第1次微小重力科学実験室(MSL−1) | |
| 概要
第1次微小重力科学実験室(MSL−1)計画では、NASAのスペースシャトル/スペースラブを利用して宇宙ステーションでの実施を予定している微小重力実験の予備的な実験を行い、実験の実施を通じて、宇宙ステーションでの宇宙実験に備えた技術開発を行います。
MSL−1計画には米国NASA、日本の宇宙開発事業団(NASDA)、欧州宇宙機関(ESA)、ドイツ宇宙機関(DARA)、ドイツ航空宇宙研究所(DLR)の5機関が参加します。NASDAは大型均熱炉(LIF)で材料実験を行うほか、テレサイエンス運用技術の開発などを行います。第二次微小重力実験室(IML−2)に搭載されたものを基に改修設計が行われたLIFの製作は1996年7月に終了しており、スペースシャトルコロンビア号(飛行番号STS−94)のスペースラブへの組み込み作業が行われました。 |
MSL−1は、1997年4月にSTS−83として実施されましたが、スペースシャトルの燃料電池の不具合によりミッション期間が短縮されたことから、STS−83の再フライトとしてSTS−94が行われることとなりました。
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- STS−83ミッション概要
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打上げ日時 | : | 1997年4月4日 14:20(米国東部標準時間) |
ミッションパッチ | 打上げ場所 | : | 米国フロリダ州ケネディー宇宙センター |
オービタ | : | コロンビア号 | 飛行期間 | : | 3日と23時間
12分 | 着陸地 | : | 米国フロリダ州ケネディー宇宙センター |
着陸日時 | : | 1997年4月8日 14:33(米国東部夏時間) | 軌道傾斜角 | : | 28.45度 |
搭乗員 | : | 7名 | 搭載装置 | : | NASA 8装置、NASDA 1装置、ESA 1装置、
DARA 1装置、DLR 1装置 | - STS−94ミッション概要
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打上げ日 | : | 1997年7月1日 14:02(米国東部夏時間) |
ミッションパッチ | 打上げ場所 | : | 米国フロリダ州ケネディー宇宙センター |
オービタ | : | コロンビア号 | 飛行期間 | : | 15日と16時間46分 |
軌道傾斜角 | : | 28.45度 | 搭乗員 | : | 7名 |
搭載装置 | : | NASA 8装置、NASDA 1装置、ESA 1装置、 DARA 1装置、DLR 1装置 |
着陸地 | : | 米国フロリダ州ケネディー宇宙センター | 着陸日時 | : | 1997年7月17日
6:47(米国東部夏時間) |
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大型均熱炉(LIF:Large Isothermal Furnace):
- LIFは宇宙の微小重力を利用して、材料の溶融・凝固実験や焼結実験などを高温で実施できる実験装置です。MSL−1で利用するLIFは、過去数回にわたるスペースシャトルでの軌道上実験を実施した均熱炉を高度化した実験装置で、既にFMPT及びIML−2において多くの実験テーマを実施した実績があります。
- LIFの仕組み:
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- 実験開始前に地上より実験パラメータがスペースラブ経由で大型均熱炉の制御部に送信されます。制御部はこの実験パラメータを電気炉本体に送信し、この実験パラメータに従って、試料カートリッジが挿入された電気炉本体の加熱・冷却を行います。各部の温度などの実験データは制御部及びスペースラブを通して地上に送信されます。
- LIFの特徴:
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- 基本運用性能:
FMPT、IML−2で確立した高温での制御性能に加え、加熱温度1000℃程度以下の中・低温領域での運用性を確立し、数百度℃から1600℃までの幅広い実験温度に対応できます。
- 幅広い実験への対応:
MSL−1ではモータドライバ、実験支援装置共通電源等の外部装置により、試料部駆動型実験や電気的な実験への対応も可能としています。また、試料カートリッジには実験試料の急冷、各種計測などの機能を追加した急冷カートリッジと電気カートリッジの標準型試料カートリッジを開発しています。
- 柔軟な対応性:
従来の同様の装置では困難であった実験パラメータの変更が地上からのアップリンクで行え、かつ、実験直前でも可能となりました。
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- 大型均熱炉は次のコンポーネントから構成せれています。
- 真空排気パネル(VVP)Vacuum Vent Panel
真空排気系の制御を行います。 - 制御装置データインターフェイスユニット(LIFE-DIU)
Large Isothermal Furnace
Contorol Equipment-Data Interface Unit assembly スペースラブと大型均熱炉のインターフェイス機能を持つ制御装置です。
- 制御装置実験部(LIFCE-EXP)
Large Isothermal Furnace Contorol Equipment-Experiment
assembly 電気炉本体やモータドライバを制御します。 - 電気炉本体(LIF-MP)
Large Isothermal Furnace
Material Processing assembly 内部に挿入された実験試料を加熱・冷却します。 - ガス供給装置(GSU)Gas Supply
Unit assembly
ヘリウムガスを貯蔵し電気炉本体に供給します。 - バルブアクセスパネル(VAP)Valve Access Panel
assembly
冷却水系の制御を行います。 - モータドライバ(MD)Motor Driver (NASDA準備品)
NASAの実施する実験テーマで使用するモータの制御をします。
- 実験支援装置共通電源(C-BOX)Common Electrical Supply Box
試料部に電流を流したり、電圧を測定する機能を持ちます。
- オペレーションツール
