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コロンビア号事故調査報告 Volume I(速報版)
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2003年8月26日午後11時(日本時間)
2003年2月1日のスペースシャトルコロンビア号とその7人のクルーの喪失についてのコロンビア事故調査委員会(CAIB)の独立調査はほぼ7ヶ月にも及び、13名の委員と、約120名の委員会の調査員、そして何千ものNASA職員とその支援要員が関わって来た。 調査結果と、勧告は関連する章に書かれており、全勧告は第11章にまとめられている。 ボリューム1は、事故;なぜ事故は起きたのか;将来に向けて;各種付録の4部構成となっている。この事故の背景を見るために、パート1、2は歴史から始まり、その後で事故が説明され、解析され、調査結果と勧告へと続く。パート3は、我々の宇宙への旅を改善するために何が必要なのかという委員会の見解を含んでいる。パート4は参考資料である。更に、この最初のボリュームに加え、以降のボリュームにはコロンビア事故調査委員会とNASAによって作成された技術報告書と、参考文書とその他関連資料を含んでいる。
1章は、チャレンジャー号事故以前のスペースシャトルプログラムの歴史に関連したものである。アポロの月探索プログラムの終わりが迫り、NASAは同様に野心的(かつ費用のかかる)宇宙探索プログラムへの承認を得ようとして、失敗した。提案されたプログラムの殆どは地球低軌道上の宇宙ステーションからはじまり、地球軌道上から安全に発着できる、信頼性があり、経済的なミディアムリフト機体(medium-lift
vehicle)を含むものだった。 2章では、コロンビア号の最後のフライトを記したものである。事故の単純な記録として、ここには調査結果も勧告も含まれていない。STS-107と識別されたこのフライトは、スペースシャトルプログラムとしては113回目、そしてコロンビア号としては28回目のフライトであった。このフライトは、ほぼ問題の無いものだった。不幸な事に、コロンビアの搭乗員も、ミッションコントロールのエンジニアも、上昇中の断熱材の衝突により、ミッションが窮地に陥っているという徴候を発見できなかった。ミッションマネージメントはオービタに問題が起こっているという微弱なシグナルを検知し、是正措置を取る事に失敗したのだ。 コロンビア号は最初の宇宙飛行可能なオービタであり、コロンビア号により、スペースシャトルの最初の4回の軌道テスト飛行が行われた。この種のものではコロンビア号が最初のものであったため、コロンビア号は、チャレンジャー、ディスカバリー、アトランティスやエンデバーといったオービタとは少し異なっていた。初期の技術基準に沿って作られたものであったため、コロンビア号は少し重く、国際宇宙ステーション(ISS)の高軌道傾斜角に到達することは出来たが、ペイロードの搭載能力が不十分なため、コロンビア号はISSのミッション用には費用効率が悪かった。そのため、コロンビア号にはISSのドッキングシステムが装備されていなかった関係で、ペイロードベイにスペースラブや、スペースハブのような科学モジュールのような長目の貨物のためのスペースを有していた。結果として、コロンビア号は全般的に科学ミッション飛行を行い、ハッブル宇宙望遠鏡のサービスミッションを実施した。 STS-107は激務の科学ミッションであり、7人の搭乗員が2チームに分かれて24時間態勢のシフトを可能にしていた。この大規模の科学貨物と、その追加した電源に追加点検時間を要したため、打ち上げ準備シーケンスとカウントダウンは通常よりも24時間程長いものだった。それにもかかわらず、カウントダウンは計画通り進められ、米国東部標準時間2003年1月16日、午前10時39分(日本時間2003年1月17日、午前0時39分)に、コロンビア号は39-A発射台から打ち上げられた。 打ち上げ81.7秒後、スペースシャトルが高度65,600フィート(約20,000m)に差し掛かり、マッハ2.46(時速1,650マイル、時速2,655キロ)で飛行している時、手作業で取り付けられた断熱材の大きな破片がオービタと外部燃料タンクの接続部からはがれ、81.9秒後に、コロンビア号の左翼前縁に衝突した。 