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2.1 実験システムの概要

 SFU には4実施機関の下記の実験・観測装置が搭載された。

宇宙科学研究所:

  • 宇宙赤外望遠鏡(IRTS)
  • 2次元展開/高電圧ソーラーアレイ(2D/HV)
  • 電気推進実験(EPEX)
  • プラズマ計測装置(SPDP)
  • 宇宙生物実験(BIO)
  • 凝固・結晶成長実験(MEX)
  • 宇宙開発事業団:

  • SFU搭載実験機器部(EFFU)
  • 気相成長基礎実験装置(GDEF)
  • 新エネルギー・産業技術総合開発機構/無人宇宙実験システム研究開発機構:

  • 複合加熱炉(GHF)
  • 焦点加熱炉(MHF)
  • 単熱炉(IHF)
  •  これらの実験・観測装置は図2.1-1のようにSFU構体に取付けられた。宇宙空間への曝露を要する2D/HV、SPDP、EFFU(含:GDEF)は構体上面(-X面)に搭載され、宇宙への視野角や視野方向に特殊な要求のある実験・観測機器であるIRTSは視野中心軸をX軸に垂直にし、又、EPEXは推力軸をX軸に垂直にして搭載された。EPEXを含む他の実験は図2.1−1のようにペイロードボックス内に搭載された。

    図2.1-1 SFU搭載実験


    2.2 実験・運用の経過

     SFU実験ではリソース(重量・電力、実験時間等)を関係三機関に等配分するため、各実験のサクセスレベルをミニマムレベル、サクセス(ノミナル)レベル、サフィシェントレベル、エキストラレベルの4段階に分け、できる限りレベルを揃えて実験が進められるように計画した。

     図2.2−1に実験運用の経過を示す。3月26日から3月29日にかけて実験・観測機器のチェックアウトを行い、全実験がミニマムサクセスレベルをクリアしたことを確認した。3月30日より4月26日までは宇宙科学研究所の宇宙赤外線望遠鏡(IRTS)と宇宙生物実験(BIO)のサクセスレベルの観測及び実験に着手した。IRTSでは極低温・超流動液体ヘリウムの寿命を、また BIO では産卵期の迫っていたイモリを使用していることを配慮したものである。その後は各機関の実験のサクセスレベルが揃うように順次実験の運用を行った。


    図2.2−1 SFU実験実施経過

     観測・実験の完了後には、IRTSサンシェードの投棄、2次元展開/高電圧アレイ(2D/HV)プレッシャーボードのロック、及び電気推進実験(EPEX)の残留ヒドラジン投棄などの NASA安全性の対象となる作業をとどこおりなく完了した。また、実験期間中のコアシステム運用は正常で SFUは安定して飛行した。

    2.3 宇宙赤外線望遠鏡 (IRTS) の成果概要

     IRTSの観測では実験の全期間にわたって観測機器は全て正常に働き、液体ヘリウム(絶対温度2K)で冷却された検出器により波長1mmから800mmの間の広い赤外線領域にわたって高感度の観測を行い、予定した以上の天空範囲にわたって良質で大量のデータを取得した。現在データ解析は一部に限られているが、既に多くの興味深い成果が得られている。以下に概要を示す。なお、IRTSの開発は、宇宙研、名古屋大学、東京大学などの国内の研究者に加えて、米国NASA Ames研究所、カリフォルニア大学の研究者の参加のもとに進められた。

    (1)宇宙空間に普遍的に広がる有機物質の観測

     IRTS に搭載された近、中間赤外線分光器によって天の川銀河の星間空間中に特徴的なスペクトル(図2.3−1)が観測された。このスペクトルは図2.3−2に示すようなベンゼン環をたくさん含んだ多環式芳香族炭化水素 (PAH: Polycyclic Aromatic Hydrocarbon) に特有なものであり、有機物の存在を示すものである。

    図2.3-1 IRTSによって観測された銀河面のスペクトル
    有機物質起源と考えられるバンド構造が波長、3.3、6.2、7.7、8.6、11.2ミクロンに認められる。

    図2.3-2 各種多環式芳香族炭化水素;PHAの予想されるスペクトル。最上段図中の数字は天体から観測される波長を示す。各図の左側に分子構造が示されている。

     図2.3−3はIRTSで観測されたPAHの示す特徴的なバンド(3.3、6.2、7.7、8.6、11.3ミクロン)の天の川の中での強度分布を示したものである。このあたりの天の川にはW51と呼ばれる星形成領域(中央)があるが、この領域に限らず、広く天の川空間全体にこの放射が認められる。これまでこの種のスペクトルは惑星状星雲等の個々の天体において観測された例はあるが、このように銀河面全域に広がっていることが確認されたのはこれが初めてである。また、PAHの分布は星間塵(100ミクロン)、星間ガスとの相関が極めて良く、このことは有機物が星間空間中に他の物質と共存して普遍的に存在していることを示している。


    図2.3-3 有機物質(多環芳香族炭化水素)が放射する様々な赤外線スペクトルで見た銀河面
    (星形成領域W51(中央)の周辺の銀河面)
    100ミクロンはシリケイトなど無機物質の放射する赤外線

     IRTS による PAH 放射の発見は太陽系が形成される以前にすでに宇宙空間には有機物(PAH)が存在していたことを示唆しており、生命の起源の問題にとっても興味深い発見として注目される。

    (2)宇宙初期における星・銀河形成の痕跡の観測

     ビッグバン以降始めて星や銀河の生まれる過程は今でも謎として残されているが、その痕跡が赤外線領域に現われるのではないかと考えられている。IRTSには近赤外域に非常に感度の高いしかも分光機能を備えた観測器が搭載されており、これによって今までにない精度の高い観測に成功した。現在データの解析中であり、今後の成果が期待される。

    (3)その他

    ・黄道光の精密なスペクトル観測にも成功により、その成因に新たな知見を提供した。

    ・遠赤外観測において宇宙の電離した炭素の分布を観測した。

    ・新たに絶対温度数度という低温の宇宙塵の存在を示唆するデータを取得した。

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