニズムについて全体的に理解していくことに大いに貢献することになります。

もし、人間が地球の重力から解放され、長期間宇宙に滞在したり、地球の重力とは異なる重力を有する他の惑星に旅することを考えた場合、重力がいかに生命体に影響しているのか、どのように生物は重力との関係において自己の位置を感知し、重力や重力変化、微小重力に適応していくのか、といった最も基本的な質問に答えていかなければならなりません。たとえ生体が重力変化に適応したとしても、地球に帰還した時の再適応に重大な生理学的問題が存在することも考えられます。

宇宙での長期滞在により、いくつかの生物的、医学的な問題が起きることは事実です。例えば、骨量減少や筋萎縮、免疫系の変化、赤血球の減少、心筋の虚弱化、そして長期間の閉鎖環境に起因した心理的な問題などがあります。いくつかの問題は、重力の基本的影響をより理解することで解決法を得ることができるでしょう。生体の様々な生理現象に重力がいかに影響しているかの研究は、また地球上における骨粗鬆症や平衡感覚機能障害などの医学的病態を解明する上で大いに役立つことが期待されています。



宇宙空間における生体変化
 

宇宙空間で、ヒトの体はどう変化するのでしょうか。ここでは宇宙飛行士に起きた生理的現象について簡単に解説します。

顔が膨らむ
 

重力の影響で血液などの体液は下半身へ引っ張られており、それに対抗して心臓は体にまんべんなく血液を供給するために働いていますが、微小重力環境下では重力による影響が取り除かれてしまうために血液が上半身に集中(体液移動)して顔がむくんだりする現象が発生します。

   
骨がもろくなり、筋肉も弱くなり、そして身長が高くなる
 

重力のある環境では、骨はカルシウムを貯蔵して強度を保持しようと、筋肉は姿勢を保つために働いています(抗重力筋)。しかしながら微小重力状態になると、体が宙に浮き、骨の負担が著しく小さくなるため骨を強くする必要がなくなりカルシウムが血中に溶け出し、尿として排泄されてしまいます。そのため骨はもろくなり地上における骨粗鬆症とよく似た状態になります。

また抗重力筋も弱くなり縮んでしまいます(筋萎縮)。また、夜寝る前の身長と朝起きたときの身長を比較すると朝の方が伸びているように、重力のない環境では、重力に対抗して身長を維持している背骨が伸びて身長が数センチも高くなってしまいます。

   
宇宙酔い
 

宇宙酔いとは、微小重力状態に入って数分から数時間以内に頭重感や倦怠感を伴った突発的な吐き気や嘔吐を起こす現象で、地上での乗り物酔いによく似た状態になることです。この宇宙酔いは数日で消失しますが、その原因については体液が頭部に移動するためとか、耳の奥にあって平衡感覚を維持している前庭系器官と視覚からの情報が地上とは異なるため脳の情報処理に混乱が生じるためなどと考えられています。



宇宙環境と生命
 

宇宙環境、特に微小重力の状態に置かれた生体の中では一体何が起きているのかを探求し地球上に存在する生物の発生、分化、形態形成そして進化のメカニズムを解明していこうとするのがライフサイエンス研究です。ここではどんなことを対象に、またどんなことに注目しておこなっているのかを簡単に解説します。

遺伝子発現の変化
 

宇宙環境にさらされることによって起こる遺伝子の発現の変化に注目して研究する分野です。多様な生物において重力の変化や宇宙飛行を要因としてどのような遺伝子の発現が強まったり、あるいは抑えられたりするのでしょうか?それらの遺伝子が作り出すタンパク質の性質や機能はなんなのでしょうか?遺伝子発現の操作によって、その表現型において重力変化の効果を無効にあるいは高めることができるのでしょうか?あるいはまた宇宙環境に適応するように生物を遺伝子工学的に改変することができるのでしょうか?こういった疑問に答えを見出そうと試みられています。

