6. STS-87クルー(搭乗員)について

 

6.1 スペースシャトル宇宙飛行士の種類と役割

 宇宙飛行士の軌道上における任務は、各宇宙飛行士の役割により分類されています。今回のスペースシャトルの運用は、コマンダー、パイロット、搭乗運用技術者、搭乗科学技術者の宇宙飛行士たちにより実施されます。

・コマンダー(CMD:Commander ):

シャトル搭乗中の機体、乗員、ミッションの成功及び安全に関する最終責任を有し、またスペースシャトルの操縦を行う。

・パイロット(PLT:Pilot ):

スペースシャトルの操縦を行うと共にシャトルシステムの管理および運用を行う。

・搭乗運用技術者(MS:Mission Specialist):

シャトルのシステム運用を行い機内作業の調整を行うと共に、ロボットアーム操作、宇宙船外活動を行う。また割り合てられた実験運用も実施する。

・搭乗科学技術者(PS:Payload Specialist):

自然科学または生命科学、あるいはシャトルに搭載する実験装置の操作運用に精通した技術者であり、シャトル内の実験装置の操作、実験データの収集、解析、記録等を行う。

 

6.2 クルーの経歴


コマンダー(船長)
Kevin R. Kregel (ケビン R.クレーゲル)
NASA宇宙飛行士/米国空軍少佐
生年月日/出生地 1956年9月16日、ニューヨーク州アミティービル生まれ。41歳。
教育 米空軍アカデミーより宇宙工学学士号取得。トロイ州立大学より経営学修士号取得。
NASAでの経験 1990年よりNASAの航空宇宙技術者及びインストラクター・パイロットとしてヒューストンのエリントン空軍基地にてスペースシャトル着陸訓練機(Shuttle Training Aircraft: STA)の訓練指導及びT−38アビオニクス改良機の飛行試験に携わる。
 1992年にNASAに選ばれ、1年の訓練を経てパイロットとしてスペースシャトルに搭乗する資格を取得。1995年7月のSTS−70及び1996年6月のSTS−78にパイロットとして搭乗。
過去のミッション
(1997年9月現在)
STS-70、STS-78。

パイロット(操縦士)
Steven W. Lindsey (スティーブン・W・リンゼイ)
NASA宇宙飛行士/米国空軍少佐
生年月日/出生地 1960年8月24日、カリフォルニア州アーケーディア生まれ。37歳。
教育 米国空軍アカデミーより工学学士号取得。米国空軍工科大学より航空工学修士号取得。
NASAでの経験 1994年12月にNASAに選ばれ、1996年5月に宇宙飛行士となり、パイロットとしてスペースシャトルに搭乗する資格を有する。スペースシャトルの飛行用ソフトウエアの検証作業経験があり、現在は宇宙飛行士室の代表としてシャトルのコックピットのディスプレイシステムの改良にも携わっている。
過去のミッション
(1997年9月現在)
今回が初飛行となる。

ミッションスペシャリスト1(MS1)
Kalpana Chawla Ph. D. (カルパナ・チャウラ)
NASA宇宙飛行士
生年月日/出生地 1961年7月1日、インド カーナル市生まれ。36歳。
教育 プンジャブ工科大学(Punjab Engineering College)より航空工学学士号取得。テキサス大学より航空宇宙工学修士号取得。コロラド大学より航空宇宙工学博士号取得。
NASAでの経験 1994年12月にNASAに選ばれ、1995年3月より一年間の訓練を修了し、ミッションスペシャリストとしてスペースシャトルに搭乗の資格をもつ。現在は宇宙飛行士室の船外活動(EVA)/ロボティクスおよびコンピュータ部門で技術的事項を扱っている。
過去のミッション
(1997年9月現在)
今回が初飛行となる。

ミッションスペシャリスト2(MS2)
Winston E. Scott(ウェインストン E. スコット)
NASA宇宙飛行士/米国海軍大佐
生年月日/出生地 1950年8月5日、フロリダ州マイアミ生まれ。47歳。
教育 フロリダ州立大学(Florida State University)より音楽学士号取得。米国海軍大学院(U. S. Naval Postgraduate School )より航空工学修士号取得。
NASAでの経験 1992年にNASAに選ばれ、1年の訓練を経て、ミッションスペシャリストとしてスペースシャトルに搭乗する資格を取得。1996年1月のSTS-72ミッションにて若田MSとともに飛行し、宇宙ステーション用支援機器類の軌道上検証のための船外活動等を行った。
過去のミッション
(1997年9月現在)
STS-72。

