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ミッション進捗状況

飛行13日目 4月29日(米国中部夏時間)

実験の様子を見守る間野先生(右)
とエッグバーグ博士(左)
 本日、クルーは米国中部夏時間 4:29am(日本時間4月29日6:29pm、以下同様)に起床し、飛行13日目の作業が始まりました。

 自律神経系研究チームの実験は、ミッション期間中、初期、中期、後期の3回に分けて実施されますが、昨日と本日の後期実験では、自律神経系の応答に関する実験が行われました。この中の実験の一つとして、マイクロニューログラフィーという技術を用いた実験が行われました。マイクロニューログラフィーとは、膝の裏側の神経に電極を差し、脳から血管に送られる神経活動電位を直接測定するものです。今回は下半身陰圧負荷装置を使用し、体液を下半身に吸引することにより宇宙空間にいながら地球上で立っている状態と同様の状態を模擬しながら計測を行いました。

 また本日は、昨日と同様に、クルーは放射性同位体で指標化されたノルエピネフリンを血管内に投与し血液サンプルを取得しました。また、哺乳動物の発達研究チームの実験テーマの1つ、「神経−筋肉組織の発達における微小重力の影響」の実験を行いました。この実験では7匹の仔ラットに麻酔をかけ、蛍光の細胞染色剤が後脚の2種類の筋肉(地球上で体重を支えるための筋肉と瞬発的な動きに動員される筋肉)に注入されました。この染色剤は筋肉から神経繊維を経由して脊髄まで伝わり、これを分析することにより、微小重力下で哺乳類の筋肉が正常に発達するかどうか知ることができます。

 クルーは 8:09pm(4月30日10:09am)に就寝し、明日4月30日4:09am(4月30日6:09pm)頃に起床する予定です。

日本が関連しているニューロラブ実験の実施状況

 昨日に続いて、間野共同研究者が参加する実験、「無重量下における自律神経系の可塑性」がマイクロニューログラフィーを利用して行われました。
 ハイアMS(ミッションスペシャリスト)によって6回目の加振実験が行われました。この加振はガマアンコウの入っている水槽(フィッシュパッケージ:FP)を海水型水棲動物実験装置(VFEU)から引き出し手で動かすことで、ガマアンコウを活動させ神経電位信号を取得するために行われます。
 また、ハイアMSは、VFEUのデータ記録用テープ交換を行いました。この神経電位信号記録のためのテープ交換は毎日2回行われています。
 ガマアンコウの神経活動電位データは、引き続き取得されています。


宇宙で筋交感神経活動の記録に初めて成功

 ニューロラブの自律神経系に関する研究の一つが、マイクロニューログラフィーを使って人間の交感神経の働きを調べるものです。アメリカのD. L. Eckberg教授を含む4名の主任研究者と、アメリカ、ドイツ、日本の共同研究者の国際協力をもとに、この研究の準備が周到になされました。
 マイクロニューログラフィーは先端が約1ミクロンの細い金属の電極を人間の神経の中に刺して電気信号を測定する方法で、非常に熟練を要するテクニックです。向井千秋さんもこのテクニックを習得されました。ニューロラブでのマイクロニューログラフィーによる研究は、宇宙空間で出現する心循環系調節障害、とくに血圧の調節障害に自律神経の働きの変化がどのように関係するかを明らかにするためのものです。
 この目的のために、地上での宇宙飛行前と、飛行後に地上に帰還した状態でマイクロニューログラフィーの測定が行われます。さらに、宇宙飛行中の12日目と13日目にこの測定が行われます。しかし、地上でもこの方法を使って研究することは難しいのと、スペースシャトルの中にはいろいろな雑音源も多く、しかも地上におけるようなアース(接地)を設けることができませんので、はたして宇宙空間でマイクロニューログラフィーを使い得るものかどうか心配していました。
  4月28日と4月29日がこの測定日となり、4月28日にスペースシャトル・コロンビア号で飛行中の2人のペイロード・スペシャリスト、Dr. J. PawelczykとDr. J. Buckeyが各々実験者と被験者となりマイクロニューログラフィーによる測定が行われました。右下肢の腓骨神経という神経から血圧調節に重要な筋交感神経活動の記録がなされ、安静時の基礎活動と、さまざまな刺激に対する反応の測定が行われました。マイクロニューログラフィーを用いて宇宙で人間の交感神経活動を測定する初めての試みは大成功でした。心配されたような雑音の混入もなく、素晴らしい記録が得られました。
 測定結果につきましては、詳細なデータ解析をみてみないとはっきりしたことは申せませんが、予測と異なり安静時の筋交感神経活動は宇宙空間の微小重力下でもよく保たれていて、地上での飛行前の測定値よりもむしろ高いかもしれないという印象を受けました。バルサルバ試験(一種の息ごらえ)、掌握運動負荷、局所寒冷負荷、下半身陰圧負荷などに対する反応性も比較的よく保たれているようでした。
 いずれに致しましても、宇宙飛行中のスペースシャトルの中で宇宙飛行士からマイクロニューログラフィーによる筋交感神経活動の良好な記録ができましたことは、画期的なことと思われます。本研究の成果は宇宙飛行に関連する心循環調節障害の仕組みの解明と対策の確立に役立つものと期待されます。


Last Updated : 1998. 4.30


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