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毛利宇宙飛行士の質問への回答

 1999年6月から12月まで、皆様から毛利宇宙飛行士への質問を募集しました。
 毛利宇宙飛行士へのたくさんの御質問、どうもありがとうございました。
 皆様からの質問の中から以下の14問について毛利宇宙飛行士がお答えします。
Q1:任務以外のことでフライト中にやってみたいことは何ですか?
千葉県 男性(29歳)  他 2名の方
毛利:
 地球を見ることを楽しみたいと思います。 時間を惜しんで、地球を見て、色々なイメージを膨らませて、できるだけ多くの人にメッセージが伝えられるように、それが自分の一番の楽しみです。

Q2:宇宙空間で、寝てても、熟睡できるんですか?
愛媛県 女性(18歳)
毛利:
 無重力での休息は、地上よりも快適なのでよく眠れていたと思います。
 寝るときには寝袋を着用しますが、寝袋が触っている感じがあまりしないです。何も着けずに裸のまま、ふわーっと浮いている感覚です。

Q3:MSの資格をとって、PSの頃と比べてどんな点が異なりますか?
東京都 女性(22歳)
毛利:
 仕事の責任という意味ではPS(ペイロード・スペシャリスト)もMS(ミッション・スペシャリスト)も同じですが、少し広く物事が見られるようになりました。
 前回のSTS-47では、フライトデッキでは色々な物にさわるなと言われていましたが、今回は、シャトル全体のどのスイッチがどういうものかが判っています。実際に不具合が生じた時には、手順書に従って、どんどん直していかなければならないのです。シャトル全体がどういう状況下にあるかということを考え、自分も修理やシャトルの飛行に係わる仕事をしていくのだという意識があり、前回とは随分役割分担に違いがあります。

Q4:今回の飛行で行われるSRTMで使用されるレーダー機器の、伸展マストが折れると言うことは考えられますか?
千葉県 男性(12歳)
毛利:
 伸展すると60mにもなるマストは、乱暴に姿勢制御を行うと、しなって折れてしまう可能性があります。そこで、STS-99では姿勢制御の際、「フライキャスト・マヌーバ」と呼ばれる特殊な操作を行います。これは姿勢制御のジェットを一気に噴かさずに、いったん小さく噴いてその反動で少しマストが動いたところで今度は大きく噴いて,最後にマストの揺れを吸収するようにもう一度小さく噴く、という操作で、微妙なタイミングが求められます。コマンダーとパイロットはマストが折れることのないよう、シミュレータで何度もこの操作の訓練をしています。

Q5:毛利さんは、どこも体に異常はないのですか?健康のために何かしていますか?
兵庫県 男性(42歳)
毛利:
 スポーツは、スキー、野球、スケート、スキューバーダイビング、スカッシュ、エアロビクス等、なんでもやります。
 宇宙飛行士は心肺機能が非常に重要です。そのために定期的にジョギングと水泳をやって毎日の健康維持に努めています。

Q6:スペースシャトルで地球から宇宙に変わる瞬間はどういう感じでしたか?スペースシャトルからなんかみえましたか?
東京都 男性(15歳)
毛利:
 前回のミッションの際、おもしろい経験をしました。私の席の前にはロッカーが並んでいて、中には実験用具や食事の材料などが入っています。打上げの時にシャトルは直立しているので、クルーは背中を下に足を上にして座っています。つまりそのロッカーは自分の上にある、いわば天井という感じです。ところが、メインエンジンが止まった頃、たった1、2秒間ですーっと天井から壁になったような気がしました。もう無重力空間ですから原理的には上下という概念はないはずなんですが、それまで上にあったものが急に横になったという印象を受けたんです。その変わり方が、とてもおもしろかったです。

Q7:地球上のどのような場所に関心がありますか。
茨城県 男性(55歳)
毛利:
 写真をいろいろとチェックして観察する場所を調べています。例えば、7年前のアラル海と現在はどう違うのか。約2年前のシャトル飛行のときからロシア大陸にあるアラル海がだんだんと枯渇している様子を宇宙から観察しています。特に興味を持っているのは、東シナ海です。中国等は、その間、工業発展が進みました。あの当時でも、ずいぶん揚子江とか渤海のあたりが汚れていました。香港もそうですけど。7年前に比べるとさらにアジアの国々は経済発展していると思うので、その影響が7年前と比べてどう変化したか。あのときに痛烈に感じた色の違い。台湾もそう、あのあたりでとくに東シナ海側の台湾の西側に向かって、台中辺りが随分汚れていました。東側は太平洋にそのまま注いでいて海流が激しいので汚れは見えませんでした。台湾も随分工業化が進んでいるのでどうかなと。これらがアジアの興味です。
 それと、前回見られなかったのが万里の長城です。宇宙から見えるといわれていましたが、見えませんでした。本当に見えるのだろうかというのを双眼鏡できちんと調べて、それを探し当てたいと思っています。95年に、実際に万里の長城に行ったので、今度は実感を持って見れると思います。
 3次元のほうは、前回ヒマラヤ山脈を見たとき、カスピ海の屋根と言われているほど高く感じられなくて、意外と低いなと思いました。シャトル(このときは高度約300km)から見ると凹凸がわからない位でした。雪の白いところは、太陽が反射して随分光っているなという点は判りました。立体地図観測レーダーでは数字で判りますが、ヒマラヤ山脈の高さが肉眼でどのくらい認識できるかチェックしたいと思います。

