成果 精密な繰り返し実験により20年に及ぶマランゴニ対流の遷り変わりの謎に終止符! 地上では液体自身の重さにより液柱が崩れてしまうため、数ミリ程度の直径・長さの小さな液柱しか作れませんが、宇宙実験では地上よりはるかに大きな液柱を形成し、流れや温度分布を詳しく観察できました。大きな液柱では、実験条件の範囲を大幅に拡げることが出来るため、地上実験では観測されていなかった流れのパターンや温度の伝播現象が現れ、マランゴニ対流が持つ性質の全体像や、理想的なマランゴニ対流が詳細に観測できました。 これまでの成果により、マランゴニ対流研究分野において日本のチームは世界のトップランナーとなりました。2008年から始まった本実験はまだ途中段階で、体系的な理解を目指し2016年頃まで宇宙実験を行う予定です。これまでに以下のような成果が得られています。 1. 振動流に変化(遷移)する条件の理解定常流から振動流への遷移の条件(臨界マランゴニ数)は、理論的には液柱の直径には依存しないはずですが、過去の小型ロケット実験やスペースシャトル実験では液柱の直径とともに大きくなるという矛盾した結果が得られていました。今回の「きぼう」での実験では、地上では実現できない液柱サイズと幅広い条件での繰り返し実験によって、信頼性の高いデータが得られ、振動流遷移の条件が理論と一致している(つまり液柱直径に依存しない)ことを実験的に初めて明らかにしました。 2. これまで知られていなかった振動流の渦構造を発見 液柱が長くなると渦構造の振動流が現れるなど、振動流へ遷移する条件が大きく異なり、より小さい温度差で振動流に遷移することを明らかにしました。 3. 温度が波状になって液柱表面を伝わる様子(温度波)について貴重な実験データを取得 長い液柱において、液柱表面を伝わる温度波が、高温側から低温側に伝播するのか、あるいはその逆なのかという未解決の問題がありましたが、床屋のバーバースタンドの縞模様のように、温度波が回りながら高温側から低温側に伝播することを初めて実験的に明らかにしました。 4. カオス・乱流の観測 液柱マランゴニ対流の、乱雑さが発達したカオス・乱流によって発生する複雑な表面温度パターンなどを様々な条件で観測し、それらの特性を明らかにしました。長い液柱では、表面温度変動パターンが長さ方向で大きく違っており、浮力対流でのカオス・乱流の様相とだいぶ異なった様相を示しています。 5. 粒子集合現象(PAS:Particle Accumulation Structure)の観測大きな液柱では発生しにくいPASの観測に成功しました。PASがどのような条件で発生するかはまだわかっていませんが、宇宙では地上に比べて小さい温度差で発生することが分かりました。今後さらにデータを蓄積し、メカニズムを明らかにすることが期待されます。 |
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency | サイトポリシー・利用規約 ヘルプ |