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宇宙実験調査団のピカルが筋肉細胞実験を大調査!

実験提案者の二川先生とも
仲良しの物知りハカセに聞きました。

ピカル:

ハカセ、こんにちは。 今日はMyo Lab実験の調査で来ました。 筋肉細胞の研究と聞きましたけど、宇宙ではどのような仕組みで筋肉が小さくなり弱ってしまうのか、今までに調べられていなかったのですか?

ハカセ:

ほほう、ピカル、今日も冴えておるのう。 そうじゃ、今までにいろんな動物を宇宙で飛行させて、その仕組みがかなり調べられてきておるんじゃ。 今回のMyo Labの実験は、今までの調査の集大成といえる実験じゃよ。

ピカル:

集大成ですか! ところで、Myo Labってどういう意味なんですか?

ハカセ:

MyoLab(マイオラボ)は、筋肉の英語名「Myo」と、研究の英語名「Laboratory」からとった略語じゃよ。 つまり「筋肉の研究」の意味じゃな。 この実験では、筋肉細胞自体を宇宙で育てて、筋肉の弱る仕組みを調べるんじゃ。

ピカル:

筋肉細胞そのものを育てるんですね。 なんだか強そうな感じです。


ハカセ:

ピカルは、細胞と動物(個体)の違いがわかるじゃろ? ヒトの場合じゃと、200種類以上の異なる細胞が集まりあって組織、つまり筋肉や器官ができ、1つの動物(個体)が作り上げられているんじゃ。 動物そのものを使うと、実験の後で筋肉を取りだして調べても、その筋肉は、神経やホルモンの影響をうけておる。 どうして筋肉が小さくなり弱るのか、このままだと原因がごちゃごちゃになってしまうのう。 そこで、今回は筋肉をつくりあげる主役の筋肉細胞だけにして、宇宙で育てることにしたんじゃ。

ピカル:

筋肉細胞だけにすることによって、筋肉が弱る直接的な仕組みがダイレクトにわかるってことですね。

ハカセ:

うむ、そうじゃ。 今回用いる細胞はラット(ネズミ)から採られたもので、次の写真のようなもんじゃ。 細長いのが筋肉細胞の特徴なんじゃよ。


この細胞を薄いプレートの中に植えつけて、温度・湿度・二酸化炭素濃度を一定に保つ、「きぼう」の細胞培養装置の中で育てるんじゃ。 そうじゃなぁ、細胞にとってみれば、炊飯器の保温状態みたいなもんじゃの。

ピカル:

なるほど、細胞はこの炊飯器のような装置の中で大切に育てられるんですね。 結構心地よさそうです。 ところでハカセ、筋肉細胞が弱ることの指標としては何を使うんですか?

ハカセ:

おう、よくぞ聞いてくれた。 今までにスペースシャトルで約16日間飛行したラットを調べてみると、その筋肉は小さく弱っており、さらに筋肉の中のCbl-b(シーブルビー)というタンパク質の量が地上より約10倍も増えておったのじゃ。 そこで、今回はCbl-bに着目することにしたんじゃ。

ピカル:

ハカセ、ちょっと待ってください。 タンパク質は、遺伝情報をもとに作られる大切な分子ですよね。 それで、このCbl-b(シーブルビー)って何ですか? このタンパク質と筋肉が小さく弱くなることとどんな関係があるんですか?

ハカセ:

おお、これは説明が足りんかったのう。 うむ、ではまず、スポーツ選手の筋肉を想像してみよう。 現役の時は筋肉が立派じゃが、引退すると筋肉が小さくなるのを見たことがあるじゃろう。 あれはどうしてじゃと思う?

ピカル:

トレーニングをしなくなったからでしょ?