大気圏再突入のための軌道からの離脱噴射によるコロンビア号の速度の低下は通常通りであり、再突入時の飛行プロファイルは標準通りだった。再突入の時間は高度400,000フィートでオービタが大気の影響を感じはじめる「再突入インターフェース」から秒単位で計測された。STS-107の再突入インターフェースは2月1日の午前8時44分09秒に起こった。データはジョンソン宇宙センターのミッションコントロールに伝達される代わりに、オービタに記録され、保存されていて、搭乗員も地上職員も知らずに、最初の異常な徴候が再突入インターフェースの270秒後に起こった。2章ではコロンビア号とその搭乗員の喪失へと続く事象を詳細に再現し、付録の更なる詳細に言及している。 3章では、委員会は全ての情報を解析し、コロンビア号とその乗組員の喪失に至る一連の事象を誘発した直接的な物理現象を上昇中に生じた断熱材(foam)衝突と結論づけた。この章では5つの解析的観点(空気力学、熱力学、センサ・データのタイムライン、デブリ再構築、画像的証拠)からレビューを行い、5つとも同じ結論が導き出されることを示す。その後委員会によって行われた衝突試験についても論じる。 結論として、コロンビア号は左翼前縁部のRCCパネル8近辺に亀裂が入った状態で大気圏に再突入した。上昇中の断熱材衝突によってできたこの亀裂によって、過熱空気(おそらく華氏5,000度以上)がRCCパネルの裏の隙間に侵入した。亀裂は広がり、このために翼前縁部の支持構造を保護する断熱部(insulation)が破壊され、過熱された空気が最終的に薄いアルミ製の翼桁(wing spar)を溶解させた。過熱空気は内部に侵入すると左翼を破壊し始めた。翼内部の何百ものセンサのデータや飛行制御システムの反応や空気力の変化の解析結果をもとに、この破壊の過程を再現した。 アマチュアのビデオ映像を見ると、2月1日の夜明け前、コロンビア号が再突入インターフェイスから555秒後にカリフォルニア沿岸上空を通過した時には、すでにオービタの一部が剥離し始めていた。オービタがアメリカ西部を短時間で通過した姿はそのほとんどがビデオテープに収められている。委員会はビデオに映った事象と再突入中に記録されたセンサ・データを関連付けた。解析結果によれば、コロンビア号は予定された飛行プロフィールを飛び続けたが、この時、コロンビア号の制御システムは(乗組員や地上にいるスタッフにまだ知られることなく)この飛行プロフィールを維持しようと必死で作動していたのだ。そしてテキサス州ダラス・フォートワース南西の上空で、壊滅的破壊を受けた左翼が大気圏のより密なレベルの空気力に耐えられず、ついに機体がコントロールを失い時速1万マイルを超える速度で墜落した。 この章では、オービタの38%(約8万4千個)の回収、また、デブリ(破片)の再構築と解析の詳細について触れる。また、将来より安全なスペースシャトル運行を可能にするための所見や勧告を提示する。 4章では、事故発生に加担した可能性のある他の物理的要因について調査する。まず「故障の木解析(Fault Tree Analysis: FTA)」の方法論から始める。故障の木解析という工学上のツールを使って考えられるあらゆる故障を発見し、実際にその故障が問題のシステム破損を引き起こしたかどうか調べる。コロンビア号事故では故障の木の中の、合計3,000以上の独立した事象が調査の対象となった。 また委員会は、起こりうる可能性の高い故障シナリオの解析を何件か行った。宇宙天候(space weather)の影響、流星塵あるいは「宇宙ゴミ」との衝突、故意のダメージ、搭乗員の能力、スペースシャトルの重要なハードウェアの故障などである。4章で委員会は、故障の木の事象の中には反証不可能で結論が出ていない未決事項(open)があるものの、いずれも事故原因または事故原因に加担していなかった、と結論づけた。この章にはスペースシャトルの運行をより安全にするための所見や勧告も含まれる。
