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2.5 電気推進実験(EPEX)の結果

(1)目的

 電気推進実験(EPEX)はMPDアークジェット(Magneto・plasma・dynamic Arcjet)をスラスタシステムとして搭載し、軌道上で推進機能を確認することを目的とした。

(2)EPEXシステム

 MPDアークジェットはヒドラジンを推進剤として用いる繰り返しパルス型の電気推進の一種で、6kAのアーク放電によって推進剤をプラズマ状態にし、その磁場によって生ずるローレンツ力でプラズマを加速噴射する。軌道上ではSFUから日照時で最大430Wの電力供給を受け、約150μsecのパルス状放電を0.5〜1.8Hzで繰り返す。発生推力は1パルス当たりのインパルスとして約3.6mN・secである。図2.5.1にブロック図を示す。推進剤はガス発生器によってガスに分解して一旦、貯気槽に保持され、パルス状のアーク放電に同期した形で高速電磁弁を開閉することにより、アーク放電部へと供給される。図2.5-2にEPEX実験の搭載状況を示す。


図2.5ー1EPEXシステム・ブロック図


図2.5ー2EPEXの搭載状況

(3)実験運用と結果

 打ち上げ後の1995年3月の実験では推進剤であるヒドラジンの温度・圧力状態、パルス状アーク放電の電源回路であるキャパシタバンクへの充電機能、その他のテレメトリが正常であることが確認された。
 5月の実験では、ヒドラジンの供給動作、繰り返しプラズマ噴射動作が正常であることを確認する一方、SFUの姿勢に与える外乱、即ち発生推力をSFUのNGC系を用いて評価した。その結果、発生推力は地上試験で得られていた値と一致することが確認された。また、貯気槽の圧力ブローダウンにより算定される推進剤消費率からアーク放電時の比推力を求めたところ約1、100秒となり、これも地上試験の結果と一致した。また、噴射プラズマの直近に位置するアンテナを選んで、電波干渉の有無を試験したところ、テレメトリ同期に影響することが判明し、プラズマの存在が確認された。
 6月〜7月の実験では与えられた実験時間を活用し、繰り返しプラズマ噴射を実施した。結果として43、395回の作動回数を達成した。そのうち、ミスファイアの割合は0.3%未満と良好な成績であった。
 7月〜8月の実験では残留ヒドラジンの宇宙空間への投棄、推薬供給系の真空乾燥を実施し、スペースシャトルによるSFUの安全回収に備えた。
 回収後の地上での点検ではEPEXは全て正常であり、推薬供給系のヒドラジン濃度も完全にゼロであることが確認された。

(4)結論

 今回の宇宙実験でEPEXシステムの推進機能が確認されたことにより、MPDアークジェットは将来の宇宙ミッションに適用可能なスラスタシステムとして」の飛行実績を獲得したことになる。

2.6 プラズマ計測装置/環境モニタ(SPDP/SEM)の計測結果

 SFUでは、ガス、プラズマ、電磁場、光学、マイクロGの宇宙環境を総合的・多点的に計測するための2台の宇宙環境計測装置SPDP(Space Plasma Diagnostic Package)とSEM(SFU Environment Monitor)が搭載された。これらの環境計測装置は、SFU上とその周辺に形成される宇宙環境を明らかにするとともに、実験担当者に対し実験結果を評価するために必要な宇宙環境データを提供することを目的としている。SPDPは可視分光器、磁力計、電子密度変動検出器から構成され、SEMは電離真空計、質量分析器、プラズマプローブ、インピーダンスプローブ、波動受信機、マイクロGセンサーから構成される。両環境計測器には宇宙環境下での材料の劣化を調べるためのサンプルが計11枚搭載された。2台の環境計測装置は、95年3月の打ち上げ後から8月末までの実験運用フェーズ中は、実験要求に基づき平均して毎日1〜2時間程度運用され、9月以降の回収準備フェーズにおいても毎週1〜2時間程度定期的に運用された。

