1.2.2 ペイロード(搭載機器)

(1)第4次米国微小重力実験ペイロード(USMP−4)/軌道上加速度研究実験(OARE)

 USMP(United States Microgravity Payload)は、NASAのマーシャル宇宙飛行センターが実施しているシャトルのペイロードベイ(貨物室)を利用して行われる材料科学分野の微小重力実験であり、今回が4回目のフライトです。(図1-8参照)

 

図1-8 USMP-4ペイロード

 

 

・地上及び軌道上での材料凝固実験(MEPHISTO)

 MEPHISTO(Material Pour l'Etude des Phenomenes Interessant la Solidification sur Terra et en Orbit )プログラムは、アメリカ航空宇宙局(NASA)、フランス国立宇宙機関(CNES)及びフランス原子力委員会(CEA)の共同プログラムであり、地上及び微小重力環境下における材料の凝固について研究が進められています。

 材料の凝固において、地上では対流が影響するため、拡散輸送過程の評価は困難です。しかしながら、微小重力環境下では、重力に起因する沈降、浮力対流が大幅に低減し、重力の影響を低減することが可能であり、地上と微小重力環境下で実施された実験結果の比較により、対流の影響を定量的に評価することが可能となります。

 

・等温樹枝状結晶成長実験(IDGE)

 IDGE(Isothermal Dendritic Growth Experiment )は、微小重力環境における流体の樹枝状結晶成長を観察する実験です。IDGEは、USMP-2とUSMP-3でも実施されており、スクシノニトリル(SCN )の樹枝状結晶を観察し、樹枝状結晶理論構築のために必要な基礎データ取得に貢献しました。(樹枝状結晶成長:溶融金属が凝固する際、雪の結晶が生成するのと同様に樹木の枝の形に生成する結晶)

 今回のUSMP-4においても引き続き、同様の実験が行われる予定であり、樹枝状結晶に対する理解をより深めるためのデータ取得が期待されています。IDGEの実施機関はNASAルイス研究センターです。

 

・次世代自動型方向性凝固炉(AADSF )

 半導体の材料において、物理的な欠陥や化学的な不均質性は、重力に起因する対流や沈降によるところが大きく、従って、微小重力環境下における半導体結晶成長実験を行うことにより、結晶成長のメカニズムを正確に知ることができます。

 AADSF(Advanced Automated Directional Solidification Furnace )を利用した材料凝固実験は、既にUSMP-2及びUSMP-3でも実施されており、赤外線探知機やレーザ発信器に使われている鉛錫テルル(PbSnTe)の方向性凝固の様子を観察しました。今回のUSMP-4では、更に詳細なデータの取得を行います。AADSF の実施機関はマーシャル宇宙飛行センターです。

 

・封入ヘリウム実験(CHeX)

 CHeX(Confined Helium Experiment )は、クロスオーバー現象に関する理論を検証するための物理実験です。クロスオーバー現象は、物質が3次元的な現象が顕著となる状態から2次元的な現象が顕著となる状態へ移行する際、その境界で観察される現象であり、凝縮物質の分野における重要な研究課題となっています。本実験は、スタンフォード大学、ジェット推進研究所(JPL )、NASAの協力により実施されます。

 

・宇宙加速度計測システム(SAMS)

 SAMS(Space Acceleration Measurement System)は、NASAルイス研究センターにより開発されました。SAMS開発の主な目的は、微小重力科学分野の研究において、広く一般に使用することのできる加速度計測記録システムを提供することです。SAMSには、同時に3つの実験システムの重力加速度を計測・記録し、調整する機能があります。

 

・軌道上加速度研究実験(OARE)

 OARE(Orbital Acceleration Research Experiment )は、NASAの微小重力環境計測解析プロジェクト(MMAP)が実施する実験であり、軌道上におけるスペースシャトルの線形加速度を計測します。軌道上での滞在期間中、できるだけ長期間にわたり、低周波加速度並びに外乱を記録します。

