サイトマップ

最終更新日:2015年4月8日

宇宙実験サクッと解説:受精卵への宇宙放射線影響って?編

宇宙実験調査団のピカルが物知りハカセに突撃取材しました。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

ハカセ、最近は植物の実験や、線虫・細胞を使った筋萎縮の原因を探る実験が多いと思っていましたが、宇宙放射線の影響を調べる実験も継続的に実施しているのですね。

ハカセ:

うむ。大阪市立大学の森田先生のStem Cells実験のES細胞は、無事に国際宇宙ステーション(ISS)に保存した中間サンプルが戻ってきたし、山梨大学の若山先生のSpace Pup実験の凍結乾燥精子を保管した最初のサンプルも無事戻ってきて地上での解析が進められておる。(若山先生の最近の実験結果はこちら

ピカル:

宇宙に保存した影響はわかったの?

ハカセ:

どちらも中間報告の段階だが、今のところES細胞も凍結乾燥の精子も、宇宙に保存した影響は出ていない。先生方はほっとしているそうじゃ。もしも1年の保存で影響が出たら大事件だという言い方もできるからな。今も継続して、ISSでの保存実験が進められておる。これらの実験に続くのがEmbryo Rad実験じゃ。放射線医学総合研究所の柿沼先生が提案しJAXAと共同で宇宙実験を実施する。Embryo Radではマウスの受精卵を使用するのじゃ。

ピカル:

受精卵?ES細胞や精子とはどう違うの?

ハカセ:

母親マウス由来の卵子と、父親マウス由来の精子が受精すると、細胞分裂が始まる。2細胞になったところで、細胞を壊さないよう上手に凍結してやる。受精卵を凍結状態のまま宇宙に打ち上げるので、宇宙放射線の影響を直接的に見ることができる可能性があるのじゃ。ES細胞や精子を使った実験も大切なことに変わりないが、受精卵を使う場合、細胞融合や改めて授精させる操作が必要なく、直接里親に移植し、その後の着床や妊娠過程への移行、出産数、子供の寿命などを調べることができるのでより自然に近い実験ができるというわけだ。

ピカル:

なるほど、実験操作の影響が最小限ということですね。それに、生まれる子供への影響を見るにはよい材料ということですね。

ハカセ:

うむ。さまざまな試料を使って、それぞれの結果を多角的に比較することも大切なことなのじゃ。この3つの実験は、それぞれ2010年から宇宙実験の準備を進めてきて、ちょうど同じ時期に宇宙に持って行くことが可能になった。ちょうど同じ時期に宇宙実験を実施し、それぞれの実験結果を相互に議論できるチーム体制ができたので、系統的な成果の発表も期待できるのじゃ。

ピカル:

なるほどね。凍らせたまま保管する実験として3つの実験の結果を比較できるのですね。生殖細胞や受精卵への宇宙放射線影響が総合的に分かるといいですね。ところで凍結状態でも宇宙放射線の影響はわかるのですか?

ハカセ:

うむ。RadGeneLOHなどの2009年に実験した国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟での研究で、細胞は凍っていても放射線の影響を受けることが分かったのでな。

ピカル:

そうか、これまでの実験の積み重ねが活かされているんだね。宇宙に行く場合、宇宙放射線の影響を正しく評価して、どう防ぐか、解決策を考えておくのは大切なことですものね。もしよい解決方法が見つかれば地上での放射線対策にも生かされるのですか?

ハカセ:

そうじゃ。日本ではがん患者さんの4人に1人が放射線治療を受けている。宇宙での複雑な放射線環境が与える生物への影響の結果によっては、地上での活動にも応用できる可能性があるぞ。

ピカル:

なるほど。宇宙だけでなく地上での研究にも生かされるんだね。

ハカセ:

放射線については目に見えないので心配になるが、きちんと管理して影響を把握することが重要なのじゃ。この実験では“がん”になりうるさまざまな系統のマウスを選んで宇宙に持って行く。受精卵を使って、影響を正確に把握しようという実験は初めてなのじゃ。

ピカル:

いつもながら、宇宙実験の守備範囲の広さに感銘を受けました。ハカセ、説明どうもありがとうございました。


Embryo Rad トップページへ | 「きぼう」での実験ページへ

 
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency サイトポリシー・利用規約  ヘルプ