 ガス環境は2本の真空計と質量分析器により計測された。太陽指向側(−X方向)に開口をもつ真空計は、真空計内に発生するフォトエレクトロンの影響を受け、日陰中よりも日照中の方が見かけ上真空度が悪い。また、横向きのゲージ(+Z方向)は、太陽指向側のゲージより真空度が悪い。これは、周辺機器からのアウトガスを検知したためと思われる。両ゲージともに、SFUのガス環境は打ち上げ後1ケ月位までは、アウトガスの影響を強く受けていることを示している。質量分析器でも、アウトガス起源と思われる水分子、酸素原子、窒素分子が主要成分として検出された。また、炭化水素系と思われるガスも検出された。

 プラズマ環境は、SEMに搭載した球プローブとSFU上3ケ所に配置した平板プローブをラングミュアプローブ及びフローティングプローブとして計測するとともに、SEM上の円筒プローブをインピーダンスプローブとして計測した。プローブには±2Vの掃引電圧を印加してラングミュア電流特性を取得しプラズマ密度と電子温度を求めた。フローティングプローブによる計測では、日照時SFUの電位が数10V変化することが観測されたが、これは太陽電池パネルの起電力によりSFUの電位が振られたためと推測される。インピーダンスプローブでは、アッパーハイブリッドレゾナンス周波数の検出によりプラズマ密度が精密に求められた。

 電磁環境は、SEMに搭載した球プローブとSFU上3ケ所の平板プローブをモノポールアンテナとして2台の波動受信機で計測するとともに、SPDPの電子密度変動検出器と磁力計により計測した。波動受信機では低周波領域でブロードバンドの波動が殆ど常時観測された。これは、スペースシャトルオービタでこれまで観測されている低周波ブロードバンド静電波動(BOGESと名付けられている)に対応した静電波動である可能性が高い。電子密度変動検出器では、チャンネルトロンと平板プローブで計測したダイナミックスペクトルによりプラズマ波の波数を求めることができた。磁力計で計測された地球磁場は、モデル磁場IGRFから幾分ずれているが、これは磁気トルカの影響を受けたものと考えられる。

 光学環境は、可視分光器により計測され、スラスター噴射に対応したオーロララインの発光現象や地球大気光が検出された。また、半透明の材料劣化試料の下に組み込まれたレーザー光の強度を計測して、材料表面の変質を約半年にわたって観測した。金とアルミニウムの蒸着膜は次第に欠損して透過光が増加するのに対し、ユーピレックス膜の透過光は表面劣化により次第に透過光が減少した。これらは、実験室での模擬実験の結果と一致している。

 マイクロG環境は、SEM内部とペイロードユニット内4ケ所に搭載したサーボ加速度計により計測された。X、Y、Z各軸毎に特徴をもつ振動(Gジッター)が検出され、この振動の強度には軌道周回に同期した変調がかかっていることが見いだされた。Gジッターは主として10Hz以上の帯域に存在した。SFUで計測されたマイクロGレベルの変動を、スペースシャトルのデータ、ユーレカのスペック、宇宙基地で推薦されているスペックと比較した例を図2。6に示す。SFUでのマイクロG環境は、スペースシャトルよりも高品質で、宇宙材料実験の一般的なスペックを充分満足していることがわかる。


図2ー6 SFUとスペースシャトルとのGレベルの比較(典型例)

 材料劣化研究試料として、炭素繊維、金蒸着フィルム、ポリフェニレンスルフィド炭素繊維強化樹脂、フッ化マグネシウム蒸着フィルム、カプトン、テフロン、酸化ケイ素蒸着フィルム、ポリイミドフィルムのサンプルが搭載された。回収後、表面反射光学顕微鏡による表面観察を行い、表面形状の変化をmm〜μmの精度で調べた。カプトンの劣化が著しいのに対し、炭素繊維や炭素繊維強化樹脂の劣化は少なかった。金蒸着膜の原子間力顕微鏡ならびに摩擦力顕微鏡による測定では、エッチングは認められないが会合によって金蒸着粒子の粒子径が大きくなっていることが認められた。カプトン表面は原形を留めない程度までエッチングされていた。テフロン表面の非晶部分は選択的にエッチングされた可能性が高い。酸化ケイ素表面はエッチングされ、粒子径の大きなものが残っていることが観察された。

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