ミッションスペシャリスト3(MS3)
土井隆雄( Takao Doi )
NASDA 有人宇宙活動推進室 搭乗部員
生年月日/出生地 1954年9月18日、東京都南多摩郡(現 町田市)生まれ。43歳。
教育 1978年3月、東京大学工学部航空学科卒。1983年11月、同大学大学院博士過程修了。1985年3月、文部省宇宙科学研究所研究生修了。1985年5月〜10月、NASAルイス研究センター研究員として研究に従事。
NASDAでの経験  1985年8月、宇宙開発事業団により第1次材料実験(「ふわっと’92」、米国NASAミッション名「スペースラブJ」)の搭乗科学技術者(PS)として、毛利 衛、向井千秋と共に選定される。
 同年11月、宇宙開発事業団に入社。1987年5月〜88年12月、米国コロラド大学ボルダー校大気理論および解析センターにて微小重力流体力学の研究に従事する。1990年4月、第1次材料実「ふわっと’92」のバックアップ搭乗科学技術者(PS)に任命され主にNASA施設で訓練に従事する。1992年9月12日〜20日に実施された「ふわっと’92」のバックアップPSとしてNASAマーシャル宇宙飛行センター(MSFC)で地上支援を実施した。1994年7月8日〜23日に実施された第2次国際微小重力実験室(IML-2)ミッションにおいては、「自然対流と拡散に対する重力加速度ゆらぎ(gジッタ)の影響」実験の共同研究者としてMSFCから地上支援を実施した。
 1995年3月から開始のNASA’95年MS基礎訓練コースに参加、1996年5月に同コースを修了し、宇宙開発事業団及びNASAからMSとして認定された。その後引き続き宇宙飛行士としての資質維持向上のためのNASA MS訓練に参加。
 1996年11月、NASAのスペースシャトルミッションSTS-87のMSに任命され、日本人宇宙飛行士としては初めて船外活動(EVA)を行うこととなった。
過去のミッション
(1997年9月現在)
今回が初飛行となる。

ペイロードスペシャリスト(PS)
Leonid Kadenyuk( レオニド・カデニューク)
ウクライナ国立科学アカデミー宇宙飛行士
生年月日/出生地 1951年1月28日 ウクライナChernovitsky市生まれ。46歳。
CIS/旧ソ連・
ウクライナでの
経験
1976年、ロシア宇宙飛行士に選ばれ、ソユーズ、ソユーズTM、ブラン、宇宙ステーション サリュート及びミール等のシステム訓練を経験
過去のミッション
(1997年9月現在)
今回が初飛行

 

6.3 MSの訓練内容

6.3.1 NASA MS訓練

 ミッションスペシャリストの訓練は、候補者(英語ではAstronaut Candidate で、略はASCAN)として参加する約一年間の基礎訓練、MS認定後ミッションに割り当てられるまでの待機期間中に参加するシステム運用訓練およびリフレッシャー訓練、ミッション割当後から打上げまでのミッション固有訓練とに分類されます。

a. 基礎訓練(MS候補者)

体力トレーニング、T-38ジェット機飛行訓練(講義、実飛行訓練および緊急時対応訓練として生理(低圧)訓練、サバイバル訓練、パラセイル訓練を含む)、一般教養訓練、スペースシャトルに関する訓練(基本訓練、基本運用手順訓練、システム訓練、個別システム訓練)、スキューバ訓練、KC-135 ジェット機弾道飛行による無重量体感訓練および開発/運用実務訓練などを指します。

b. システム運用訓練/リフレッシャー訓練(ミッション任命待機者)

システム運用訓練では、基礎訓練コースで培った知識・技能の維持・向上を図りつつ、水槽における船外活動(EVA)訓練およびシミュレータを用いたスペースシャトル飛行模擬訓練を行います。リフレッシャー訓練には、上記の知識・技能の維持・向上訓練が含まれます。

c. ミッション固有訓練(ミッション任命後のシャトル搭乗待機者)

ミッション訓練には、リフレッシャー訓練の他、ミッション固有の訓練として各ペイロードに関する講義、操作・運用訓練および割当ミッションの飛行タイムラインを模擬した飛行模擬総合訓練等が含まれます。なお、ミッション終了後は、次のミッション割当までリフレッシャー訓練を行います。

 

6.3.2 土井宇宙飛行士のMS訓練

 土井宇宙飛行士は、1995年3月からのNASAミッションスペシャリスト(MS)基礎訓練コースに参加し1996年5月まで宇宙飛行士基礎訓練に参加しました。

基礎訓練では、まず、最初の約1週間で、訓練の本拠地となるジョンソン宇宙センター(テキサス州ヒューストン)の見学、オリエンテーションが行われました。

引き続き第2週目からは、T-38ジェット練習機を用いた飛行訓練が行われ、この訓練では、T-38ジェット機への搭乗フライトの他に、T-38ジェット機システムの講義や、地上および海上でのサバイバル訓練、パラセイル訓練なども行われました。

