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2.11 複合加熱炉(GHF)の実験結果


 複合加熱炉は3個のヒータゾーンにより温度勾配を形成し、一方向溶融凝固等の結晶成長が可能な電気炉である(図2.11−1)。
 SFUでは複合加熱炉を用いて4件の化合物半導体結晶成長実験を実施した。軌道上での実験期間において4実験で11個の実験試料の成長実験を計画通り実施した。全ての実験試料が宇宙で溶融・凝固し、結晶成長が行なえた。
 今後、さらに詳細な結晶評価を進めるととも微小重力における結晶成長の総合的検討を行う予定である。

図2.11−1複合加熱炉(Gradient Heating Furnace)

(1)電気炉

 計画した11ケースの実験が所定の温度プロファイルが所定通り行われた。また、試料交換装置、炉移動機構も正常に動作した。
 回収後の飛行後点検の結果、装置の劣化や異常等はなく、宇宙環境で正常に動作し、宇宙環境利用実験装置の開発に成功した。

(2)実験

     (a)気相成長法によるInGaPの薄膜結晶成長

 結晶成長量の輸送剤量依存性から、地上では対流が、宇宙では拡散が支配的な輸送機構となっていることが明らかとなった。
 地上では石英アンプル内圧が高い(輸送剤量が多い)場合は、成長膜厚及び結晶組成比が重力方向に分布するのに対し、宇宙では輸送剤量に依存せず面内で膜 厚、組成とも均一となることが明らかとなった。(図2.11−2)


図2.11−2 InGaPの膜厚分布(宇宙と地上の比較)

     (b) 気相成長法によるCdTeの薄膜結晶成長

 アンプル管壁への結晶析出が微小重力下成長では均等になり、地上での重力の影響による管壁上部への大部分の析出とは異なっていることが判明した。
 また、成長した結晶の結晶粒径の大きさは地上のものに比べ均等になり、地上での結晶析出の不均一性は、対流に起因することが分かった。

     (c) ブリッジマン法によるGaAsの結晶成長

 成長した結晶の固液界面形状は地上の場合よりもはるかに平坦に近かった。その形状は定常熱伝導の数値シミュレーションより予測された形状と良く一致していた。このことから、対流の発生が宇宙空間では十分抑制できたものと考えられる。

     (d) ブリッジマン法によるInPの結晶成長

 断面マクロ及びミクロ組織評価から、成長結晶の長さは、その中心部においてノンドープ材で約3mm、ドープ添加材で約2mmであった。
 成長結晶には双晶が存在し、それは結晶の外周部から多く発生していた。組成分析では組成のバラツキは認められなかった。


2.12 焦点加熱炉(MHF)の実験結果


 焦点加熱炉は回転楕円面ミラーの一つの焦点に熱源となるハロゲンランプを置き、他 の一つの焦点に試料をおいて高温に加熱する。炉を移動することにより帯域溶融法での 結晶成長等が可能である(図2.12−1)。
 SFUでは2件の化合物半導体結晶成長 実験を実施した。軌道上での実験期間において2実験で6個の実験試料の結晶成長実験 が実施できたと共に、全ての実験試料が宇宙にて溶融・凝固し、結晶成長が行われたことを確認した。

図2.12−1焦点加熱炉(Mirror Heating Furnace)

(1)焦点加熱炉におけるハロゲンランプは6個の実験で合計569時間の加熱実験を実施でき、長時間での正常動作を確認することができた。
 また、試料交換装置、炉移動機構、試料回転装置も正常に動作した。

(2)実験

(a)THM法によるInGaAsの結晶成長

 ヒータ移動法(Travelling Heater Method)による結晶成長実験を実施し、計画通り実験を完了した。混晶バルク結晶成長への微小重力効果を明らかにすることを目的として評価を進め、これまでに、結晶組織、成長縞、巨視的な混晶組成分布についての評価結果を得た。
 その結果、地上では試料回転条件で成長した場合に見いだされた結晶中心部から発生する双晶が、宇宙実験では大幅に低減することが確認された。
 また、地上では試料回転の有無に関わらず常に種結晶界面近傍に発生していたセル成長が、宇宙では発生していないことも確認できた。
 更に、巨視的な混晶組成分布をみると、宇宙では地上に比べ組成変動が小さくなっていることが確認できた。セル成長のような固液界面形状の不安定性減少に伴って組成が変動する効果が消失した結果と考えられる。(図2.12−2)

図2.12−2 InGaAsの宇宙成長結晶

(b) THM法によるInPの結晶成長

 溶液成長法の一種であるTHM法により実験を行い、実験の対象とした3試料とも宇宙で結晶成長が行われた。そのうち1試料についての評価解析では、地上で見られるような不純物縞がなく成長の長さも5.8mmと地上のものより2倍以上も長いものが得られた。成長長さが長くなるのは数値計算結果と良く一致し、組成的過冷却が宇宙でも地上でも重要な因子であることがわかった。
 また、赤外線透過像による解析ではキャリア濃度分布評価から成長初期には拡散支配の状態で結晶成長が行われたことが確認できた。今後、さらに詳細な結晶評価を進めるととも微小重力における結晶成長の総合的検討を行う予定である。

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