ハカセ:

うーん、それは確かにそのとおりなんじゃが、分子のレベルで考えると、トレーニングをしなくなったことによって、筋肉のタンパク質を作るよりも、タンパク質が壊される方が大きくなったということなんじゃ。 つまり、筋肉の量がいつも一定だとすると、それは筋肉タンパク質の合成と分解が同じ量であるということを意味するわけじゃ。

ピカル:

そうだったんですか! そうすると、宇宙では筋肉細胞の中でタンパク質の分解のほうが大きいから、筋肉は小さくなり弱ってしまう。 逆に、ぼくは今育ち盛りだから、タンパク質の合成が大きくて、筋肉が少しずつ大きく強くなっているんですね。 あっハカセ、この仕組みは、まるで筋肉細胞の中でタンパク質の合成と分解との「シーソーごっこ」をしているみたいですね。

ハカセ:

おもしろい例えじゃのう、ピカル。 そうじゃ。 生き物の体の中では常にこのタンパク質シーソーのバランスが維持されておるんじゃ。 ここで、Cbl-bの話に戻すと、Cbl-bというのは、筋肉に限らず、分解しようとするタンパク質に「目印」をつけるタンパク質なんじゃ。 この目印は「ユビキチン」という名前なんじゃがの。 この「ユビキチン目印」をつけられたタンパク質は、その後分解されてしまう。 つまり、Cbl-bはタンパク質の分解に関わるんじゃ。 そうそう、ユビキチンを介したタンパク質分解を発見した科学者は、2004年にノーベル化学賞を受賞しておるぞ。

ピカル:

へぇ、すごいノーベル化学賞だなんて。 このCbl-bというタンパク質は、生き物の体の中で要らなくなった他のタンパク質に「ゴミ箱行き」の目印をつける大事なタンパク質なんですね。 ところでハカセ、宇宙では、Cbl-bはどんなタンパク質に必要ないって目印をつけたんですか? さっきの話では、筋肉細胞の中のCbl-bが10倍に増えた、ということでしたけど、筋肉のタンパク質に目印が付けられちゃったんですか?

ハカセ:

そのようなんじゃよ。 地上においてCbl-bは、異常なタンパク質のみを認識して目印をつけ、細胞から排除する大切な役割があるんじゃが、なぜか宇宙では筋肉を構成する大切なタンパク質をも分解させておるようじゃ。 困ったことじゃのう。

ピカル:

だから、宇宙では筋肉が弱くなるんですね。 困ったことですが、納得です。 でも、そこまで分かっているなら、もう調べることはないんじゃないですか?

ハカセ:

まあまあ、そういうな。 物事はそう簡単ではないのじゃ。 筋肉を構成するタンパク質にはいろいろな分子が作用しておって、たとえば「筋肉を増やせ」という指令があると、いくつもの分子がバケツリレーのようにその情報を運んでいき、最後に筋肉が増えるようになっておる。 バケツリレーに参加する分子は、全部タンパク質の仲間じゃ。 今回、二川先生たちが調べたいのは、Cbl-bがそのバケツリレーに参加している分子のどれに、実際に目印を付けているかを調べることなんじゃ。

ピカル:

へえ〜! 本当に、生き物の体って、すごく複雑なんですね。 ぼくの筋肉のために、たくさんのタンパク質分子が体の中でバケツリレーをしてくれているなんて、思いもしませんでした。

ハカセ:

ほんに、生き物はよくできておるのう。 ちなみに、バケツリレーは、専門用語で「シグナル伝達」というのじゃがの。 Myo Lab実験では、このシグナル伝達の様子を詳しく調べるために、わざと「筋肉を増やせ」という指令を与えることにしたのじゃ。 具体的には、筋肉の「成長因子」を細胞に与えるんじゃが、そうすることで、分子たちがバケツリレーを始めるわけじゃから、宇宙でCbl-bの狙っておるタンパク質がバッチリわかるはずじゃ。

ピカル:

ハカセ、よく分かりました。 このMyo Lab実験は、将来の宇宙飛行にも役に立ちそうですね。

ハカセ:

そうじゃ。 宇宙で筋肉のやせ細る仕組みを知るのは大事なんじゃ。 この仕組みがわからんと、それを防ぐ方法もわからんからな。 未来の人類が、せっかく火星や金星に行っても、筋肉が働かんと、なんにもできんからの。 ほっほっほ。 研究チームも、今回の研究の大切さがわかっているから、ずいぶん燃えているようじゃぞ。 実験のシンポルマークには、シャトルの火炎でヒトの筋肉を表現したデザインを採用しておる。 また、すでに月や火星を目指した実験を行っているようじゃ。 今回の研究成果が、火星など遠くの惑星に行く助けになればうれしいの。


ピカル:

ハカセ、今日はどうもありがとうございました。 MyoLabの実験によって、筋肉がより小さく弱くなる仕組みが分かり、その予防方法の開発につながることを期待しています!


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