| 人体ファントムについて | 共同研究について |


人体ファントムについて


 STS-91で実施するNASDAの実験のひとつである人体ファントム(人体模型)を使用しての実験を担当している宇宙医学研究開発室の込山開発部員に、お話を伺いました。

人体フォントム

Q1.人体ファントムとはそもそもどのようなものなのでしょうか。
A1.簡単に云えば、放射線による人体内での被曝量を計測するための人形です。人体の手足以外の部分を模擬するもので、放射線に対して人体と等価な(平均の原子番号や原子密度が人体のそれに近い)プラスチックでできています。人体を輪切りにした構造で、35枚の板を重ね合わせて人体を形成します。それぞれの板には、被曝量を計測したい臓器に対応する位置に線量計(ドシメータ)を埋め込むことができるように、穴が開けてあります。線量計を埋め込んでから3つの部分にまとめ、不燃性材質の人体の形をした袋の中に収納し、服を着せたようにします。3つの部分を軌道上で組み立て人体の形にし、これをスペースシャトルの船内に設置します。帰還後線量計を取り出して評価することにより、人体各部が放射線により受けた被曝量を解析するのです。

Q2. 人体ファントムの重量とサイズはどのくらいですか。
A2. 重量は43kg、サイズは高さ99cm、幅40cm、厚さ23cmです。性別、年齢、体形等は特に考慮していません。

Q3. 人体ファントムを使ってどのような実験をするのですか。
A3. NASDAは15個の臓器に対応する位置に59個の線量計を埋め込み、各臓器に対する宇宙放射線の被曝量を計測します。より正確なデータを取得するために各臓器につき複数個の線量計で計測するため、59個もの線量計を使用するのです。

Q4. 15個の臓器の名称を教えて下さい。
A4. 脳、甲状腺、食道、肺、心臓、胃、肝臓、骨髄、脊椎、骨表面、直腸、膀胱、生殖腺、胸部皮膚、腹部皮膚です。


人体ファントム概念図

Q5. 何故このような実験が必要なのですか。
A5. 今年から建設がはじまる国際宇宙ステーション(ISS)が完成すると常時7名程度の宇宙飛行士がISSに滞在します。日本人の宇宙飛行士も数ヶ月に及ぶ長期滞在を行い、この間微小重力や、宇宙放射線等の環境が宇宙飛行士に対して与える影響は無視できません。宇宙開発事業団(NASDA)では、宇宙飛行士の健康管理の1つとして宇宙放射線に関する対策について検討しているところですが、そのためには宇宙放射線に対する被曝量をより正確に計測する技術の開発と、宇宙放射線についての基礎的なデータを蓄積することが必要なのです。

Q6. NASAとはどのような協力関係にあるのですか。
A6. 人体ファントムの本体はNASAが制作しました。NASDAは59個の線量計を埋め込みます。線量計は私たちが埋め込みました。NASAは別途400個の線量計を埋め込みます。実験結果の解析に当たってはデータを比較するなど、協力することになっています。

Q7. 線量計の数ですがNASDAの59個とNASAの400個では数に開きがありますね。研究方法が異なるのですか。
A7. NASDAの線量計は9種類の物質を組み合わせたものでできているため、1個で多くの種類のデータを得ることができます。そして注目した臓器の被曝量を計測することを目的としています。これに対しNASAの線量計は1種類の物質でできているため、1個で得られるデータの種類は限られています。しかし、多数の線量計を使用するため、人体全体についてのデータを得ることができます。

Q8. シャトルのどこに置いて実験するのですか。
A8. ペイロードベイ(貨物室)に搭載されたスペースハブ(実験室)の中です。スペースハブ内に設置されたラックのひとつにベルトで固定します。固定しないで漂わせておくほうが宇宙飛行士が活動している状況により近いのですが、他の作業の邪魔になってしまいます。また、NASAの放射線環境計測用の別の実験装置の近傍に固定しておくことで、データ解析の際、お互いのデータを比較しやすいという狙いもあります。

込山開発部員

Q9. 宇宙での放射線対策はどのようなものになるのでしょうか。
A9. 宇宙飛行士の宇宙放射線被曝による生涯のリスクが、地上で放射線関係の業務に従事している人々の放射線被曝によるリスクと同程度になるように管理することを検討中です。また、太陽フレア等で多量の放射線を浴びる可能性のある場合は宇宙ステーション内の被曝量の少ない場所に避難したり、最悪の場合には帰還船で地球に戻ることも考えています。避難場所として適する箇所については検討中です。


 STS-91の準備で大忙しの込山さん、NASAジョンソン宇宙センターのあるヒューストンから帰国されたばかりですが、またとんぼ返りされるとのこと。難しい事柄を笑顔を絶やさずに判りやすく説明していただきました。スケジュールの隙間を縫ってインタビューにお答えいただき、有り難うございました。


Last Updated : 1998. 5.27


| 人体ファントムについて | 共同研究について |