パート2「なぜ事故は起きたのか」では、NASAの組織的、歴史的、文化的な要因とともに、これらの要因がどのように事故に寄与したかを検討する。 パート1と同様に、パート2でも歴史から始める。5章ではチャレンジャー号後のNASAの歴史と有人宇宙飛行プログラムについて検討する。チャレンジャー号の調査勧告の中の関係する部分が紹介され、続いて、有人宇宙飛行を支援するためにいかに国家が献身したかを示すためにNASAの予算を概観し、そしてNASAの予算内でどのようにスペースシャトルプログラムが運用されたかを見る。次に、経営管理システムの変化や配置のような組織的、経営管理側の歴史が概観される。 6章では、後の章で分析される事柄を確かにするために、コロンビア号に関わる経営管理能力を記録する。この章は、スペースシャトルプログラムの管理者がオービタの熱防護システムへの度重なる衝撃による危険性をどのように正当化したかを判断するために、オービタへの断熱材の衝撃の歴史の概観から始まる。次に、プログラムが主として国際宇宙ステーション(ISS)を完成させるために課した要求に追われ、予定通りに進められるよう厳しい圧力にあったことを説明する。 7章で、委員会は、断熱材だけでなくNASAの組織的文化がこの事故に大きく関わったとの見方を示す。安全性の歴史、組織論、最良のビジネス手法、現在の安全性の破綻を考察することによって、報告書はNASAの組織的文化への大幅な構造変革のみが成功へと導くと記している。 この章では、この組織的状況に対するスペースシャトルプログラムの実践を評価し、その欠点を探し出している。委員会は、NASAの現在の組織が効果的な監査やバランスを提供せず、自立した安全プログラムを持っておらず、学習機能の特色を発揮していないと結論を下している。7章は組織的文化に対する修正の勧告を与えている。 パート2の最後の章である8章では、以前の歴史、予算、文化、組織、そして安全実践に関する章から結論を引き出し、これら全ての要因がいかにしてこの事故に寄与したかを分析する。この章では「チャレンジャー号の影響」から始まり、二つの事故を比較する。この章では、スペースシャトルの運用において安全性の余裕を向上させるために経営管理側を変革する必要性があるとの委員会の見方を記録し、これらの変化なくして他の「修正行為」がスペースシャトル運用の安全性を改善するという確信はないという委員会の立場を再確認する。私たちが勧告する変化は達成することが難しく、そして内部で抵抗されるであろうと考えられる。
パート3では、宇宙飛行の再開のために必要なことに関する調査委員会の結論を要約している。さらに、事故に関係はないが、記録すべき重要な所見、および委員会による勧告の要約を示している。 9章では、委員会はまず短期的な勧告を述べている。フライト再開(Return To Flight: RTF)に向けたこれらの勧告は、コロンビア号の事故によって確認された問題の解決のために最低限行う必要のある事項である。次に、3~15年の中期的な期間に、スペースシャトルを運用するために何をすべきかについて説明している。委員会は、NASAがこれまで外部からの勧告を無視してきた歴史や、時と共に改善が実行されなくなっていた事実をふまえると、事故後改められた警戒に基づいてスペースシャトルが安全に運行されるのは数年間程度と思われ、それ以上は確信が持てないとしている。 9章では続いて、中間時点でスペースシャトルの安全運用に必要であると委員会が考える管理システムの変更について、その概要を述べている。管理システムの変更とは、スケジュール策定と予算の管理を技術仕様の当局から切り離すこと、システム統合の機能を確立すること、および安全と任務を保証する、監督権限を持つ独立組織へのリソースを確保して提供することである。スペースシャトルの補完機または代替機のいずれを開発するかに関して、国家の記録は不十分であるとする委員会の見解から、9章の第3項では、その記録について説明している。本報告書は、この状況に対する責任を負うべき米国政府の各関係機関に批判的であり、今後の処理方法について意見を述べているが、具体的な次の手段を提示するものではない。 10章には、事故に直接の関係はないが、NASAに有益となる、この広範囲の調査から得られた委員会の所見や改善事項、勧告が記されている。
CAIB によるコロンビア号の事故報告書のパート4は、付録関連の資料から成る。独立した追加の分冊には、背景の解説となる、分析的な参照資料が含まれている。
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最終更新日:2003年8月27日 | ||||||||||||||||||||||||||
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