サイトマップ

最終更新日:2015年4月13日

宇宙実験サクッと解説:線虫の寿命の変化って?編

宇宙実験調査団のピカルが物知りハカセに突撃取材しました。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

ハカセ、こんにちは。今度、国際宇宙ステーションで寿命が変わるか実験をするって聞きました。そもそも生き物の寿命って何によって変わるのですか?

ハカセ:

生物の寿命は、生物種によってだいたい決まっておる。それから栄養や衛生状態・医療・運動・ストレス・睡眠などの生活環境に大きく影響されることが分かっている。生物は生まれた時から時間がたつにつれて加齢していくが、機能が衰えてしまって戻らないことを老化という。
しかし、老化がなぜ進んでいくのか、正確なところはまだわからない。だから完全に防ぐこともできていない。

ピカル:

もし寿命を延ばす方法があるのなら、さっそくハカセが長生きするために使ってほしいです。

ハカセ:

長寿の理由を調べる実験や調査はたくさん行われている。例えば日本でも特に沖縄は世界でも長寿の人がいるのは知っておるな。食事、塩分、運動、もちろん遺伝的背景、加えて文化的な背景なども影響している可能性がある。

ピカル:

なるほど。国や地域によっても違うんでしょうね。それに健康に、長生きしないと意味がないですからね。ところで、宇宙に行ったら骨や筋肉が弱るって聞きました。つまり、宇宙では老化が進むのではないのですか。

ハカセ:

それは大きな誤解じゃ。宇宙で実際に老化が進むというデータは今のところない。重力のない宇宙で宇宙飛行士の骨や筋肉は急速に弱るが、それは老化が進むのとは別の話じゃ。

ピカル:

えっ、宇宙で骨や筋肉が弱るってことは老化が進むってことかと思っていました。

ハカセ:

国際宇宙ステーションは加齢現象を観察するよい実験室なのじゃ。でもそれは、地上で老化に伴って進行する骨量の減少や筋肉の萎縮という現象が、重力がない宇宙で急速に進むからであって、宇宙に行ったら老化が進むのとは違う話じゃ。

ピカル:

へえー、ちょっと誤解していました。じゃあ、宇宙飛行士が急に年をとって、寿命が縮んでいるわけじゃないんですね。そうすると、宇宙では実際には寿命はどうなっているんですか?

ハカセ:

それを調べるのが、この実験の目的なのじゃ。ヒトでは寿命の研究は長い時間がかかるため、実験しにくい。そこでヒトと同じ動物で、ヒトと機能する遺伝子が似ているショウジョウバエや線虫が研究に用いられる。実は、JAXAと本田先生のチームは、2004年に線虫を使って宇宙環境が老化現象に与える影響について宇宙で実験を実施したのだ。2004年の実験では、宇宙環境では老化速度が遅くなる、つまり寿命が延びると推定される結果が出たのじゃ。

ピカル:

じゃあ、宇宙に行くと線虫の寿命が延びるっていうことですか?

ハカセ:

本田先生たちの仮説が正しければ、そういうことになるのう。2004年の実験では、老化すると増えてくるマーカーを見て間接的に老化速度を推測したが、今回の宇宙実験で実際に線虫の寿命を計測してみようと新たな計画を立てた。

ピカル:

線虫の寿命を計測するって、どうやるんですか?

ハカセ:

線虫の動きで、老化の速度を分析する。若い線虫はよく動く。老化とともに動きがゆっくりになっていくことが分かっている。そして寿命が終わるまで宇宙で飼育する。最大70日の予定じゃ。線虫は通常は生まれてから3週間ほどで死んでしまうのだが、宇宙では線虫専用の栄養の入った培地を使う。そしてFUdRというDNA合成阻害剤を入れてやると、線虫は卵を産まなくなる。その状態で培養すると、地上では寿命が約50日になる。
2004年の宇宙実験で、宇宙に行くと寿命が延びると予想される結果が得られたので、宇宙では期間を1.4倍にして70日程度観察する予定にしておる。

ピカル:

長い実験ですね。

ハカセ:

この実験では、地上からの指令で自動的に観察の操作できるような装置を開発した。
それに宇宙に運ぶ時に線虫が弱らないように線虫の保存に適した12℃という温度で運ぶよう、保冷剤と保冷ケースをJAXAは新規に開発したのだ。

画像

図7 12℃保冷ケース JAXA提供

ピカル:

宇宙実験のためには生き物だけじゃなくて、装置や道具などいろんなものが必要なのですね。

ハカセ:

通常の線虫だけではなく、もともと短寿命の種類の線虫も宇宙に連れて行くのじゃ。短寿命の線虫はdaf-16という遺伝子が欠損していて、寿命が短い。この変異株の線虫の寿命が宇宙で変わらなければ、daf-16が宇宙での寿命変化にかかわっているということの証明になる。逆にもし寿命が延びたらこの遺伝子の変異がかかわっていないことになる。

ピカル:

とっても難しいけど、変化するかしないか、ターゲットを絞って、その理由まで解き明かそうとしているんだね。とっても効果的に実験を計画していることは分かりました。
もし宇宙で線虫の寿命が延びるなら、人間も宇宙に行ったら長生きできるようになるんでしょうか。

ハカセ:

宇宙は自分の体を支える必要もないから、たとえ骨や筋肉が弱っても楽に生きていられるかもしれないな。実は宇宙は楽で、過ごし方によっては若々しくいられるところなのかもしれない。でも線虫で得られた結果をすぐに人間に当てはめることは注意が必要じゃ。ただ、線虫の機能する遺伝子のうち約70%はヒトと同じであることが分かっているから、線虫で老化を制御する遺伝子が分かると、ヒトでもそれをもとに効果のある薬が開発できるかもしれない。現に、線虫で見つかった老化制御遺伝子をヒントにした化合物が、哺乳類にも効くかどうかをマウスを使って実験をしているところなんじゃ。

ピカル:

宇宙で得られた結果が地上でも役に立つんだね。ハカセ、よくわかりました。今日はどうもありがとうございました。

参考ページ
東京都健康長寿医療センター 研究所(東京都老人総合研究所) 老化研究基盤情報/高齢者健康生活支援情報データベースより
http://proteome.tmig.or.jp/pjtdb/Kenkyu/Nematoda/page2.html

寿命をのばす遺伝子−線虫の研究から−(本田修二)
http://www.tmig.or.jp/J_TMIG/kouenkai/koza/62koza_2.html

「線虫C.エレガンスを用いた老化・寿命研究 トレハロースによる老化防御」
本田修二、本田陽子 (2010) 日本薬学会学会誌 ファルマシア 46 号、141-146


Space Aging トップページへ | 「きぼう」での実験ページへ

 
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency サイトポリシー・利用規約  ヘルプ