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蛋白質結晶化の方法−蒸気拡散法− | 実験装置 | 研究テーマ |
蛋白質結晶化の方法−蒸気拡散法− |
蛋白質の結晶を作るためにはいろいろな方法がありますが、今回の実験ではアラバマ大学で開発された実験装置を使用して「蒸気拡散法」による結晶化を行います。
一般に蛋白質の結晶化は、目的とする蛋白質の水溶液に硫酸アンモニウムなどの塩類、あるいはポリエチレングリコールや有機溶媒などの沈殿剤を加え、蛋白質分子の溶解度を下げることにより行われます。水溶液中の蛋白質濃度が溶解度を上回った(過飽和)状態では、もはや溶けきれなくなった蛋白質が徐々に析出し、それらを核として更に多数の分子が集合した結晶が生成します。
蒸気拡散法では少量の沈殿剤を溶かした蛋白質水溶液の水滴(ドロップ)と高濃度の沈殿剤水溶液を用意し、ひとつの閉鎖空間内に直接接触しないよう封入します。するとドロップからの水蒸気は高濃度の沈殿剤水溶液の方に徐々に移動し、それにともなってドロップ中の蛋白質と沈殿剤の濃度が上昇し、やがて結晶化に至ります。
実験装置 |
研究テーマ |
分類 | 研究テーマ名 | 代表研究者(所属) | 試料名 |
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m | 蛋白質結晶化に及ぼす微小重力の影響と利用に関する研究 | 相原茂夫 (京都大学食糧科学研究所) | ニワトリ卵白リゾチーム |
b | ヒト尿トリプシンインヒビター | ||
b | プロスタグランジンD合成酵素の結晶構造解析 | 裏出良博 (大阪バイオサイエンス研究所) | プロスタグランジンD合成酵素 |
b | ゲンジボタルルシフェラーゼの結晶化 | 梶山直樹 (キッコーマン株式会社) | ゲンジボタルルシフェラーゼ |
b | プラストシアニンの電子移動反応機構に関する分子科学的研究 | 高妻孝光 (茨城大学理学部) | プラストシアニン |
t | 微小重力下で作製した結晶を使った多波長異常分散法 | 田中勲 (北海道大学大学院理学研究所) | マクロファージ遊走阻止因子 |
b | プロテアーゼとプロテアーゼインヒビターの微小重力条件下の結晶化とX線構造解析 | 田之倉 優 (東京大学生物生産工学研究センター) | 酸性プロテアーゼA オリザシスタチン |
m | ニワトリ卵白リゾチームの微小重力下での結晶溶解速度 | 新村信雄 (日本原子力研究所先端基礎研究センター) | ニワトリ卵白リゾチーム |
m | リボヌクレアーゼSの結晶多形における微小重力環境の影響の解析 | 藤田省三 (富士通研究所) | リボヌクレアーゼS |
b | 生物学上重要な蛋白質の結晶分解能・結晶性向上のための微小重力利用 | 三木邦夫 (京都大学大学院理学研究科) | シャペロニン GrpE ATP合成酵素 |
m.b | 蛋白質の物性と生物の進化の関連を研究するための基礎的結晶化実験 | 森山英明 (東京工業大学生命理工学部) | イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素 アドレノドキシン酸化還元酵素 |
<分類> m:結晶化や構造解析が進んでいる標準的な蛋白質の微小重力下での結晶成長メカニズムの解明に力点を置いた研究
b:有用な蛋白質の構造・機能を解明するため、よりよい結晶の作製に力点を置いた研究
t:蛋白質構造の解析手法の開発に力点を置いた研究
蛋白質結晶化に及ぼす微小重力の影響と利用に関する研究 |