   
細胞の重力感受・応答機構
 

細胞に関しての大きな問題のひとつは、1個の細胞が重力を感じてそれに応答することができるのであろうか?ということです。もしできるのならば、いかにして、どう応答するのか?複雑な系の生物において個々の細胞がどのようにして重力の方向と力を感じるのでしょうか?重力を感じる細胞は、いかにして重力の受容器官から細胞内のシグナル伝達系に情報を伝えるのでしょうか?重力を感知する細胞と生理的な応答をする細胞との間でどのようにしてその情報のやりとりがおこなわれるのでしょうか?それには一体どのような酵素系や代謝系が働いているのでしょうか?と言った疑問に答えるための研究分野です。

   
生物の発生
 

組織や器官が形成されていく中で、多くの細胞間で情報の伝達や調節がおこなわれています。正常胚の発生段階において重力の変化や宇宙飛行に関連した因子による障害や制限、変異など重大な影響をうけるような、いわゆる「クリティカルステージ (臨界点)」が存在するのかどうか?存在するとするならば、正常な胚発生がどのように変異するのでしょうか?またどんな遺伝子や遺伝子産物、代謝変化が多系性や適応性の指標となるのでしょうか?など重力の変化が初期発生や形態形成にいかに影響するのかを明らかにしていく研究分野です。

   
比較生物学
 

ここでは、宇宙環境に対する応答の生物間比較、そして重力の変化やそのほかの宇宙環境に急性的あるいは慢性的にさらされた時の生理作用や代謝、成熟生物相の機能にどのような影響が現れてくるのか?また多様な生物相にあってどのような相違が見られてくるのか?と言ったことが中心的な課題になる分野です。



これまでに行われたライフサイエンスの宇宙実験
 

生物を使っての宇宙実験は、人間が宇宙飛行を始めるよりも前に開始されました。そのころの最大の関心は、"生物が宇宙飛行できるか?"、"宇宙環境が生物にどのような影響を与えるか?"であり、米国と当時のソ連は1960年代の初期から、各種の生物を宇宙船に載せました。その結果に基づいて米国はアポロ計画で人間の月往復を実施しました。その後、アポロ計画の延長として実施された「スカイラブ」計画では、人間の宇宙での長期滞在とその影響に焦点を当てた実験が行われました。この時点までの実験のねらいは「宇宙で生物はどんな影響をうけるか?」であり、「やってみる」実験が主体でした。

スペースシャトル・スペースラブの飛行が開始される頃になると、人間をはじめとする生物に対する宇宙環境の影響に関する知識がある程度蓄積され、仮説に基づいた実験の計画が可能になりました。スペースシャトルが飛行を開始したのが1981年でしたが、遺伝子の解析を中心とする「分子生物学」の手法が発展し始めたのもほぼ同じ時期でした。そして、分子生物学が宇宙ライフサイエンス実験に積極的に取り入れられるようになったのは90年代の後半になってからです。

宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)が宇宙実験を計画し始めたのは1979年であり、宇宙でのライフサイエンス実験が質的に変化し始める初期でしたが、実際の軌道実験が実施されたのは1992年が最初でした。それ以後に我が国が実施した実験の機会と実施されたテーマの領域およびこれまでの宇宙実験の結果の発表論文数などをミッションごとにまとめたものを以下に示します。

我が国が実施した実験の機会と実施されたテーマ
 

ミッション

分野

FMPT IML ミール スペースシャトル・ミール ニューロラブ STS-95 TR
放射線影響
-
-
細胞・分子
-
-
発生
-
-
-
-
植物
-
-
-
-
-
-
生理
-
-
-
-
行動
-
-
-
-
-
-
健康管理
-
-
-
-
-
バイオテクノロジー
-
-
-
-
   
これまでの宇宙実験の結果の発表論文、特許数
 
ミッション
論文数
特許数
論文
口頭
出願中
取得
FMPT
62
467
14
2
IML-1
3
12
0
0
IML-2
26
113
3
0
TR-IA
1
2
0
0
スペースシャトル・ミール#4
3
3
0
0
スペースシャトル・ミール#6
11
56
1
0
スペースシャトル・ミール#8
2
9
0
0
スペースシャトル・ミール#9
0
1
0
0
ミール
5
26
0
0
STS-95
10
29
0
0
合計
123
718
18
2


最終更新日:2003年10月1日

JAXAトップページへサイトポリシー