 本実験で取得したデータは、軌道上のG特性の解明に用いられ、微小重力実験を良好にするために利用されます。

 

・関連する過去のミッション

 米国微小重力実験ペイロード(USMP)ミッションは過去に3度実施されており、今回のSTS−87で4回目となります。表1-7 に、過去のUSMPの概要を示します。

 

表1-7 過去のUSMP

 

(2)第4次スパルタン201 (SPARTAN 201-4)

 スパルタン(SPARTAN:Shuttle-Pointed Autonomous Research Tool for Astronomy)201 ミッションの主な目的は、コロナに起因する太陽風の観測や温度測定等です。スパルタン201 ミッション(図1-9参照)では、再利用可能なフリーフライヤであるスパルタン衛星を利用し、太陽物理現象の観測を実施します。スパルタン201 の基本性能として、太陽を取り巻くガスやコロナ外層の温度(106K以上)を計測することができます。

 これまでにスパルタン201 ミッションは3回(STS−56,64,69)実施され、コロナ観測や太陽撮影等に実績を上げています。

図1-9 スパルタン201-4 ペイロード搭載図

 

・紫外線コロナ分光器(UVCS :Ultraviolet Coronal Spectrometer)

 コロナの紫外域スペクトルを観測するために使用される機器を用いてコロナ観測を行います。

 

・白色光コロナグラフ(WLC:White Light Coronagraph)

 コロナの発する白色光を観測する機器でコロナ層の電子密度を観測します。

 

・スパルタン改良実験(TEXAS :Technology Experiment Augumenting SPARTAN)

 S-band通信を介して、白色光コロナグラフの撮影映像のリアルタイム・ダウンリンク、白色光コロナグラフへのコマンド等のアップリンクを試験的に実施します。

 

・ビデオ誘導センサ実験(VGS : Video Guidance Sensor)

 自動ドッキングシステム開発のため、距離・高度測定システムの試験を実施します。

 

・関連する過去のミッション

 スパルタンミッションにおいては、太陽観測を行うスパルタン201 シリーズのみならず、様々な実験・観測が過去に実施されています。表1-8 にスパルタンのミッション事例を示します。

 

表1-8 過去のスパルタンミッション

 

(3)ウクライナとの共同実験(CUE:Collaborative Ukrainian Experiment)

 1995年5月、アメリカ合衆国とウクライナ共和国の大統領は、アメリカ航空宇宙局(NASA)とウクライナ国立宇宙機関(NSAU:National Space Agency of Ukraine )が協力してスペースシャトル・ミッションを実施するとの共同声明を発表しました。この声明を受け、STS−87にウクライナの宇宙飛行士がシャトルに搭乗し、アメリカの宇宙飛行士と共同で植物の成長に関する実験を行うことになりました。

       

 本ミッションは、以下に述べる11種類の実験から構成されます。各実験は、成長の早い宇宙植物(Astro Plants)として知られるアブラナ属Rapa(Brassica Rapa )等を用いて、環境制御可能な植物育成装置中で実施されます。

 

 また併行して、地上においても、ウィスコンシン大学とウクライナ科学アカデミーの教師と学生が、ウクライナの宇宙飛行士と連絡を取り合いながらアブラナ属Rapa(図1-10 参照)の育成を行います。宇宙と地上での育成結果の比較により、植物育成に対する重力の影響やアブラナ属Rapaにとっての標準環境等について考察します。

 

 ・実験の概要(出典 http://atlas.ksc.nasa.gov/education/general/cue.htm)

(a)微小重力環境が受粉に及ぼす影響(B-STIC)

(b)重力変化が光合成に及ぼす影響(B-PAC )

(c)宇宙環境がアブラナ属Rapaのアミノ酸量に及ぼす影響(AMINO )

(d)宇宙環境がアブラナ属Rapaの植物ホルモン量に及ぼす影響(PHYTO )

(e)宇宙環境がアブラナ属Rapaの脂質量に及ぼす影響(LIPID )

  ((c)〜(e)は一連の実験として扱われます。)