Q8:スペースシャトルの、乗り心地は、どうですか?
富山県 男性(13歳)
毛利:
 打上げ時はバスが悪路を走る感じです。
 地球周回軌道に到達すれば、騒音も振動もほとんどなく飛行は大変静かです。
 静寂さがいちばんよくわかるのは飛行管制センターが交信を中断し、乗組員が眠っている睡眠時間中です。聞こえる音はキャビンの冷却ファンのブーンという音だけ。それ程静かです。

Q9:毛利さんが、宇宙空間から地球を見て初めていった言葉とか、思ったことはなんですか?
埼玉県 男性(15歳)
毛利:
 地球を見てみると、本当に青々としている。ほとんどが水の表面で大きな水球が浮かんでいる感じです。9月の北半球はとても雲が多くて、雲の合間から見える所はほとんどが水でした。どこを見ても地球はすごくきれいでした。宇宙は黒と白です。ところが地球を見ると青と白、赤茶けた所、人が住んでいるところは白っぽくて森林は少し灰色っぽい。モンゴルとか高度の高いところにある湖は緑色からコバルトブルー。いろんな色があってピカピカ光っていて、それはそれはきれいでした。

Q10:やっぱり飛行前は緊張しますか?
三重県 男性(17歳)
毛利:
 前回の飛行(STS-47)の時は、それほど緊張感は感じませんでした。
 というのも、何度も訓練してきたシミュレーションの通りだったからです。 シミュレーションと、皮膚感覚を持った実体験とは違いますよね。だけど信じられないほど緊張感はありませんでした。
 リラックスし、気持ちが高揚していたんです。与えられた任務を、ようやくこれから実行するんだと思うと、すごくうれしい気持ちでした。

Q11:宇宙飛行士になろうと思ってから、なんか特別なことをしましたか?
千葉県 男性(17歳)
毛利:
 小さいころから宇宙飛行士になりたいと漠然とは思っていましたが、当時は日本人になるすべはなかったのと、実験が好きだったので、宇宙飛行士になる前は、科学者の道を歩んでいました。
 そういう憧れを持っていましたから、1983年9月の日本人宇宙飛行士募集の記事を目にしたときには、すぐにこの応募に飛びつきました。
 選抜試験の英語面接や専門面接に備え、様々な質問を想定して準備をしました。
 また、当時水虫があると宇宙飛行士になれないという噂を聞いたので、毎日お酢に足をつけて水虫を治しました。歯医者に行って虫歯も治しました。
 後で判ったことですが、水虫があると宇宙飛行士になれない、ということはないようです。


Q12:宇宙に行っていない時は、何をしているのですか?
香川県 男性(12歳)
毛利:
 宇宙飛行士は次の飛行が未定の時でも、次に備えて毎日色々な訓練をして宇宙飛行士としての能力の維持と向上に努力しています。
 また、宇宙飛行士としての訓練や宇宙実験の経験などを日本が開発する国際宇宙ステーションの実験モジュール「きぼう」の開発・運用に活かすために、技術者の方々との打合わせを持ったり、機器、装置の検証試験に参加しています。

Q13:持参したい食べ物は?
茨城県 男性(30歳)
毛利:
 前回は色々持って行きましたが、今回はまだ特に考えていません。でも、カレーは持っていきます。くだものではリンゴが好きなのでリンゴも。日本特有のものは現在考えている最中です。前回は、乾燥したモチで水に戻すと、つきたてのようなモチになるものを持っていきました。食欲がないときはつるんと食べられたので今回も持って行こうと思います。松茸のお吸い物や梅干しも持って行きました。梅干しの良かった点は、帰還時には、水を飲み塩のタブレットを服用する*のですが、それでは味気ないので梅干しをかじっていました。今回も梅干しを持っていこうかなと思っています。

*:宇宙では血液量が少なくなっていますので、帰還に先立ち宇宙飛行士は大量の水分を飲んで、むりやり体を水分超過状態にし、血液の量を増やします。このようにすると再突入ののち、血液が下半身に移動して頭部へ回る血液が減少するためにおこる貧血の症状を防ぐ事ができます。


Q14:宇宙での生活に欲しいと思う設備は?
茨城県 男性(35歳)
毛利:
 歯を磨いた後、歯磨き粉をそのまま飲み込むのはいまだに得意ではありません。もっとおいしい歯磨き粉ができたり、歯を磨かずにガムをかむとそれでいいというものがあればいいですね。歯磨き粉は、タオルにも吐き出せますが、1日3枚(スポーツタオルのような長い物1枚、フェイスタオル2枚の計3枚)しかタオルが使えないので、難点があります。
 あと、ラーメンやそばを食べる装置があればいいですね。特に、宇宙ステーションでは、日本の宇宙飛行士はずるずると食べたいと思うんじゃないですかね。だからそういう装置があればいいと思います。


最終更新日:1999年 12月 20日

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