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実験の背景


物質の拡がりを、大きく2つの原因に分けて考えます。一つは物質の濃度が場所によって異なることが原因で生じる濃度拡散、もう一つは物質の温度が場所によって異なることが原因で生じる熱拡散です。熱拡散のうち、特に流体中に発生するものがソーレ効果と呼ばれています。これら2つの拡散現象は同時に起こるため、複雑な物理現象として知られています。特に地上では、重力の影響を受けて対流が生じていること、ソーレ効果による分離が小さい事から、これらの効果を正確に知ることは簡単ではありません。

ソーレ効果の模式図

これらの2つの効果は十分な時間がたつとバランスを取って変化しなくなりますが、この時、「濃度拡散と熱拡散がどのような比率でバランスを取っているか」を示すのがソーレ係数と呼ばれる数値です。

ソーレ係数は、物質の拡がりのメカニズムを解明する上で重要な役割を担っていますが、これまでに精度のよい計測はなされていません。スペースシャトルや他国で実施されている過去の実験では、液体の温度と濃度を切り分けて計測することができておらず、正確なソーレ係数を測定できていませんでした。

実験の目的


Soret-Facet実験では、対流影響が生じない宇宙実験で、精度良く溶液(2種類の液体の混合物)の温度と濃度を測定し、ソーレ係数を測定します。その結果から、ソーレ係数を予測するための方法を確立することが目的です。

この目的が達成できると、未知の溶液について、濃度拡散と熱拡散がどのようにバランスを取るのか、を予想することが出来るようになります。宇宙実験で対流を抑制した環境でのデータ収集は不要となり、地上でソーレ係数の研究を広く実施することが期待されます。

実験内容


過去の宇宙実験「FACET実験」で開発、使用したFACET-Cellを再度利用する実験のため、このテーマ独自での装置開発や打ち上げを必要としません。




このFACET-Cellを、軌道上の「溶液結晶化観察装置(SCOF)」内に設置して実験を実施します。


SCOFに設置された2波長のマッハツェンダ干渉計により、ガラスセルの内部に封入されている実験試料(サリチル酸フェニル中に混ぜたブタノール)の濃度と温度を測定します。これらの正確な時間変化を観察することで、ソーレ係数を算出することができます。

ココがポイント!


ソーレ係数がわかっていない物質について、ソーレ効果がどの程度生じているか、つまりソーレ係数が推定できることで、以下のような幅広い分野に波及効果が期待されます。

・石油等の精製プロセスの改良:
温度勾配を積極的に制御することで、不純物濃度をコントロールできるようになり、より純度の高い物質を得ることが出来るようになります。

・半導体等の材料の凝固プロセスの改良:
溶かした材料を温度を下げて固める際、ソーレ係数を考慮することで固まった後の元素の分布を精度よく予測することができるようになります。


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