蛋白質は人間の生理機能や加工食品などの食感に重要な役割を果たしていて、医薬品の開発や加工食品の素材として利用されています。蛋白質単結晶は蛋白質の機能を利用し、実生活に役立てるために必要な研究素材として不可欠なものですが、その作り方は未だ確立されていません。しかし、宇宙の微小重力環境を利用することによって良質の単結晶が得られることが次第に明らかになってきて、現在、蛋白質の結晶成長実験は国際的な注目を集めて行われている実験テーマの1つになっています。
本実験では、蛋白質結晶の作り方について、科学的指針を与える目的でニワトリ卵白リゾチームを利用して結晶成長メカニズムに関わる微小重力の影響を結晶内の分子間相互作用に基づいて解析します。また、ヒト尿中のトリプシンインヒビターを結晶化し、医薬品開発の一助とするとともに、地上では結晶化し難い糖蛋白質の結晶化法について検討します。
プロスタグランジンD合成酵素の結晶構造解析 |
この研究は、プロスタグランジD合成酵素の結晶を作製し、その立体構造を決定することを目的にしています。
この酵素には2種類あり、一方は脳脊髄などの中枢神経系に分布し、もう一方は脾臓や胸腺、骨髄、皮膚などに分布しますが、ともに睡眠やアレルギー反応に関係する同一の生理活性物質の合成を司っています。この2種類のプロスタグランジンD合成酵素はアミノ酸の配列が全く異なるにもかかわらず、同じ反応を触媒する興味深い酵素です。それぞれの酵素の構造を比較することにより、どうして全く別の蛋白質が同じ反応をを行うことができるのか、その謎が解き明かされると期待されます。反応を行う部分の構造が判れば、そこに結合して反応を阻害する化合物を設計することもでき、将来、眠りを調節したりアレルギーを抑える薬の開発につながると期待されています。
ゲンジボタルルシフェラーゼの結晶化 |
ゲンジボタルルシフェラーゼは、特定の物質と共存すると発行する性質をもつため、そのような物質の量の測定やそれを含む微生物の有無の確認、さらには高感度な標識酵素として多用される有用な蛋白質です。
私たちは、ゲンジボタルルシフェラーゼの構造と機能との関係解明を目的に研究を進めています。これまでに、本酵素がわずかアミノ酸をひとつ置換するだけでその発行色が変わることや、耐熱性が上昇することなどを発見しました。これらの現象は、本酵素の立体構造のわずかな違いによるものと推定されていますが、その詳細は解明されていません。
この問題を解明するため、微小重力環境下において欠陥の少ない大型で良質の結晶を作製し、高分解能の構造解析に供したいと考えています。
プラストシアニンの電子移動反応機構に関する分子科学的研究 |
プラストシアニンは、植物及びラン藻(シアノバクテリア)の光合成で電子のやりとりに関与する電子伝達蛋白質です。
この実験では、プラストシアニンの精密構造解析を行うための結晶と、光学的に透明で、現在私たちが使用できるスペクトル測定装置に適した大きさの結晶を作製しようとしています、X線構造解析による分子構造とプラシアニン分子のスペクトルとを対応づけることによって、分子科学的にその構造と電子伝達の機構などとの関係が明らかにされます。
このような研究には生命現象を分子レベルで明らかにするだけではなく、新しい材料の開発にも有意義な情報をもたらすことが期待されています。
微小重力下で作製した結晶を使った多波長異常分散法 |
私たちは、微小重力下で作製した結晶を使って多波長異常分散法の適用範囲を広げ、これを蛋白質構造の迅速ルーチン解析法として確立することを目指しています。その背景には。「微小重力下で作製した結晶は、地上で作製したものに比べて、結晶内での分子配向の乱れが少なく、より高分解能の回折が得られる」という希望的予測があります。最近の多くの研究結果がこの予測を支持してはいるものの、これはま客観的事実と見なされるには至っていません。