実験の操作に必要な小物類で、スペースラブのコンテナに収納されます。 - スペースラブ大型均熱炉標準試料カートリッジ
- 標準型急冷カートリッジ
- ヘリウムガスをカートリッジ中に流すことにより試料を急冷することができます。
- 標準型電気カートリッジ
- 電気的な実験に対応できます。
- 高精度拡散係数測定カートリッジ
シア・セル法により、拡散係数の高精度な測定が出来る標準試料カートリッジです。
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- テレサイエンス
- テレサイエンスとは実験の利用者が地上にから軌道上の実験装置の操作や実験実施の支援、観察、解析などを行う遠隔実験技術のことを言います。
- MSL−1では、地上(NASDA筑波宇宙センターとNASAマーシャル宇宙センター)のコンピューターからスペースシャトルに搭載されたLIF実験制御装置へ実験パラメータ(目標温度、ガス排気・充填、時間及び各種変換係数)を送信し、そのデータにより実験を行うことができます。
- テレサイエンスを行うことには以下のメリットがあります。
- FMPTやIML−2など、これまで日本が実施してきたスペースシャトルを利用した実験では、あらかじめ飛行の約1年半前に実験パラメータを実験装置の固定メモリに書き込む必要がありましたが、MSL−1ではフライト直前まで各種データの検討が可能なため、実験テーマ提案者が余裕を持って研究テーマに取り組むことができます。
- フライト中の実験結果を反映をした柔軟な実験パラメータの設定が可能であり、実験の実施に幅が広がります。
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- NASDA筑波宇宙センター リモートPOCC(Payload Operations Control Center)
- POCC(ペイロード運用管制センター)は軌道上でのスペースシャトルに搭載された実験を運用するために必要な支援を地上から実施する所を示します。これまではNASAのマーシャル宇宙飛行センター(MSFC)にあるPOCCからしか運用を行うことができず、日本の関係者にとっては非常に運用を行いにくい状態にありました。
そこで、MSL−1では運用の効率化を図るために、日本の筑波宇宙センターからも運用の一部を行うことのできるシステムを開発しました。このシステムを「リモートPOCC」と呼んでいます。
MSFCのPOCCは主として地上からの直接的な実験支援及び実験進行管理を行います。 筑波宇宙センターのリモートPOCCは、MSFCのPOCCと基本的に同等の機能を有しています。軌道上のクルーやNASAの運用要員の直接的な実験支援データの監視、実験パラメータの作成、コマンド送信をするために必要な設備を備え、専用回線を通じてデータを伝送します。
このようなリモートPOCCはJEMの運用にも利用が計画されており、宇宙ステーション運用棟を整備中です。MSL−1でのリモートPOCCの運用はJEMの運用を実施するための過渡段階として位置づけられています。
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- MSL−1実験テーマ
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- 微小重力下の液体金属及び合金の拡散
(提案者:伊丹俊夫、北海道大学)
地上で測定する拡散係数は、熱対流に影響されるため、微小重力実験とは異なった結果が報告されています。また、理論解析を用いて計算した拡散係数は高温になるほど地上実験で得られた拡散係数との差が大きくなります。そこで、本実験では重力対流の小さい微小重力環境下で高温域の拡散係数測定を行い、理論係数の妥当性を検証します。
- 化合物半導体鉛テルルの融液拡散の研究
(提案者:内田美佐子、石川島播磨重工業(株)技術研究所)
微小重力下で化合物半導体鉛錫テルルの融液拡散係数を正確に測定することで、良質の単結晶育成のための最適実験条件を把握し、また、いろいろな波長の光を出す赤外線レーザー素子及び受光素子用の化合物半導体を育成するための基礎的データを得ます。
- 微小重力環境によるイオン性融体中の不純物拡散定数の精密測定
(提案者:山村力、東北大学)
微小重力環境下でイオン性融体の不純物拡散係数を迅速かつ高精度で測定し、イオン性融体中の不純物拡散メカニズムを解明します。 - シア・セル法による拡散係数の測定
(提案者:依田真一、NASDA) 高精度拡散係数測定カートリッジ(シア・セルカートリッジ)の機能を検証し、また、錫及び鉛錫テルルの拡散係数を高精度に測定します。
- 液相焼結 Liquid Phase Sintering(NASA実験テーマ)
(Dr.German,
Pennsylvania State Univ.) IML−2で実施した実験の後続実験として、タングステン、ニッケル及び鉄の化合物の液相焼結に重力が及ぼす影響を研究します。
- ゲルマニウム半導体の不純物拡散 Diffusuion Processing in Molten Semiconductors
(Dr. Mattiesen, Case Western Reserve Univ.) シア・セル法を用い、ガリウム、錫やアンチモンを添加したゲルマニウム融液の拡散係数を正確に測定します。
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- MSL−1実験のキーワード「拡散」
- MSL−1で実施する日本の4つの実験テーマは全て拡散係数を測定します。
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- なぜ拡散係数を測定するのか?
拡散係数は実用的には欠陥の少ない高品質な結晶を成長させるための最適条件を決定する際に用いられます。また、学問的にも、物質の拡散メカニズムはまだ良く解明されていないため、正確な拡散係数を測定することが求められています。
- なぜ微小重力下で測定するのか?
地上で拡散係数を精密に測定することは非常に困難なことがわかっています。これは地上では物質の輸送は拡散だけでなく、対流にも支配されてしまうからです。つまり、拡散係数を精密に測定するには、対流による影響を排除でき、物質の移動を拡散のみで行わせることのできる微小重力環境で行う必要があるわけです。
Last Updated : 1998. 3. 18
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