(f)宇宙環境がアブラナ属Rapa及び大豆の遺伝子蛋白質合成に及ぼす影響(GENEX )

(g)重力がBrassica Rapa の根細胞に及ぼす影響(ROOTS )

(h)大豆の成長と代謝における微小重力環境とエチレンの相互作用(SOYMET)

(i)大豆組織中の炭水化物量と病気発生の関係に対する微小重力の影響(SOYPAT)

(j)コケの分化と向光性に対する微小重力環境の影響(SPM-A )

(k)コケの原系体(Protonemata )超微細構造に対する微小重力と赤色光の影響

  (SPM-B )

図1-10 アブラナ属Rapa

 

(4)ゲット・アウェイ・スペシャル(GAS)

 ペイロードをスペースシャトルに搭載する際、ヒッチハイカ大型のペイロード(約2t以上)は、通常ペイロードベイの側壁及び底面に固定されます。しかし、小型のペイロードに関しては、GAS キャニスタ等の小型キャリアが用意されています。

 

・GAS (Get Away Special)

 GAS キャニスタは、直径50cm×長さ約70cmのドラム缶状密閉容器であり、最大約90kgのペイロードを格納できます。GAS ペイロードは電力供給及びデータ記録は自ら装備する必要があります。GAS に対する搭乗員のアクティビティは、ON/OFF等の最大6個までのコマンド投入のみです。GAS キャニスタへの搭載料金は、比較的安価になっており、約$8,000 〜 約$27,000で利用できます。

 今回のフライトでは以下の2つのGASが搭載されています。

  ・乱流拡散炎実験(TGDF)

  ・ゲット・アウェイ・スペシャル-036(G-036 )

・ヒッチハイカ (Hitchhiker )

 ヒッチハイカは、GASキャニスタにシャトルからの電力供給機能、地上及びクルーからのコマンド機能、データのダウンリンク機能を追加したものであり、GASより広範囲な実験が可能です。

 今回のフライトでは以下の3つのヒッチハイカが搭載されます。

  ・スペースシャトルによる地球リム(地球の輪郭)のオゾン観測実験(SOLSE )

  ・ループ・ヒートパイプ(LHP )

  ・ナトリウム・硫黄バッテリ実験(NaSBE )

 

(5)ミッドデッキ・グローブボックス(MGBX : Middeck Glovebox )

 細かい操作を必要とする宇宙実験は、ミッドデッキやスペースラブ等の与圧域内において搭乗員が実験操作を行うことになりますが、試料が有害な物質である場合、または有害物質を発生する場合は、与圧域内で実験を行うことは非常に危険です。危険を伴う実験を、与圧域内において搭乗員が安全に処理できるようにするために開発された装置が、グローブボックスです。

 グローブボックスを使用することにより、搭乗員は、従来は危険で実施できなかった燃焼実験等の実験操作を船内で扱うことができるようになりました。グローブボックスは、ミッドデッキの空気とは完全に隔離されており、内部の圧力は絶えず外部よりも低い圧力に保たれており、グローブボックス内の気体が外に漏れないようになっています。また、グローブボックスには、ビデオカメラ等が取り付けられており、実験の様子を撮影することもできます。今回のフライトでは、以下の3つの実験を行います。

 ・不混和液体の濡れ特性観察実験(WCI)

 不混和な材料のモデル材料としての試料(サクシノニトル及びグリセリンの混合物)を約90℃まで加熱し、融解したのち冷却し、その過程を顕微鏡で観察する。

 ・容器内層流炎観察実験(ELF)

 メタンを燃焼させ、気流を変化させながら炎を観察する。

 ・凝固界面での粒子取込・吐出観察実験(PEP)

 試料(モデル材料であるビフェニル及びガラズビーズ等を使用)を約120℃まで加熱し、固液界面(固体から液体、または液体から固体への相変化を起す際の液体と固体の境界のこと)を観察する。

  

図1-11 STS-87 ペイロードベイペイロードの搭載場所