そこで今回の実験ではこれを検証することを第一の目的として、最近、私たちが多波長異常分散法により構造解析を行ったマクロファージ遊走阻止因子(MIF)を使って、微小重力下での結晶化を行い、その異常分散項の測定を中心に作製した結晶の評価を行います。
プロテアーゼとプロテアーゼインヒビターの微小重力条件下の結晶化とX線構造解析 |
本研究は、微小重力環境下で良質な蛋白質単結晶を得、高分解での構造解析を行い、生命現象をより詳細に観察することを目的としています。
試料としては、酸性プロテアーゼAとオリザシスタチンを用います。これらは、現在当研究室において、結晶化され構造解析を行っている蛋白質です。これらの蛋白質は、結晶化の条件が細部にわたって検討されていて、その挙動もよく観察されています。しかし、その生理的活性をより詳しく解析するためには、さらなる分解能の向上を検討する必要のある重要な蛋白質です。
ニワトリ卵白リゾチームの微小重力下での結晶溶解速度 |
最近、微小重力下では、地上に較べ良質の結晶が得られるとの実験例が紹介されていますが、その成功率は20%程度です。微小重力下での結晶成長機構解明のための基礎データが皆無に近いので、あいまいな点が多く、幸運を期待して微小重力下での結晶化を期待しているのが現状です。これを繰り返していたのでは、これ以上の進歩は期待できません。微小重力下では地上に較べて良質の結晶が得られるなら、微小重力下での結晶成長メカニズムを調べ、成功率を向上させることは重要です。
今回はリゾチームを試料として用い、結晶成長に重要な3つのプロセス、溶解、核形成、結晶成長のうち、微小重力下での溶解過程の基礎データを得ることを目的にした実験を行います。
リボヌクレアーゼSの結晶多形における微小重力環境の影響の解析 |
本研究では、私達が過去に行った宇宙実験で結晶形によって微小重力環境の効果に差があることが示唆されたことを受けて、結晶の質が異なる三種類の結晶(W形、Y形、Z形)ができるリボ核酸分解酵素(リボヌクレアーゼS)を使い、結晶を作る溶液の組成を変えて結晶形を作り分け、結晶の質を評価します。これにより、なぜ微小重力環境が結晶の質の改善に有効なのかを探ります。
微小重力環境が結晶の質の向上に及ぼす影響を調べることにより、地上でのより良い結晶を作るための示唆が得られると期待しています。
生物学上重要な蛋白質の結晶分解能・結晶性向上のための微小重力利用 |
本研究は、生物学上の重要性からその立体構造の解明が待たれながら、分解能の高い結晶が得られないがゆえに、その研究の進展が妨げられている蛋白質を対象として、宇宙空間での微小重力を利用した結晶化によって、結晶の分解能・結晶性の向上を目指すものです。その対象には、蛋白質が構造を形成して機能を発現する状態を作り出すために働くシャペロン蛋白質や、すべての生物のエネルギー源である化合物ATPを生成するATP合成酵素など、極めて重要な蛋白質の立体構造が新たに解明されていくことを期待しています。
蛋白質の物性と生物の進化の関連を研究するための基礎的結晶化実験 |
生物の進化はこれまで、化石の中に残された情報や現生生物間のアミノ酸配列の違いなどを利用して研究されてきましたが、生物のもつ遺伝子の情報は、蛋白質で具現化されるので、蛋白質の物理学的な性質を考慮に入れて進化を系統的に考えると、これまで以上に様々なことが判るはずです。このような研究には、蛋白質の正確な原子構造を明らかにすることが必要になります。
温泉から採れた耐熱性のイソプロピルリンゴ酸脱水酵素やウシのアドレノドキシン酸化還元酵素は、進化的・医学的に興味深い研究対象ですが、地上で作製したこれらの蛋白質の結晶の質は、その正確な原子構造を調べるためには十分ではありません。
そこで今回の実験は、宇宙空間での微小重力下でモザイク性を改良したこれらの蛋白質の結晶を得ることを目的に実施します。
Last Updated : 1997.12.15