また、それと併行して、スペースシャトル搭乗員として必要とされるスペースシャトルの各サブシステム(航法システム、推進系システム、環境制御・生命維持システムなど)の講義および各種シミュレータを用いた実習が行われました。

この他に、外部からの取材、記者会見などへの対応方法も教えるメディア訓練や、NASAの各フィールドセンター(ケネディ宇宙センター、ジェット推進研究所等)の視察、スキューバ/水泳訓練なども行われました。

以上の基礎訓練(宇宙飛行士候補者期間)を終了し、1996年5月にMSとして認定されました。

その後、ミッションに任命されるのを待つ間、スペースシャトルの各サブシステム訓練、T-38ジェット機訓練を継続すると共に、さらに高度な内容を含む以下のシステム運用訓練を行いました。

a. 飛行模擬訓練

この訓練は、シャトルのコックピットを模擬したシミュレータ(SMS:シャトル・ミッション・シミュレータ)に複数名の宇宙飛行士とともに搭乗し、実際のシャトルの打上げフェーズまたは帰還フェーズを模擬したシーケンスに従って、全システムの一連の操作手順や緊急手順等を修得する総合運用訓練です。

b. 船外活動訓練

船外活動(EVA)用の宇宙服を模擬した水中用宇宙服を着用して水槽の中に入り、シャトルのペイロードベイ(荷物室)などを模擬したモックアップ(実物大模型)を用いて通常時および緊急時の操作等の訓練を行います。

引き続き土井宇宙飛行士は、STS-87のMSに任命された1996年12月からシャトル搭乗までの約12カ月間にわたりミッション訓練に従事しています。

 

6.4 シャトル内の生活

(1)シャトル打上げ・着陸時の服装

スペースシャトルの打上げ・着陸時には、搭乗する宇宙飛行士は、ヘルメットの付いたオレンジ色(不時着時に遠くから発見しやすくする為)の飛行服(フライト・スーツ)を着用します。打上げ時には、搭乗員の中で操縦を担当する船長とパイロットは操縦席に座り、土井MSはウクライナ人のPSとミッドデッキに座り、その他2名のMSはフライドデッキの後部に座る予定です。なお、着陸時には、土井MSはフライトデッキの座席に座る予定です。飛行服の着用は打上げおよび着陸時のみで、飛行中の日常活動、実験等を行う際は、地上にいる場合と同じような服装、たとえば柔軟性のあるポロシャツとズボンなどを着用します。

(2)飛行中のクルーの活動場所

スペースシャトルのオービタ(コロンビア号)は、宇宙飛行士が活動がする次の2つの部分から構成されています。

フライト・デッキ:シャトルの操縦席。シャトルの操縦、宇宙空間での姿勢制御の他、オービタ全体のシステムコントロールと共に、地上との通信が行われます。また、宇宙および地球の観測もここで行われます。

ミッド・デッキ:食事、睡眠など宇宙飛行士の日常生活の場所。食事は引出しテーブルの付いたギャリーで取り、睡眠は壁に取り付けられた寝袋で行います。ミッド・デッキでは、各種の作業打合せおよびミッドデッキ実験が行われます。

(3)シャトル内での作業

STS-87ミッションでは、毛利宇宙飛行士・向井宇宙飛行士のミッションとは異なり、クルーが全員同じ時間帯に仕事をし就寝する、シングルシフトで生活します。

睡眠時間はおよそ8時間で、その前後の2時間半から3時間で食事、オービタの各システムの点検、就寝前のチェックなどを行い、USMP-4、SPARTAN201 、船外活動などミッション固有の作業には、1日10時間から10時間半程度の時間が当てられます。

(4)シャトル内での食事・トイレ

飛行中のスペースシャトルの食事としては、様々なメニューが考えられており、それらの中には、レトルトやフリーズドライ(凍結乾燥)食品、罐詰、果物等、数多くの種類が含まれています。選定に当たっては、もちろん宇宙飛行士の好みも考慮されますが、無重量状況で飛散しないことや、刺激の強い液体などを含まないことが、宇宙食の条件です。

シャトルのトイレはミッド・デッキの後方にあり、吸引式の便座を備えています。扉を閉めることができるので、トイレはスリープステーション(睡眠用の小さな個室)と共に飛行中の搭乗員にとってシャトル内で完全なプライバシーを保てる唯一の場所となります。