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宇宙実験サクッと解説:マランゴニ編


マランゴニ対流は難しい?

宇宙実験調査団のピカルくんが河村先生に
日頃の疑問をぶつけてみました。

河村先生

ピカル

ピカル:

すごく基本的なことからお聞きしますが、どうして宇宙で実験するのでしょうか?

河村先生:

はい、それは当然の質問だと思います。新しい材料、たとえばシリコンの結晶をつくるとしたら、いったんもとの材料を溶かして、それをゆっくり冷やしてきれいな結晶をつくります。溶けた状態から、どうやってきれいな結晶をつくるか。それがすごく大切なことなのです。
困ったことに、地上では、溶けた状態のとき、温かいところは軽くなり、冷たいところは重くなって、対流(注1)が起こります。

ピカル:

対流によってかき乱されるから、きれいな結晶にはならないってことですか?

河村先生:

その通りです。宇宙では重力の影響はほとんどありませんので、そういう流れは起こりません。そのため、とてもきれいな結晶ができるのではないかとの期待がありました。

ピカル:

それで、うまくいったのですか?

河村先生:

1990年に、ドイツの科学者がスペースシャトルを使って実験をしました。大きくてきれいな結晶が得られましたが、なぜか縞が結晶の中にできてしまいました。

ピカル:

それはどうしてですか?

河村先生:

いろいろ研究したところ、どうも「表面張力」による「マランゴニ対流」のせいではないかということが結論でした。表面張力は、もちろん地上でも働く力ですが、宇宙に行くとはっきり現れるようになります。

ピカル:

表面張力・・・どこかで聞いたことありますが、よくわからないのですが。

河村先生:

それでは、わかりやすく説明しましょう。わたしはいつも、「表面張力はサル団子」だと言っています。

ピカル:

えっ!サル団子なんですか?

河村先生:

この絵をみてください。

ピカル:

うわぁ!サルが集まっています。でも、サルと表面張力と、ほんとに関係があるのですか。

河村先生:

そうなんですよ。真冬の雪山にサルの群れがいるとしましょう。寒がりのサルたちはバラバラでいると寒いので、できるだけ集まってお互いの体温で体を暖めようとします。これをサル団子と言っています。しかも、外側にいると寒いですから、できるだけ中のほうに入ろうとするでしょう。だから、サル団子には、表面積をできるだけ小さくしようとする力が働くのです。これが、「表面張力」です。
水などの液体でも同じなんですよ。だから、雨粒は、丸くなっているんです。

ピカル:

なるほど、サルも水玉も同じなんですね。でも、ナントカ対流というのは、サルが流れてしまうのですか?

河村先生:

では、さっきのサルが団子になっているところが、もっと寒くなったら、どうなると思いますか?サルは、寒いからもっともっと団子の中に入ろうとするでしょう。だから、寒くなると、表面積をできるだけ小さくしようとする力(表面張力)は大きくなるのです。逆に暖かくなると、そんなにがんばって中に入らなくてもよいから、表面張力は小さくなります。

ピカル:

これはよくわかります。

河村先生:

ここまでわかってもらえば、あとは簡単です。では、大きなサルの団子があって、一方が寒くて一方が暖かいと、どっちのサルが一生懸命中にもぐりこもうとしますか?

ピカル:

それは寒いほうですよ。

河村先生:

えらい!その通り... だから、表面にいるサルたちは、冷たい方に移動することになるのです。ちょうど、冷たいところのサルと暖かいところのサルが綱引きをすると、より真剣な寒いところのサルが勝つようなものですね。液体の場合も、寒いほうが暖かいほうよりも表面積を減らそうとする力(表面張力)が強いので、表面では冷たい方に流れます。これが、マランゴニ対流なのです。

ピカル:

そうことだったのですか。ところで、マランゴニって変わった名前ですね。

河村先生:

マランゴニっていうのは、この流れを研究したイタリアの科学者の名前に由来しています。

ピカル:

わかりました。それで、宇宙で作った結晶の縞はマランゴニ対流が原因だったのですか?

河村先生:

その通り。マランゴニ対流がだんだん激しくなると、流れがとても乱れてしまいます。その場合、液体の熱い部分と冷たい部分が乱れた流れによって交互にやってきて、結晶が次々に違う温度にさらされることになってしまいます。
温度が変わると結晶の成長が速くなったり遅くなったりするので、出来上がった結晶に縞ができてしまいました。

ピカル:

それは確かにこまりますね!だからマランゴニ対流の実験は重要なんですね。
マランゴニ対流を見てみたいんですが、宇宙に行かないと見られないのですか?

河村先生:

そんなことはありません。ここでも、見せてあげられますよ。ちょっとここで、簡単な実験をしてみましょう。ワインをグラスに注ぎます。しばらく待っていると。。。

ピカル:

あっ!グラスに何か模様が見えてきました!

河村先生:

これは、「ワインの涙」といわれる現象です。これもマランゴニ対流が関係しています。表面張力は温度や物質によって変わるといいましたが、水とアルコールでは表面張力が違い、水の表面張力の方が大きく、アルコールの方が小さくなります。さっきのサルの例で言うと、より寒がりのサル(水)とそれほどでもないサル(アルコール)が混ざっているようなものですね。順を追って説明しましょう。

ピカル:

いやあ、なんとなく分かりました。マランゴニ対流って意外に身近なところにもあるんですね。
マランゴニ対流の研究は、きれいな結晶を作る以外にも役に立ちますか?

河村先生:

はい。いい質問ですね。
ピカル君も携帯電話とかパソコンをもっていると思いますが、いまでも、結構暖かくなるでしょう?これからもっと高性能になってくると熱をいっぱい出すようになります。一生懸命冷さないと壊れちゃうけれど、マランゴニ対流をうまく使うともっとよく冷えるようになります。それから、宇宙に人が行くようになると、もっともっとエネルギーをたくさん使うようになりますが、無重力の宇宙で熱を使う時には、浮力対流が起こらないので、マランゴニ対流が、とても役にたつのです。
それから、食品の安全性が最近重要になってきているけど、中に入っている成分を知る化学分析やDNA分析するときは、ほんの少しのサンプルをちょうどいい量だけ取り出すのに、マランゴニ対流を使うことができます。そんなときも、この実験の知識が役立ちます。そのほかにも、表面張力が大切になる場面はたくさんありますから、先生も知らないことを、ピカル君たちがこれからきっと見つけてくれるでしょう。

ピカル:

なるほど、よく分かりました!宇宙で実験したことは、宇宙で役にたつのかと思っていましたが、私たちの日頃の生活にも役立つのですね。先生、今日はどうもありがとうございました!

注1
これを浮力対流という。浮力対流(または自然対流)というのは、液体の密度に差ができ、密度の小さい軽い部分が浮かび、重い部分が沈む浮力差によってできる流れのこと。当然、重力のある地上でしか起きない。

マランゴニ対流実験について、さらに詳しい解説はこちら


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