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2.7 宇宙生物実験(BIO)の結果

(1)実験目的

a) アカハライモリを用いて宇宙での産卵と卵の初期発生におよぼす重力の影響を探る。

b) 生物実験装置を SFU に搭載し、生命維持等の機能を宇宙空間で実現する。

(2)実験方法と装置

 冬眠状態に維持され、体腔内に精子を保持し、徐放性ホルモン剤を投与したアカハライモリの雌を打ち上げ、軌道上で受精・産卵を行わせる。胚の発生状態は回収後に調べ、地上の発生と比較する。

 雌イモリ2体は生命維持循環水系を接続した水槽中に維持される。循環ループには濾過部、熱交換部が、気相部には酸素発生部(超酸化カリウム使用)が組み込まれている。水槽観察窓にはモノクロCCDカメラ、照明用発光ダイオードが取付けられている。水槽は与圧容器に収められると共に、この与圧容器の中にはコマンド、テレメトリ(温度、圧力等)の送受信を行う実験コンピュータも組み込まれ、SFUデータ処理系と結合されている。

(3)実験運用の経緯

 H-II 打ち上げ前から回収に至る経緯は次の通り。

  • 1994年
    11、12月 新潟および岩手でイモリを採取。

  • 1995年
    1月19日 イモリ約100匹を射場に搬入。

  • 2月20日 徐放性ホルモン剤投与。

  • 3月18日  打ち上げ後3時間55分後の測定により打ち上げ前後の22分間の給電断の支障がなかったことを確認。

  • 3月25日 水温を20℃へ上昇。

  • 3月30日 ゼリー層に包まれた卵の画像(図2.7−1)を取得。

  • 4月 6日  実験終了に伴い薬剤溶液による固定を行った。溶液添加未確認のまま凍結した。それ以降−10℃以下の条件で維持。

  • 1996年    
    1月 7日 軌道上最終テレメトリデータ取得。

  • 2月19日SFUより BIO与圧容器を取り出し日本へ持ち帰った。
  • (図2.7−1)

    (4)飛行後の解析

     引き渡し直後の与圧容器内圧は1気圧より若干低く、回収直前の値1気圧より下がっていた。BIOの収納されたペイロードボックス (SPLU-2) はペイロードベイ(貨物室)収納後は舷側より外部に位置しており、太陽光照射時に高温には曝され、また船外活動試験時には寒冷環境におかれることとなって、大幅な温度変化を受けたと考えられる。このため動作圧1.3気圧のリリーフ弁が開いたことにより、回収時に発見された気圧低下が生じたものと推定される。更にこの温度の変化によって生じたと思われる水槽の亀裂が回収後に発見され、飼育水が与圧容器内(図2.7−2)に流出していた。

    (5)実験成果と今後の課題

     軌道上での試料固定は不完全ではあったが、スペースシャトルによる回収まで凍結状態にあり、その後に水槽から水が失われたことで、腐敗なく卵を回収できた。卵・胚は21個あり、図2.7−3のように神経板の形成された胚や、尾芽胚に達したと見られる胚もある。図2.7−4の薄切試料は、桑実胚から胞胚期にあると推定され、胚の形態については地上での発生と変わるところは観察されていない。

    図2.7−3

    図2.7−4

     発生の経過の情報はないが、地上の発生と同様に進んだとすると、回収された胚は受精・産卵から2〜5日を経たものと見ることができる。以上のように発生初期から宇宙環境においても発生の形態的変化は正常に進行すると結論することができる。

     SFUの BIO実験では生体試料の積み込みが打ち上げの3週間以上も前であったにもかかわらず、軌道上での冬眠状態と生命維持に成功した。水槽の亀裂を防ぐには加工歪みを除去する工程・温度管理が必要である。

    2.8 凝固・結晶成長実験 (MEX) の結果

    (1)実験目的

     微小重力環境を利用し、無対流下での凝固・結晶成長中における固液界面近傍の液相中の濃度・温度分布を可視化し、界面形態の形成因子を探る。

    (2)実験装置


     濃度・温度分布を求めるのに干渉計を用いるが、従来の試験光路と参照光路とを分ける Mach-Zehnder 型干渉計は外乱に弱い。これを避けるため剛性を増すと構造重量が増えるので、本実験では両光路を共通とする偏光分割方式を開発した。図2.8−1は観察用の試料セルの模式図である。
    石英ガラスセルに試料として微量のエタノールを混ぜたサリチル酸フェニル(透明)を封入し、両端のメタルブロックを介して接合したペルチェ素子により、試料の加熱、冷却を行う。温度制御用熱電対が THIGH、TLOW、試料測温用熱電対が T1、T2である。

    図2.8−1観察用の試料セル

    (3)実験運用

     試料を溶解させるため THIGH を 70℃、TLOWを 20℃に設定し保持する。地上重力下では対流があるため、4〜5時間の保持で平坦な固液界面、均一溶質が得られるが、微小重力下では10時間程度を必要とする。実験中に加熱、保持を5時間行った時点で温度低下が生ずるという異常が発生した。この時得られた画像を図2.8−2に示す。繰り返し実験を試みたが長時間保持はできなかった。地上で5時間保持した画質確認試験時の画像は明かに固液界面や干渉縞を示しており、軌道上では未溶解部が壁又は液相中に存在して、鮮明な画像が得られなかったと思われる。

    図2.8−2

    (4)飛行後解析

     飛行後に光学系を試験した結果、光路のずれなどは全くないことが確認された。実験中の温度低下は実験制御系の通信に関する異常に起因する。MEXの実験制御器 (MEX/CE) は宇宙生物実験の制御器 (BIO/CEC) を介して SFUコアシステム(SFU-MC)と結合している。両制御器の間の通信の方式は SFU-MC と実験機器間の通信の方式に準拠しており、図2.8−3に示すように、ヘッダーから始まりコマンドないしデータ、最後に BCC が付与される。受信側ではこの信号を受け取り BCC をチェックして正しければ Ack を返信して通信が終了する。実験時間が長く経過すると BIO/CEC より出される送受信確認信号に余分にゼロ信号が付く場合があり、これを MEX では未定義信号と解し MEX/CE が電源を遮断したものである。

    図2.8−3 MEXにおける実験制御系の通信異常

    (5)成果と今後の対応

     宇宙での実験を行うための偏光分割方式による光学系が健全であることを確認できた。制御系の通信異常への対応としては、インタフェースを外乱に強い設計とすることを徹底する必要がある。

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